刑法(窃盗罪)

窃盗罪⑳ ~「ひとまとまりの財物に対して、窃盗の故意が及ぶ範囲」を判例で解説~

ひとまとまりの財物に対して、窃盗の故意が及ぶ範囲

 ひとまとまりの財物(たとえば、財布など多数の物が入ったバッグなど)を窃取した場合は、その中に含まれる財物の種類数量などの詳細を認識していなくても、その全体について窃盗の故意が認められます。

 窃取した物の中に、犯人の予期しない物が含まれていても、予期しなかったというだけで、予期しなかった物に対して、窃盗の故意を欠くという結論にはなりません。

 たとえば、財布を盗む目的で、財布が入っていると思われるバッグを窃取したところ、バッグの中に、財布のほか、犯人が盗むことを予定していなかったスマートフォンが入っていた場合、そのスマートフォンに対しても窃盗の故意は否定されず、窃盗罪が成立します。

 この場合、犯人は、バッグ、財布、スマートフォンを盗んだとして、窃盗の罪に問われます。

 この点については、以下の判例があります。

東京高裁判例(昭和30年3月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、拳銃を窃取しようとする故意をもって、これを不法に領得したところ、たまたま拳銃中には実包6発が含まれていたというのであるから、実包を含めた全部につき窃盗罪の成立を認めるのにいささかも誤りはない

と判示し、拳銃のほか、実包についても窃盗罪の成立を認めました。

東京高裁判例(昭和30年12月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • 金品在中の財布であることを認識しながら、他人の財布を窃取した以上、その財布及び在中の金品全部について窃盗罪が成立するのは当然である
  • その財布の中に小切手が入っていたことに、被告人が気付かなかったとしても、それは被告人が不注意で気付かなかっただけのことで、在中の金品全部について領得の意思があったものと認めるのが相当である

と判示し、財布を盗んだ場合に、財布の中に入っている物すべてを窃取品とする窃盗罪が成立するとしました。

東京高裁判例(昭和27年5月31日)

 他人の自転車に取りつけてある発電ランプやベルが欲しくて、その自転車を置いてあった場所から持ち出し、遠からぬ場所で発電ランプとベルのみを取り外して持ち去り、自転車はそこに置き去りにした事案について、自転車全体について窃盗罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 刑法上1個の財物と見られるものについては、たとえその一部だけその経済的用法に従い利用し又は処分する意図を有したにすぎない場合、すなわち厳密にいえば不正領得の意思が財物の一部について存するに止まる場合であっても、またその部分が比較的小部分であるにしても、窃盗罪はその財物全部について成立するものと解すべきである

と判示しました。

東京高裁判例(昭和28年5月23日)

 裁判官は、自転車の荷台に積んであった荷物を盗む目的で、自転車ごと持ち出し、自転車のみ放置した事案について、荷物に加え、自転車についても窃盗罪の成立を認めました。

東京高裁判例(昭和29年11月20日)

 パチンコ玉について、正当に買い受けた玉25個と、持参した偽玉少くとも145個を使用してパチンコをし、303個の玉を取得し、この303 個については、いずれが正当な玉による取得で、いずれが偽玉による取得か区別の不可能な事案について、裁判官は、

  • このような場合には、全部の玉を全体として観察するほかなく、そして偽玉と正当な玉との比率は145個に対し25個であるから、かくのごとき比率から見て、ほとんど全部が偽玉によるものといっても差支えないような場合には、打ち出された玉も大部分が偽玉によったものと見るのを相当とする

と判示して、303個のパチンコ玉全部について、窃盗罪の成立を認めました。

東京高裁判例(昭和30年7月11日)

 この判例は、上記パチンコ玉の判例に関連した判例です。

 正当に取得したパチンコ玉と不正に取得したパチンコ玉を一緒にして景品と引き換えた事案で、不正取得のパチンコ玉に関する部分にのみ詐欺罪が成立するとしました。

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