刑法(脅迫罪)

脅迫罪(21) ~「害悪の告知の方法③(暗示的方法)」を判例で解説~

 前回の記事の続きです。

害悪の告知の方法(暗示的方法)

 脅迫罪(刑法222条)で実際に行われる害悪の告知の方法を挙げると、

  1. 言葉による方法
  2. 態度、動作による方法
  3. 暗示的方法
  4. 第三者を介した告知

に分類することができます。

 この記事では、「③暗示的方法」について詳しく説明します。

 害悪の内容を具体的に明示することなく、言外にほのめかしたり、暗示的な表現を用いる方法で行われるケースがあります。

 具体的事例として、以下の判例があります。

  • 犯人が被害者に対して馬耕を中止せよと迫り、ナイフを取り出して「中止しなければ馬の手綱を切るぞ」と怒鳴りつけ、単に馬の手綱を切るだけでなく、被害者の身体・財産に危害を加えるべきことも暗示した事案で、脅迫行為を肯定した事例(大審院判決 昭和7年4月25日)
  • 市会の公金の分配に関する決定について、市会議長に対し、再考を促すため決議書と議長の名前を記入した位牌を議長の内縁の妻を介して交付した事例(大審院判決 昭和8年11月20日)
  • 犯人が杉葉に点火して燃焼させたことにより、被害者に、要求に応じなければその住家に放火する旨の未然の通告があったとみられるとした事例(仙台高裁秋田支部判決 昭和27年7月1日)
  • ジャックナイフを面前に差し置き、「俺と勝負しろ」などと言った事例(福岡高裁宮崎支部 昭和27年10月22日)
  • 警察官に対して「お前はSの子分か、死刑台に立ちたいか」と告げた事例(札幌高裁判決 昭和29年7月8日)
  • 警察官に対して「人民裁判でまたあおう」と告げた事例(東京高裁判決 昭和29年9月9日)
  • 短刀又は木刀を条件として表示して決闘の申込みをする果たし状を差出人を記載せず郵便葉書で郵送した事例(仙台高裁判決 昭和32年2月28日)

告知者と害悪を加える第三者との関係も暗示的に伝えれば足りる

 第三者による加害の場合には、害悪の発生に対して、告知者が第三者に影響を与えうる関係にあることが必要になります。

 告知者が第三者に影響を与えうる関係がありことについても、被害者に暗示的に知らせれば足ります。

 具体的事例として、以下の判例があります。

  • 「お前を恨んでいる者は俺だけじゃない、何人いるか分からない。駐在所にダイナマイトを仕掛けて爆発させ、あなたを殺すと言うている者もある。俺の仲間はたくさんいて、そいつらも君をやっつけるのだと相当意気込んでいる」などと申し向けた事例(最高裁判例 昭和27年7月25日
  • 選挙中に候補者の元町長宅に火炎瓶が投げ込まれた事件の後に、「天誅ついに下る。天人ともに許さざる売国奴に町民の怒り爆発。元町長宅は英雄的な町民により襲撃された。反省しない限り追撃の手が伸びるだろう」などと記載したビラを頒布した事例(最高裁判例 昭和33年4月22日)
  • 警察官に対して「人民裁判でまたあおう」と告げた事例(東京高裁判決 昭和29年9月9日)

次回記事に続く

 次回の記事では、「害悪の告知の方法④(第三者を介した告知)」について説明します。

脅迫罪(1)~(35)の記事まとめ一覧

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