前回の記事の続きです。
前回の記事では、公判手続における6つの基本ルールである
- 公開主義
- 当事者主義
- 口頭弁論主義
- 直接主義
- 継続審理主義
- 予断排除の原則
のうち、②当事者主義を説明しました。
今回の記事では、③口頭弁論主義を説明します。
口頭弁論主義とは?
口頭弁論主義とは、
裁判は、原則として、当事者(検察官・被告人)の口頭による弁論(例えば、検察官は被告人が犯人であることを証拠に基づき主張し、被告人は自分が犯人でないことを主張するなど)に基づいて行わなければならないという主義
をいいます。
日本の刑事裁判が口頭弁論主義を採用している根拠となる法は、刑事訴訟法43条1項であり、
「判決は、この法律に特別の定のある場合を除いては、口頭弁論に基いてこれをしなければならない」
と規定しています。
口頭弁論主義は、「①口頭主義」と「②弁論主義」が結び付いたものです。
① 口頭主義とは?(日本の刑事裁判は、口頭主義を原則としつつ書面主義も採用している)
口頭主義は、裁判所が口頭で提供された訴訟資料(例えば、裁判における被告人の供述、証人の証言)に基づいて裁判をする主義をいいます。
口頭主義は、訴訟資料が口頭で裁判所に提供されるので、裁判官に新鮮な印象を与え、裁判官が検察官・被告人、被害者・目撃者などの陳述の意味を理解しやすく、事件の真相をつかみやすいという利点があります。
その利点がある反面、陳述の内容を正確に記録することが難しく、不正確となるという欠点があります。
その欠点を補うため、日本の裁判では、口頭主義を原則をしつつ、書面主義も採用しています。
書面主義とは、裁判所が書面の形で提供された訴訟資料(例えば、被告人や被害者の供述調書、検察官や警察官の捜査報告書など)に基づいて裁判をする主義をいいます。
日本の刑事裁判は、口頭主義と書面主義それぞれの長所を生かし、裁判官の心証形成に重要な行為については口頭主義を採用し、正確性が必要とされる行為については書面主義を採っています。
日本の刑事裁判が口頭主義を採用していることが分かる法律として、以下のものがあります。
- 証人(被害者、目撃者など)の人的証拠に対する証拠調べは尋問という方法で行われる(刑事訴訟法304条)
- 証拠書類(被告人や被害者の供述調書、警察官が作成した捜査報告書など)に対する証拠調べは、裁判において内容を読み上げる朗読という方法で行われる(刑事訴訟法305条2項)
日本の刑事裁判が書面主義も採用していることが分かる法律として、以下のものがあります。
- 検察官や被告人が、裁判官に対し、証人、専門家などの尋問を請求する場合は、その者の氏名・住居を記載した書面を差し出されなければならない(刑訴規則188条の2・1項)
- 検察官や被告人が、裁判官に対し、証拠書類などの書面の証拠調べを請求するときは、その標目を記載した書面を差し出さなければならない(刑訴規則188条の2・2項)
② 弁論主義とは?
弁論主義は、
裁判所が当事者(検察官・被告人)の弁論(主張・立証)に基づいて裁判する主義
をいいます。
具体的には、裁判官が主体となって証拠を集めて犯罪事実を認定するのではなく、検察官と被告人が主体となり、裁判官に証拠を提出したり、主張をするなどし、裁判官は、検察官と被告人から提出された証拠や主張に基づき、犯罪事実があったかどうかを認定します。
実際には、日本の刑事裁判は、必要があれば、裁判官も職権で証拠を収集することができることから、純粋な弁論主義ではありません。
刑事裁判は、犯罪を犯した国民に刑罰を与えるという国家刑罰権の実現を目的とし、真実の発見を使命とするため、必要があれば、裁判官も職権で証拠を収集することができるようにしています。
ちなみに、刑事裁判ではなく、民事裁判では、純粋な弁論主義が採られています(裁判官が職権で動くことはない)。
これは、民事裁判は、私的自治の原則の下での当事者の私的紛争の解決が目的となっているためです。
次回の記事に続く
今回の記事では、公判手続における6つの基本ルールである
- 公開主義
- 当事者主義
- 口頭弁論主義
- 直接主義
- 継続審理主義
- 予断排除の原則
のうち、③口頭弁論主義を説明しました。
次回の記事では、④直接主義を説明します。