機械からの窃取は窃盗罪となる
機械から現金などの財物を奪った場合は、窃盗罪が成立します。
たとえば、
- ATMから他人のキャッシュカードを使って現金を不正に引き出す
- パチンコ台から不正な手段を使ってパチンコ玉を排出させる
といった行為がこれに当たります。
機械から財物を窃取すると、どのような考え方で窃盗罪が成立するのかについて、判例を使って説明します。
ATM機から現金を不正に引き出した場合は窃盗罪が成立する
キャッシュカードやキャッシング機能のあるクレジットカードを、正当な使用権限がないのに、正当な権限者と同様に用いて、現金自動支払機(ATM機)から現金を引き出す行為は、窃盗罪を構成します。
正当なカード利用者をよそおうという欺きの行為を使って、現金を不正に引き出しているので、詐欺罪が成立しそうな気もしますが、詐欺罪は成立しません。
詐欺罪が成立しない理由は、
欺く行為は、人間に対してのみ行うことができる行為であり、機械を欺くという考え方は採用し得ない
ことから、詐欺罪は成立しないとされます。
逆に、窃盗罪が成立する理由は、
現金が収められている機械に対し、不正な情報を与え、不正に操作して現金を取り出す行為は、金庫の鍵を用いて金庫から現金を取り出す行為と同様に評価し得る
ことから、機械から現金を窃取する行為は、窃盗罪を成立させます。
ATMから現金を不正に払い戻した行為を窃盗罪と認定した判例
消費者金融会社の係員を欺いて、他人名義でローンカードの交付を受けた上、そのカードを使って現金自動入出金機(ATM機)から現金20万円を引き出した事案について、裁判官は、
- 係員を欺いてローンカードを交付させた点につき詐欺罪の成立を認めるとともに,ローンカードを利用して現金自動入出機(ATM機)から現金を引き出した点につき窃盗罪の成立を認めた原判決の判断は,正当である
と判示し、係員を欺いてローンカードを交付させた点について詐欺罪が成立するとし、ATMから現金20万円を引き出した点について窃盗罪が成立すると判断しました。
東京高裁判例(昭和55年3月3日)
盗んだ他人名義のキャッシュカードを利用し、銀行のATM機から現金を引き出した事案について、裁判官は、
- 被告人の欺罔により被害者の誤信による現金の交付があったものではない
- 被告人が、カードを利用して、ATM機の管理者の意思に反し、管理者の不知の間に、その支配を排除して、ATM機の現金を自己の支配下に移したものである
- よって、カード利用による現金の窃盗罪が成立するというべきである
と判示しました。
東京高裁判例(平成10年12月10日)
被害者をだまし、だまされている被害者から1000万円をATM機から引き出す依頼を受けた犯人(被告人)が、被害者からキャッシュカードを受け取り、銀行のATM機から現金を引き出した事案について、裁判官は、
- キャッシュカードを受け取った事実が詐欺罪に当たることは明らかであるところ、被告人は、預金者から1000万円を引き出すことの依頼を受けていたとはいえ、これは被告人の詐欺の結果によるものであるから、預金者の任意かつ真摯な依頼があったとはいえず、被告人はキャッシュカードを使用する正当な権限を有していなかった
として、キャッシュカードの詐欺罪と、ATM機からの現金を引き出した窃盗罪が成立すると判断しました。
パチンコ玉をパチンコ台から不正に排出させた場合は窃盗罪が成立する
パチンコ玉を不正に取得するために、投入した玉が当たり穴に入ったかのような工作(いわゆる「ゴト行為」)をして、パチンコ玉を排出させて奪った場合は、窃盗罪が成立します。
工作の方法として、
- 磁石を用いて玉を当たり穴に誘導する
- 玉に銀紙を巻いてアウト穴に流入しないようにしてアウト穴を塞いだ後、順次投入した玉を当たり穴に届くまで積み上げる
などがあります。
工作を行っているので、詐欺罪が成立しそうな気もしますが、パチンコ玉の占有者(経営者など)を欺き、錯誤に陥らせてパチンコ玉を奪取していないため、詐欺罪は成立しません。
人をだますことなく、工作を用いてパチンコ玉を奪取しているので、窃盗罪が成立するという考え方になります。
パチンコ玉を不正に取得した事案について窃盗罪の成立を認めた判例
磁石を用いて遊技場のパチンコ機械から玉を取る行為について、裁判官は、
- たとえ、その目的がパチンコ玉を景品交換の手段とするものであったとしても、経営者の意思にもとづかないで、パチンコ玉の所持を自己に移すものである
- しかもこれを再び使用し、あるいは景品と交換すると否とは自由であるから、パチンコ玉につき自ら所有者としてふるまう意思を表現したものというべきもので、いわゆる使用窃盗とみるべきではなく、パチンコ玉に対する不法領得の意思が存するものと解するのが相当である
- それゆえ原判決が被告人の本件所為を窃盗罪にあたるとしたのは正当である
と述べ、窃盗罪の成立を認めました。
この判例で、裁判官は、
- パチンコ玉はそれ自体相応の経済的価値を有し、財産的評価の対象となり得るものである
- したがって、パチンコ玉は明らかに独立して財産権の目的となる
- 被告人は、パチンコ玉の経済的価値を自由に支配する意図の下に、パチンコ機に対し磁石を用い、パチンコ玉を当り穴に誘導落し入れてパチンコ機を作動させ景品玉を流出させる方法によりパチンコ玉約400個を取得したものである
- これは被告人が不正領得の意図の下に、権利者の事実上の支配を排除して、ひそかにパチンコ玉を自己の支配に移したものであるにほかならない
- 故に窃盗罪の成立を認め得るは当然である
と判示しました。
被告人の弁護人は、被告人が磁石を用いてパチンコ玉の所持を自己に移した点について、その目的はパチンコ玉を景品交換の用具に用いるために一時使用するに過ぎないもので、パチンコ玉そのものを領得しょうとする意思はないのであるから、窃盗ではなく、詐欺未遂罪が成立すると主張したのに対し、裁判官は、
- 不法領得の意思とは、権利者の物に対する支配を排除し、これを自己の所有物として、その所有権の内容を実現する意思にほかならない
- なので、たとえ目的はパチンコ玉を景品交換の用具に供するにあったとしても、それは所有者の意思に基かず磁石を用いてパチンコ玉の所持を自己に移すものであり、しかもそのパチンコ玉を景品と交換すると否とは自由である
- よって、かくの如きは、すなわちパチンコ玉の所有者の支配を排除して、その所有権の内容を実現するものというべきである
- これをいわゆる使用窃盗とみるべきではなく、パチンコ玉に対する不法領得の意思が存するものと解するのが相当である
- されば、原判決が原判示事実を窃盗罪を以て問擬(もんぎ)したのは相当であって、所論のような擬律錯誤の違法は存しない
と述べ、窃盗罪の成立を認めました。