態度・行動による害悪告知と脅迫罪の成否
言動ではなく、態度や行動が脅迫に当たると評価され、脅迫罪(刑法222条)の成立が認められることがあります。
態度・行動により害悪告知が行われた場合、その態度が意味するところを評価し、脅迫に当たるか否は、具体的・客観的状況を考慮して判断されます。
参考となる判例として、以下の判例があります。
仙台高裁秋田支部判決(昭和27年7月1日)
この判例は、犯人が深夜被害者の寝ている寝室付近で杉の葉に点火して燃焼させた行為について、放火の通告とみるべき客観的状況が存在したとし、脅迫罪の成立を認めました。
裁判官は、
- 被告人は、Yを脅かすため、Yの寝室付近で枯杉葉に点火燃焼させたのであるから、被告人はYが右点火燃焼を覚知し、被告人との関係から、右は被告人の行為であると察知することを期待していたことはもちろんである
- しかも、この期待は、吾人の経験則からみて当然であるし、現にYは、即刻右点火燃焼を覚知し消火につとめ、その翌朝、右は被告人の所為であろうと推測したものであることを右点火の時間及びその地点などと考え合せてみると、右の点火をもって放火の通告と見るべき客観的状況がなかったものとなすことはできない
- すなわち、被告人には、右の枯杉葉に点火燃焼させることによって、Yに対し、もし被告人の要求に応じないときは、その住家などに放火すべき旨の未然の通告をなす意思があったものであり、かつ、この意思を推測させるような客観的状況も存在したものとみるべきであるから、被告人の本件所為は、Yに対する脅迫罪を構成するものとなさざるを得ない
と判示しました。
福岡地裁判決(昭和34年2月20日)
この判例は、「共有山林をお前の家に半分給与することなどは、誰にも聞いていないが真実か」などと血相を変えて申し向け、立て膝で迫ったという行為は、相手方に威圧感ないし恐怖感を抱かしめたとしても、この言動のみをとらえて身体に暴力を加える意思の表示とは認められないとし、脅迫罪は成立しないとして、無罪を言い渡した事例です。
裁判官は、
- 刑法脅迫の罪は、相手方を威怖させるに足る害悪を生命、身体、自由、名誉又は財産の各法益に対して加える旨を告知するによって成立するのであって、言語によると動作によるとを問わない
- しかし、たとえ相手方に威圧感、圧迫感等の被害感情を生ぜしめ、又は叱咤怒号したとしても、相手方又はその親族の叙上各法益に害悪を加える告知を包含するものと認められない限り、脅迫罪は成立しないものと解さねばならない
- Hに対する被告人の前示言動は、確かにHに対し、威圧感ないし恐怖感を抱かしめるであろう
- しかし、自己の財産の死守に汲々としていた短気の被告人として自己の意に逆らう言辞を耳にして、直ちに興奮怒号することはある程度やむを得ないものというべきである
- 単にその場合の前記言動のみを捉えて害悪の告知ありと為すは、いささか行き過きであって、他に被告人がHの身体に暴力を加える意思の表示と認めるべき明確な言動の認められない右の場合は、究局、害悪の告知あることを窺うに足る証拠が存在しないことになる
と判示し、脅迫罪の成立を否定しました。