脅迫罪(刑法222条)と他罪との関係について説明します。
公務執行妨害罪との関係
脅迫罪と公務執行妨害罪(刑法95条1項)の関係について説明します。
罪一般的に、脅迫が手段として構成要件要素になっている他の罪が成立する場合には、脅迫罪は成立しません。
なので、脅迫を手段として公務執行妨害罪を行った場合には、脅迫罪は公務執行妨害罪に吸収され、公務執行妨害罪のみが成立します。
この点について以下の判例があります。
大審院判決(昭和4年10月28日)
脅迫罪と公務執行妨害罪との関係について、裁判官は、
- 公務員の職務を執行するに当たり、 これに対して脅迫を加えたときは、刑法95条に該当し、脅迫の点は、脅迫罪の構成要件中に包含されるものであり、別に刑法222条に触れることなく、刑法95条1項の罪を構成するにとどまる
と判示し、脅迫罪は公務執行妨害罪に吸収され、公務執行妨害罪のみが成立するとしました。
職務強要罪との関係
脅迫罪と職務強要罪(刑法95条2項)の関係について説明します。
脅迫行為が公務員に職務をするよう強要する職務強要罪に該当する場合には、脅迫罪は職務強要罪に吸収され、職務強要罪のみが成立します。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(昭和8年7月27日)
暴力行為等処罰に関する法律1条の共同脅迫の罪の事案で、数人共同して町長を辞職させるため暴行・脅迫をした行為が、職務強要罪に該当する場合には、脅迫罪は成立しないとしました。
監禁罪との関係
脅迫に当たる行為が、監禁の手段として行われた場合には、脅迫罪は監禁罪に吸収され、監禁罪のみが成立します。
大審院判決(昭和11年5月30日)
この判例で、裁判官は、
- 脅迫は監禁罪自体の手段として、監禁罪中に包摂されるものであり、別に脅迫罪を構成しない
と判示しました。
この判例で、裁判官は、
- 監禁罪は、その手段として行なわれた暴行や脅迫をその中に吸収し、別罪の成立を否定するものであるから、監禁罪の手段として行なわれた暴力行為等処罰に関する法律1条所定の暴行脅迫も、監禁罪に吸収され、それと別個に暴力行為等処罰に関する法律1条違反の罪を構成するものではないと解するのが相当である
と判示しまし、監禁罪の手段として行われた暴力行為処罰法1条の脅迫は監禁罪に吸収され、監禁罪のみが成立するとしました。
監禁の手段としてなされていない脅迫は、監禁罪とは独立し、脅迫罪として成立する
たまたま監禁中に行われた脅迫であっても、逃走を防ぐ手段としてなされたような不法監禁状態を維持存続させるものでない行為は、監禁の手段としてなされたということはできないから、監禁罪に吸収されることなく、独立に脅迫罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
この判例は、監禁中の被害者の言動に憤激して暴行脅迫を加えた事案で、監禁罪、暴行罪、脅迫罪を併合罪としました。
まず、弁護人は
- 本件被告人らの暴行脅迫の所為は、不法監禁罪の手段としてなされたものであるから、暴行脅迫罪は当然に不法監禁罪に吸収せられ、不法監禁の一罪のみが成立すべきものであって、不法監禁罪の他に更に暴行脅迫罪の成立する余地がない
と主張しました。
この主張に対し、裁判官は、
- 被告人らの暴行脅迫の行為は、たまたたOの監禁中又はO及びPの監禁中に行われたものではあるけれども、右各行為は、O、Pらの逃亡を防ぐ手段としてなされた如き不法監禁の状態を維持存続させるために行われたものではないのであって、右両名の被告人らに対してなした詐欺的欺瞞的言動に憤慨、憤激のあまり、行われたものであることが認められるから、たとえ、被告人らの暴行脅迫の行為が不法監禁の機会になされたからといって、不法監禁のために、その手段としてなされたものということはできない
と判示し、暴行脅迫は、監禁自体の手段としてなされたものではないので、暴行罪・脅迫罪は監禁罪に吸収されず、暴行罪、脅迫罪、監禁罪がそれぞれ成立し、各罪は併合罪になるとしました。
強盗罪との関係
強盗罪の一手段として行われた脅迫は、強盗罪の中に吸収され、脅迫罪は成立せず、強盗罪のみが成立します。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 脅迫は暴行と共に、強盗罪の一手段として説示されたに過ぎないことは明らかである
- すなわち、脅迫は強盗罪の中に吸収せられておるものと見るべきであって、強盗罪のほかに脅迫罪が独立して成立するものと解することはできない
と判示しました。
恐喝罪との関係
恐喝罪の手段として用いられた脅迫は、恐喝罪に吸収され、脅迫罪は成立せず、恐喝罪のみが成立します。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(明治43年2月18日)
この判例で、裁判官は、
- 恐喝罪が成立する場合には、その手段となる脅迫は、恐喝罪の実行行為となり、恐喝罪以外に脅迫罪を構成するものではない
と判示しました。
恐喝罪の成立が認められない場合は、恐喝の手段となった脅迫が、脅迫罪として成立する
恐喝罪が何らかの原因で成立しない場合、その手段としての脅迫行為について脅迫罪の成立が認められる余地があります。
この点について、以下の判例があります。
福岡高裁判決(昭和41年4月22日)
この判例は、2項恐喝(刑法249条の2項の恐喝)につき、財産上不法の利益を得た場合に当たらないとして恐喝罪が不成立になった事案で、脅迫罪のみの成立を認めました。
裁判官は、
- 契約に関し、被告人が相手方を脅迫して、相手方にその得意先を譲らせる旨の意思表示をさせても、これによって被告人とその得意先との間に契約関係が生ずるものではないから、被告人は財産上不法の利益を得たとはいえないので、恐喝罪は成立せず、脅迫罪が成立するにすぎない
と判示しました。
証人威迫罪との関係
脅迫罪と証人威迫罪(刑法105条の2)との関係について説明します。
証人威迫罪は、脅迫という文言は使われていませんが、犯行手段として脅迫的行為が行われる場合があり、脅迫罪との関係が問題になります。
この点について、参考となる判例として、次のものがあります。
鹿児島地裁判決(昭和38年7月18日)
電話で、暴力団の組幹部が逮捕された事件の実情をよく知っている被害者に対し、暴力団の威力を背景に身体に対する加害を暗示して脅迫し、強談威迫した事案で、証人威迫罪と脅迫罪は別個に成立し、観念的競合の関係になるとしました。
暴力行為等処罰に関する法律1条の罪との関係
脅迫罪と暴力行為等処罰に関する法律1条の脅迫の罪との関係については、法条競合の関係に立つとされます。