刑法(恐喝罪)

恐喝罪(18) ~「恐喝罪における共犯(共同正犯、共謀共同正犯、承継的共同正犯)」「共犯は傷害結果の責任も負う」「幇助犯が成立するとした判例」「共犯者に脅迫の故意しかなかった場合は脅迫罪が成立する」「共犯者が恐喝の共謀の範囲を越えて強盗を犯した場合は、恐喝の故意である共犯者には恐喝罪が成立する」「喝取する金額について打合せがなくても恐喝罪の共犯が成立する」を解説~

恐喝罪における共犯(共同正犯)

 共犯(共同正犯)に関しての恐喝罪(刑法249条)への適用については、一般の共犯に関する考え方が適用されます。

 一般の共犯に関する考え方は前の記事で詳しく説明しています。

 今回は、恐喝罪における共同正犯(共犯)について、判例を示して説明します。

恐喝罪における共犯は、傷害結果の責任も負う

 恐喝を共謀して実行した以上、共犯者の1人が加えた暴行により、被害者に傷害を負わせた場合は、他の共犯者はその傷害の結果についても共同正犯としての責任を負います。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和32年9月30日)

 この判例は、暴行を手段とする恐喝罪により生じた傷害の結果につき、共謀共同正犯が成立するとした事例です。

 裁判官は、

  • 共同正犯の成立に必要な共謀すなわち共同犯行の意思連絡ありとするには、必ずしも事前の謀議あることを要せず、二人以上の者相互の間において暗黙裡に互に協力して共通の犯意を実現する意思を相通ずるにおいては、これありとするに十分である
  • 既に右共謀を遂げ、共同してこれが実行行為に出でた以上は、共謀者は各自、右共同行為によって生じた事実の全部につき、正犯としての責を負うべきものであるところ、傷害罪は暴行の結果的加重犯としても成立し、結果の発生を予見しなかったことにつき犯人に過失あることを必要としないのであるから、二人以上の者が言語による害悪の告知及び暴行を手段として他人を脅迫し財物を喝取することを共謀の上、共同してこれが実行行為を遂行中、共謀者の一人が右脅迫の手段として加えた暴行により被害者に傷害を負わしめたときは、他の共謀者は右恐喝のほか傷害の事実についても、その結果発生を予見しなかったことにつき過失あると否とを問わず、これが共同正犯としての責を負わねばならない
  • これを本件について見るのに、原判決は、相被告人Sが片面的に被告人の犯意を感知したことのみをもって、直ちに恐喝事実の共謀ありと断定したのではなく、右両名が被告人と相互的に意思を相通じたことをもって共謀の成立ありと認定したものであることは、判文自体に徴して明瞭である
  • これを冒頭説示の趣旨に照し、被告人は、恐喝未遂の罪のほか、傷害の結果についても共同正犯としての罪責を免がれない
  • 原判決が右事実につき被告人を恐喝、同未遂並びに傷害の共同正犯に問擬(もんぎ)したのは正当である

と判示し、恐喝を共謀して実行し、共犯者の1人が加えた暴行により、被害者に傷害を負わせた以上、傷害の結果についても共同正犯としての責任を負うとし、被告人に対し、恐喝罪、恐喝未遂罪、傷害罪が成立するとしました。

鹿児島地裁判決(昭和47年6月20日)

 この判例は、被告人自らは、暴行、脅迫の言動に及んでいないが、事件を全体的に考察し、他の者の恐喝の企てに共犯者として加担したものと認められた事例です。

 裁判官は、

  • 恐喝の手段として暴行も含まれるのであるから、恐喝を共謀した以上、暴行の結果的加重犯である傷害の責任を負うのは当然である
  • また、被告人自らは、被害者に脅迫・暴行の言動に及んでいないが、被告人は後輩が恐喝に及んだ事情を知っており、被告人の居室において後輩が被害者に対し、1時間余りも脅迫・暴行をしている場に同席しながら、後輩の脅迫・暴行の間隙をぬって被告人も被害者に損害賠償を求める格好になっており、被告人が後輩に対して統率力を有していたことなど、事件を全体的に考察して、被告人に後輩の恐喝の企てに加担したものとして共犯者としての罪責を負う

旨判示し、被告人に対し、恐喝罪と傷害罪が成立するとしました。

恐喝罪について、共同正犯ではなく幇助犯が成立するとした判例

大阪高裁判決(平成8年9月17日)

 この判例は、恐喝事件につき喝取金の受領行為を行った者に共犯(共同正犯)の成立を認めた原判決を破棄し、幇助犯の成立を認定した事例です。

 裁判官は、

  • 恐喝行為のうち喝取金の受領行為を行っても、恐喝の故意がある者によって行われた場合には恐喝の実行行為に当たるが、恐喝の故意がない場合には恐喝の実行行為を分担したことにはならず、共同正犯ではなく、幇助犯が成立する

旨判示し、恐喝の故意がない場合は、恐喝の実行行為を分担したことにならないとして、恐喝罪の共犯は成立せず、幇助犯が成立するとしました。

恐喝罪における共謀共同正犯

 共謀共同正犯とは、

「共同実行の意思(意志の連絡)」(共謀)はあるが、「共同実行の事実(犯罪の実行行為)」がない場合の共同正犯

をいいます。

 恐喝罪において、共謀共同正犯を認めた判例として、以下の判例があります。

大審院判決(明治43年9月9日)

 この判例は、通謀があれば、共犯者全員が被害者の面前で恐喝をする必要はないとしました。

 この判例で、裁判官は、

  • 数人共犯に係る恐喝取財の罪は、これら数人が通謀の上、被害者に恐喝手段を施し、もって財物を交付せしむるによりて成立するものにして、必ずしもその共犯者相共に被害者の面前に現われ、言語挙動をもって恐手段を施したる所為あることを要せず

と判示し、恐喝を通謀した者に対しても、共犯(共謀共同正犯)として恐喝罪の成立を認めました。

恐喝罪における承継的共同正犯

 承継的共同正犯とは、

ある人(犯人A)が犯罪行為に着手し、その犯罪行為が終わっていない段階で、あとからやって来た人(犯人B)が、犯人Aと共謀し、残りの犯罪行為をAとBの両方で実行する場合

の犯罪形態をいいます。

 犯罪の先行行為者はもちろん、犯罪の後行行為者も、共犯者として犯罪全部の責任を負うことになります。

 恐喝罪においては、たとえば、他の者らが恐喝罪を共謀して、被害者に害悪の告知をした後で、その事情を知りながら、他の者らと犯行を継続実行することを謀議して、被害者に財物の提供を強要した者は、当初の共犯者によって既に敢行されていた恐喝手段に始まる恐喝罪全部の共同正犯としての罪責を負うことになります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和16年12月6日)

 この判例で、恐喝行為に途中から加担した被告人について、裁判官は、

  • 当初の共謀者らが、既に施したる恐喝の手段を利用して、相共に犯罪を実行せむとするものなるをもって、当初より共謀に参加したる者と何ら撰むところなく、従って、当初の共謀者によりて、既に施されたる恐喝手段に始まれる恐喝罪全部の共同正犯として罪責を負わざるべからず
  • たとえ被告人自身としては、何ら恐喝の手段を施すところなかりしとするも、被害者において、当初の共謀者たるAらの申し向けたる言辞によりて、判示の如き畏怖心を生じて、金員交付の約を為したる以上、被告人は、Aらと同じく、恐喝罪の共同正犯としての罪責を負うべきものなること明白なり

と説明して、被告人に恐喝罪全部の承継的責任を認めました。

大阪高裁判決(昭和62年7月10日)

 この判例で、裁判官は、

  • 先行者の犯罪遂行の途中からこれに共謀加担した後行者に対し、先行者の行為等を含む当該犯罪の全体につき共同正犯の成立を認め得る実質的根拠は、後行者において、先行者の行為等を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用したということにあり、これ以外には根拠はないと考えられる
  • 従って、いわゆる承継的共同正犯が成立するのは、後行者において、先行者の行為及びこれによって生じた結果を認識・認容するにとどまらず、これを自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに、実体法上の一罪(狭義の単純一罪に限らない。)を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し、右行為等を現にそのような手段として利用した場合に限られると解するのが相当である
  • 被告人は、Aから、予定されたNとの会見を知らされるに及び、自らも喝取金の分配に与りたいという気持になり、Nからの金員の受領役を買って出、Nが、Aらの脅迫により畏怖していることを知りながら、これを積極的に利用して、自らも金員喝取の犯行に共謀加担したものと認められるから、被告人につき恐喝の共同正犯(いわゆる承継的共同正犯)が成立することが明らかである

と判示し、恐喝罪の承継的共同正犯の成立を認めました。

東京地裁判決(平成8年4月16日)

 この判例は、共犯者の一部が先行して被害者に暴行を加えた後、他の共犯者が加わって恐喝の意思を相通じ、更に暴行を加えて金員を喝取したとの事案につき、傷害罪と恐喝罪との混合的包括一罪が成立し、途中から加功した共犯者は、先行者が既に行った暴行によって生じた被害者の畏怖状態を認識・認容してこれを恐喝遂行の手段として積極的に利用する意思の下に犯行に加担したものと認められるから、犯行全体について共同正犯の罪責を負うとされた事例です。

 裁判官は、

  • 本件恐喝と傷害は、被害者が同一であって、時間的、場所的に共通あるいは近接している上、恐喝の犯意形成前の暴行が実質的にみて恐喝の手段となっている関係が認められるから、両者の混合した包括一罪と認めるべきである
  • そして、関係各証拠によれば、被告人C及び被告人Dは、先行者である被告人A及び被告人Bが既に行った暴行によって生じたEの畏怖状態を認識、認容した上、これを恐喝遂行の手段として積極的に利用する意思の下に、犯行に加担したものと認められる
  • このような本件事実関係の下においては、被告人C及び被告人Dは、本件犯行全体について共同正犯としての罪責を負うというべきである

と判示し、先行者である被告人A及びBに恐喝罪と傷害罪が包括一罪として成立することはもちろん、後行者である被告人C及びDに対しても、共犯(承継的共同正犯)として、恐喝罪と傷害罪が包括一罪として成立するとしました。

 上記2つの判例とは逆に、承継的強制正犯を否定した以下の判例があります。

名古屋高裁判決(昭和58年1月13日)

 1個の恐喝行為で畏怖した被害者から、要求額2000万円につき、翌日に1000万円、1週間後に1000万円と2回に分けて支払う旨の約束をさせ、翌日1000万円の交付を受けて、共犯者間で分配をした後に、その間の事情を知った上で、残りの1000万円の取立てについてから、先行行為者らの犯行に加功し、未遂に終わった者の罪責について、裁判官は、

  • 原判決が1000万円の恐喝既遂の成立を認めたのを破棄し、先行行為者らの1000万円の喝取は完全な既遂状態に達し、その既成事実に対して支配を及ぼすことは不可能であるから、この点の責任までも負わせることはできず、共同正犯として1000万円の恐喝未遂についての責任を負うにとどまる

と判示し、被告人が犯行に加担することを開始した時点では、既に先行行為の1000万円の恐喝罪は既遂に達して終わっているので、被告人に対しては、恐喝罪2000万円全部の承継的責任ではなく、後行行為の1000万円の恐喝罪の承継的共同正犯が成立するとしました。

恐喝罪の共犯者に、脅迫の故意しかなかった場合は、脅迫罪が成立する

 恐喝罪の共犯者に、金品を喝取する恐喝の故意はなく、単に脅すだけの脅迫の故意しかなかった場合は、その共犯者に対しては、脅迫罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正元年11月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • 共犯者は、恐喝の目的を有していたため、恐喝未遂が成立しても、財物取得の情を知らずに、脅迫の認識のみで恐喝の行為を実行した者は、脅迫罪の責任を負う

と判示しました。

共犯者が恐喝の共謀の範囲を越えて、強盗あるいは強盗致傷を犯した場合は、恐喝の故意で共謀をして現場に臨んだ共犯者には、恐喝罪が成立する

 共犯者が恐喝の共謀の範囲を越えて、強盗あるいは強盗致傷を犯した場合は、恐喝の故意で共謀をして現場に臨んだ共犯者には、恐喝罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年4月11日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人がAらと恐喝の共謀をして現場に臨んだところ、Aが共謀の範囲を超えて強盗の既遂をした事実を認定するに十分である
  • してみると、被告人は刑法第38条第2項によって、恐喝既遂の責任を負うべきは当然である

と判示し、被告人とAが恐喝を共謀して犯行に臨み、共犯者Aが強盗を犯した場合、被告人については、強盗の故意はなく、恐喝の故意しかないので、被告人に対しては、強盗罪ではなく、恐喝罪が成立するとしました。

最高裁決定(昭和35年9月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 原判決が判示行為は刑法240条前段(強盗致傷罪)、60条に該当するのであるが、被告人は犯行当時、恐喝の犯意しかなかつたのであって、判示Aの本件所為は被告人の予想しなかったところであるから、被告人に対しては同法38条2項に従い、軽い同法249条1項(恐喝罪)の刑責を負わせる

と判示し、被告人は恐喝の犯意しかなかったのに、共犯者が強盗致傷を犯した事案で、被告人には、恐喝の犯意しかないのであるから、強盗致傷罪は成立せず、恐喝罪が成立するとしました。

喝取する金額について共犯者と間で打合せがなくても、恐喝罪の共犯が成立する

 喝取する金額について共犯者と間で打合せがなくても、恐喝罪の共犯が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和10年5月30日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝して不正に金員を交付せしめんとする事実につき、共謀ある以上、その交付せしむる金額につき、共犯者間に打合せ等ありたることを要するものにあらず
  • 故に交付せしむる金額につき、たとえ被告人らと共犯者Aとの間に打合せなく、従って、そのいかなるやを知悉せざりしものとするも、恐喝罪の構成要件たる事実の認識に欠缺あるものというべからず

と判示し、喝取する金額について共犯者と間で打合せがなくても、恐喝罪の共犯が成立するとしました。

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