刑法(脅迫罪)

脅迫罪(25) ~「差出人不明の手紙による脅迫でも脅迫罪は成立する」「偽名を用いた文書による脅迫でも脅迫罪は成立する」「脅迫者の身分を被害者が誤信した場合でも、脅迫罪は成立する」を判例で解説~

差出人不明の手紙による脅迫でも脅迫罪は成立する

 差出人不明の手紙で脅迫した場合でも、脅迫罪(又は強要罪)は成立します。

 具体的事例として、以下の判例があります。

仙台高裁判決(昭和32年2月28日)

 短刀又は木刀を条件として表示して決闘の申込みをする果たし状を、差出人を記載せず郵便葉書で郵送した行為について、脅迫罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和16年2月27日)

 「拾い主は理髪店に届けよ、同店主は文意を人に伝えよ、そうしなければ拾い主または理髪店主方(※方:家の意味)に放火する」と記載した無名の落し手紙をした行為について、強要罪(刑法223条)の成立を認めました。

山形地裁判決(昭和39年9月8日)

 一家を毒殺するなどとの差出人不明の手紙を3回連続して郵送した行為について、脅迫罪の成立を認めました。

偽名を用いた文書による脅迫でも脅迫罪は成立する

 偽名を用いる場合には、本来の文書の名義人とは異なる名義人を表示した場合でも、一般人をして、文書の形式、内容から畏怖させるに足るものであれば、脅迫の手段となり得、脅迫罪が成立します。

 参考となる判例として、次のものがあります。

広島高裁岡山支部判決(昭和30年2月8日)

 「岡山地方検察庁刑事記録室」を作成名義として偽造した検察庁への呼出状を送付した行為について、脅迫罪の成立を認めました。

脅迫者の身分を被害者が誤信した場合でも、脅迫罪は成立する

 脅迫者が、被害者に対し、直接、害悪を告知する場合でも、 脅迫者自身が誰であるかについての被害者の誤信を利用して畏怖心を生じさせる場合があります。

 脅迫者が誰であるかについて、被害者が誤信した場合でも、脅迫罪は成立します。

 参考となる判例として、次のものがあります。

東京高裁判決(昭和22年9月30日)

 脅迫者が、自身が占領軍に関係がある者のように装い、物資隠匿者に、「占領軍は子供でも引っ張るから子供の処置をつけておけ」「明日午後1時までにはMPが来て拳銃2発を射つから動いてはならぬ」などと申し向けた行為について、脅迫罪の成立を認めました。

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