前回の記事の続きです。
害悪の告知の方法(第三者を介した告知)
脅迫罪(刑法222条)で実際に行われる害悪の告知の方法を挙げると、
- 言葉による方法
- 態度、動作による方法
- 暗示的方法
- 第三者を介した告知
に分類することができます。
この記事では、「④第三者を介した告知」について詳しく説明します。
害悪の告知の方法は、行為者みずから相手方に通告する方法以外にも、他人を介して間接的に通告する方法も含まれます。
具体的事例として、以下の判例があります。
映画館の経営者である被告人が、S社の映画を地域の青年団が小学校で上映する計画であることを知り、青年団幹部に対し、「その映画はS社に権利金を納めてあり、上映する場合はS社との契約によりフィルムを没収する」などといって交渉していたところ、被告人が、「若い者30名を連れて小学校にフィルムを没収に行く」旨を警察署に対して電話したという事案です。
裁判官は、
- 警察署から青年団側に告げられるであろうことは被告人が十分認識していたと推測され、警察署への告知内容は警察から青年団幹部に告知されていることが認められる
- 脅迫罪における害悪の告知は被害者に対し、直接になす必要なく、被告人において、脅迫の意思をもって害悪を加うべきことを知らしめる手段を施し、被害者が害悪を被るべきことを知った事実があれば足る
と判示し、警察官を介して行った被害者に対する脅迫行為であるとし、脅迫罪の成立を認めました。
このほかの他人を介しての害悪の告知をし、脅迫罪を認めた事例として、以下の判例があります。
- 共同絶交の決議を被害者の養父に通告し、養父人から被害者に通告させた事例(大審院判決 大正13年6月20日)
- 「売国奴の番犬、A巡査をたたき出せ」「来るべき人民裁判によって裁かれ処断されるだろう」などと記載したビラを駐在所付近で付近住民らに頒布し、駐在所の巡査に入手させた事例(最高裁判決 昭和29年6月8日)
- 村八分の事案に関し、部落民集会の公開の席上で申合せをし、全部落結で結束をして被害者との一切の交際を断ち、仲間外しにすることを居住者一般に周知させる状態に置き、被害者が集会に出席した長男からそのことを聞いた事案で、害悪の告知がなされたといえるとした事例(福岡高裁判決 昭和29年3月31日)
- 「殺してやる」と言いながら包丁を持ち出したときには、既に被害者は第三者からその旨知らされて遠くに逃げていた事案で、第三者を介して害悪の告知があったとした事例(広島高裁岡山支部判決 昭和29年10月19日)
- 映画館の玄関で入場券売場従業員であった被害者に金槌と角棒を持って「君子出てこい。殺してやる」などと叫んだが、被害者は聞いておらず、玄関に出ていた支配人から被害者がそれを聞いて知ったという事例(東京高裁判決 昭和35年12月26日)
- 拘置所内で在監者が脅迫文書を作成し、拘置所側の検閲を経て発信した事案につき、脅迫罪の成立を認めた事例(東京高裁判決 昭和53年9月13日)