刑法(恐喝罪)

恐喝罪(7) ~恐喝罪における脅迫行為④「害悪の告知を受ける客体(対象者)は誰でもよい」「害悪の告知が被害者を困惑させるにとどまるときは恐喝罪は成立しないが、意思決定の自由を制限する場合は恐喝罪は成立する」を判例で解説~

害悪の告知を受ける客体(対象者)は誰でもよい

 恐喝罪(刑法249条)において、害悪の告知を受ける客体(対象者)は、何人(なんびと)に対するものであってよいとされます。

 例えば、「金を出さなければお前を殺す」といった恐喝を受けている被害者自身に対する害悪の告知のほか、「金を出さなければお前の家族や友人を殺す」といった恐喝を受けている被害者以外の者に対する害悪の告知でも、恐喝罪は成立します。

 ちなみに、脅迫罪刑法222条)における脅迫の告知を受ける対象者は、「被脅迫者又はその親族」に限定されています。

 これに対して、恐喝罪は、友人その他の第三者に対して害悪を加える告知であっても、恐喝罪の成立が認められます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正11年11月22日)

 この判例では、被告人らが鉱業所長に対し恐喝を行い、その場に立ち会っていた部下が所長の身体に危害が及ぶことを恐れて畏怖し、金員を交付した事案で、恐喝罪の成立を認めました。

害悪の告知が被害者を困惑させるにとどまるときは恐喝罪は成立しないが、意思決定の自由を制限する場合は恐喝罪は成立する

 害悪の告知は、人を畏怖させるに足りるものでなければなりません。

 単に人に威圧感を覚えさせ、あるいは人を当惑ないし困惑させるに止どまるものは、人を畏怖させるに足りる害悪の告知とはいえません。

 しかし、人を困惑させ、又は不安の念を生ぜしめる場合でも、それが程度こそ低くても、畏怖という範疇に入り、それによって

意思決定の自由を制限する

場合であれば脅迫といえ、恐喝罪の成立が認められます。

 害悪の告知をされることにより、意思決定の自由が制限され、瑕疵ある意思表示をする場合は、恐喝に当たります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和8年10月16日)

 新聞社を経営する被告人が、岐阜市在住の医師の人気投票を行って、新聞に連日その結果を掲載したため、同市医師会に著しい衝動を与え、同医師会ではこれを嫌忌してその中止を被告人に申し入れたところ、被告人は同新聞の編集長Aと共に、営業権の行使であるとし、損害金120~130円を提供しないと投票を中止しない態度を示して、医師会側を困惑させ、その結果、金100円を交付させた事案です。

 裁判官は、

  • 恐喝罪を構成する恐喝手段は、悪事醜行の摘発、又は犯罪の申告その他これに類する害悪の告知に限定されるべきものにあらずして、このほか、おおよそ人を困惑せしむべき手段を包含するものとの解せざるべからず
  • 而して、一地方における医師の人気投票の募集を為し、その投票数を地方新聞に掲載する如きは、医師としての品位を傷つけ、投票数少なき医師の名誉信用を毀損するに至るべきおそれあるものなれば、その地方在住の医師が、かかる投票につき、危惧もしくは畏怖の念を抱き、又は困惑の状態に陥ることあるは、蓋し世間普通の人情として免れざるところである

と説明して、医師会側を困惑させた結果、金100円の交付を受けたものであるから、恐喝罪を構成すると判示しました。

 この判例では、「困惑の結果」との表現が使われていますが、この判例の事案は「畏怖の範疇」に入る事案であるというべきであるから、恐喝罪が成立するという結論は妥当であると評価されています。

解決方法の打診と見る余地があるとして、恐喝罪の成立を否定した判例

 弁護士同士の交渉における解決方法の打診と見る余地があるとして、脅迫に当たらず、恐喝罪の成立を否定した判例があるので紹介します。

大阪高裁判決(平成9年2月25日)

 焼肉店を経営する会社のビルの建替え工事に関し、工事現場の隣のビルに事務所を有する暴力団A組の幹部組員A、I及びこれらと親交のある弁護士である被告人が、民事紛争の形を借り、工事に伴う近隣対策費名下に、施工業者や施主の代理人弁護士Lと交渉し、弁護士同士の示談交渉を装い、施工業者や施主から、高額の物品を喝取しようとしたが未遂に終わったとして起訴された事案です。

 裁判官は、

  • 本件における被告人とA及びIらA組幹部との意思連絡の実態が証拠上明らかでない状況のもとでは、本件電話による会話の内容及びこれに関するL弁護士の証言等から検察官の主張するような事実関係を推認することは困難であるといわざるを得ない
  • 結局、被告人の本件電話での発言は、法律上の権利の有無は別として、いわゆる近隣対策費の問題に関する弁護士同士の交渉における事実上の解決方法の打診と見る余地があり、恐喝と断ずるには、なお合理的な疑いが残るというべきである

と判示して、恐喝罪は成立せず、無罪としました。

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