刑法(恐喝罪)

恐喝罪(19) ~「恐喝罪の罪数」「 恐喝行為が1個である場合の罪数の考え方」「恐喝行為が数個である場合の罪数の考え方」を判例で解説~

 恐喝罪(刑法249条)の罪数の考え方について、判例を示して説明します。

① 恐喝行為が1個である場合の罪数の考え方

基本的な考え方

 1個の恐喝行為で、1人を恐喝した場合は、1個の恐喝罪が成立します。

 1個の恐喝行為で、数人を恐喝した場合は、観念的競合として科刑上一罪となり、1個の恐喝罪が成立します。

 1個の恐喝行為で、数人を恐喝した場合でも、被害法益の主体が単―であるか、被害法益が共有物である場合は、1個の恐喝罪が成立します。

1個の恐喝行為で、1人から財物と財産上の利益を得た場合は(1個の恐喝行為で1項恐喝と2項恐喝を同時に行った場合)、包括して1個の恐喝罪が成立する

 1個の恐喝行為で、1人から財物及び財産上の利益を得た場合(刑法249条の1項の恐喝と2項恐喝を同時に行った場合)は、包括して1個の恐喝罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治45年4月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第249条第1項及び第2項は、同一罪質にして、また同一罪名をなすものなれば、第249条は1個の罪名に関する規定にほかならず、故に同一の被害者に対する1個の行為にして同時にその第2項及び第1項に触れる場合には、もとより2個の罪名に触れるものとして同法第54条第1項前段の適用を受けることなく、単に1個の罪名に触れる恐喝罪を構成するものとす

と判示しました。

 つまり、1個の恐喝行為で、1項恐喝と2項恐喝を同時に行った場合は、1項恐喝と2項恐喝の観念的競合という考え方をとるのではなく、単に刑法249条を適用すればよいという考え方をとります。

 これにより、具体的には、判決書に記載する適用条文は、「刑法249条1項・2項、刑法54条」ではなく、「刑法249条」とだけ書くのが正しい扱いになります。

1個の恐喝行為で、1人に財物交付の約束させ(2項恐喝)、次いで、その財物を交付させた場合(1項恐喝)には、 1個の財物喝取罪(1項恐喝)が成立する

 1個の恐喝行為で、1人に財物交付の約束させ(1項恐喝)、次いで、その財物を交付させた場合(2項恐喝)には、 1個の財物喝取罪(1項恐喝)が成立します。

 この場合、利益恐喝罪(2項恐喝)と財物喝取罪(1項恐喝)との包括一罪と解するのは妥当ではないとされます。

 なぜなら、財物交付の意思表示がなされ、次いで、現実に財物の交付がなされることが実際上少なくないので、包括一罪と解すると、刑法が利益恐喝罪と財物喝取罪とを区別して規定した意義がうすれるためです。

  また、財物喝取が未遂に終わった場合、利益恐喝罪(2項恐喝)の既遂と財物喝取罪(1項恐喝)の未遂を包括一罪として、利益恐喝罪(2項恐喝)で処断することになるのも妥当ではありません。

 一般には、財物交付の約束という意思表示だけでは利益恐喝罪(2項恐喝)は成立せず、この段階では財物喝取罪(1項恐喝)の未遂が成立するとされます。

1個の恐喝行為で、財物交付の契約書を作成させ(強要罪)、次いで、その財物を交付させた場合(1項恐喝)には、 強要罪と財物喝取罪(1項恐喝)の2罪が成立し、両罪は包括一罪になる

 単一の恐喝犯意の遂行として、まず、金員支払の誓約書を作成させ、次いでその日のうちにそれを履行させた事案において、原判決強要罪と恐喝罪の成立を認め、両者を併合罪としたのを破棄して、 「単一の意思遂行としての行為が接着して行われた場合は、これを包括して1罪を構成すると解すべきである」として恐喝の包括一罪になると判示した以下の判例があるので紹介します。

大阪高裁判決(昭和40年12月21日)

 裁判官は、

  • 第5の事実(※公訴事実)は、被告人T、Mは、共謀のうえ、暴力団組員がSの運転する原動機付自転車に接触され受傷したと言いがかりをつけて金員を喝取しようと企て、まず、原判示の日の午後2時頃、暴力団の威力を示して見舞金を要求し、Sを畏怖させ、金5万円を支払う旨の誓約書を作成させ、同日午後4時頃、その履行として金4万700円を交付させたという事案である
  • 第6の事実は、被告人T、N、Mほか一名は、バーの女給が、タクシー運転手Yに接ぷんされたことを聞知し、共謀のうえ、これに因緑をつけてYから金員を喝取しようと企て、原判示の日午後1時頃、謝罪金を要求し、Yを畏怖させて金5万円を支払う旨の誓約書を作成させ、同日午後4時頃道路上においてその履行として金1万円を交付させ、同時刻頃、付近の食堂において「もう1万円払え」と要求し、それを承諾させたが、被告人Tが逮捕されたため喝取の目的を遂げなかったというのである
  • いずれも被告人らが、同一人に対し、単一の恐喝犯意の遂行として、まず、金員支払の誓約書を作成させ、ついでそれを履行させ、又は、一部履行させようとした行為が接着して行われたことが明らかである
  • かように、単一の意思遂行としての行為が接着して行われた場合は、これを包括して一罪を構成すると解すべきである

と判示し、契約書や誓約書を作成させた点にについて強要罪が成立し、それに続いて現金を喝取しようとした点について恐喝未遂罪が成立し、両罪は、併合罪ではなく、包括一罪になるとしました。

1個の恐喝行為で数人を恐喝し、その中の1人から全員が拠出した金員を交付させる場合、恐喝罪は観念的競合になり一罪として成立する

 1個の恐喝行為で数人を恐喝し、その中の1人から全員が拠出した金員を交付させる場合は、恐喝罪は観念的競合になり、恐喝罪は一罪として成立します。

 この点について、以下の判例があります。

※ 以下の判例は、詐欺罪の事例ですが、考え方は恐喝罪にも当てはまります。

大審院判決(明治43年9月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告は、本件被害者たるAほか3名に対し、同一なる恐喝手段を施用し、これをして畏怖の念を生ぜしめ、よって4名の拠金したる金300円を被害者の一人なるBの手を経て、包括的にこれを騙取(詐取)したるものなりとす
  • さすれば、被告は、その犯罪により、被害者各自をして財産上の損害を被らしめたるものなれば、本件においては、各被害者に固有なる法益の侵害ありて、これらの法益侵害は、互いに相独立し、犯罪手段の共通にして騙取行為の単一なるがため、これを包括して、1個の法益侵害となすことを得ざるにより、一所為が数個の罪名に触れるものとして刑法第54条を適用してその効果を定めることを要し、単純なる1個の犯罪として刑の適用をなすものにあらず

と判示しました。

1個の恐喝行為により、1名からは金員を、他の1名からは約定書を交付させた場合は、恐喝罪は観念的競合になり一罪として成立する

 1個の恐喝行為により、1名からは金員を、他の1名からは約定書を交付させた場合は、恐喝罪は観念的競合になり、一罪の恐喝罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正2年8月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 本件は、被告が一つの恐喝手段により、銅山の経営者たるAと同銅山の坑夫長たるBとを威嚇し、その果、Bをして、BがAより託せられたる金5円とB名義の約定書とを交付せしめたる1個の恐喝行為にして、連続する2個の恐喝行為にあらず
  • 而して、右恐喝行為により損害を受けたる者は、A、Bの2人にして1個の行為により2個の法益を侵害したる者なれば、原裁判所が被告人の行為を1個の行為にして数個の罪名に触れるものとなし、刑法第54条1項を適用処分したるは正当なり

と判示しました。

1個の恐喝行為により、数名より金員の交付を受ける場合は、恐喝罪は観念的競合になり、一罪の恐喝罪が成立する

 1個の恐喝行為により、数名より金員の交付を受ける場合は、恐喝罪は観念的競合になり、一罪の恐喝罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和2年12月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、Aほか数名に対し、1個の恐喝手段を施し、畏怖の念を生ぜしめて同時に右数名の拠出したる金円の交付を受けたりというにありて、行為は1個なるも、侵害せられたる財産的法益は数個なるが故に、数個の恐喝罪に触れるものにして、刑法第54条第1項前段を適用すべきものとす

と判示しました。

1個の恐喝行為により、複数の者を恐喝しても、侵害される法益の主体が単一であれば、1個の恐喝罪が成立する

 1個の恐喝行為により、複数の者を恐喝しても、侵害される法益の主体が単一であれば、1個の恐喝罪が成立します。

 恐喝を受けた者の人数は、恐喝罪の個数を定める基準とはならない点がポイントです。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正元年11月28日)

 会社から金員を喝取する目的で、その重役及び大株主70余り名を恐喝した事案です。

 裁判官は、

  • 恐喝罪により侵害せらるべき法益の主体が単一なる場合においては、その手段たる恐喝を受けたる者の員数は、恐喝罪の個数を定むる標準となることなければ、原判決が被告の行為を単一の恐喝罪をもって処断したのは相当である

と判示して、侵害される法益の主体が単一であれば、1個の恐喝罪が成立するとしました。

大審院判決(大正12年5月4日)

  1個の恐喝行為により、共有者数名を同時に恐喝して、その共有物(600円)を交付させた事案です。

 裁判官は、

  • A、B、Cらは、国有林の払い下げに関して、1個の団体を組織し、その費用として各自の拠出したる金円は、包括してその共有に属し、これを共同保管したるものにして、600円はその部に関するものなること明瞭にして、同人らに対し、同時に判示恐喝の手段を施用し、同人らより右金員を交付せしめたる行為は、すなわち1個の行為にして、1個の所有権を侵害したるものにして、恐喝を受けたる者の員数如何にかかわらず単純なる1個の恐喝罪を構成するに過ぎざるものとす

と判示し、恐喝を受けた人数にかかわらず、1個の恐喝罪が成立するとしました。

1個の恐喝行為で1人から数回にわたり金員の交付を受けた場合は、1個の恐喝罪が成立する

 1個の恐喝行為で1人から数回にわたり金員の交付を受けた場合は、1個の恐喝罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和6年3月18日)

 裁判官は、

  • 1個の恐喝手段を施し、数次に金員の交付を受けたる場合においては、刑法第249条第1項第55条を適用すべきものにあらずして、同法第249条第1項に該当する単一罪として処断すべきものとす

と判示して、1個の恐喝罪が成立するとしました。

② 恐喝行為が数個である場合の罪数の考え方

 恐喝行為が数個であっても、単一の犯意に基づく一連の行為であるとみられる場合は、1個の恐喝罪が成立しますが、後の恐喝行為が新たな犯意に基づくとみられる場合は、数個の恐喝罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和33年5月17日)

  この判例は、1度目は被告人単独で、2度目は3日後に共犯者と共謀の上で、前後2回にわたり被害者を脅迫して金員を喝取しても、1個の事実を種に金員を喝取しようと企てた一連の行為である場合には、1個の恐喝既遂罪が成立するのであって、1度目を恐喝未遂罪、2度目を恐喝既遂罪として問擬(もんぎ)すべきものではないとしました。

東京高裁判決(昭和33年5月30日)

 事案は、被告人が遊戯場店内で被害者を恐喝して2000円を喝取した後、傍らで犯行を見ていた友人を促し、店の表へ出たが、友人にも1000円くらい借りてやろうと思って、更に被害者を喝取した事案です。

 裁判官は、

  • 同一被害者から、ほとんど同じ時刻に極めて接近した場所で、2回にわたり金員を喝取した場合であっても、1度目の恐喝終了後、新たに生じた犯意に基づいて2度目の恐喝を行い、脅迫文言も全く異なっている場合には、2個の恐喝罪が成立し、両者は併合罪になる

としました。

東京高裁判決(昭和37年1月11日)

  この判例は、被害者を恐喝して金銭の支払を約束させて、先にその一部である1万円の交付を受け、その約半月後に、残金支払の意思を失った被害者を更に脅迫して、残金5000円の支払を要求したが遂げなかった場合は、恐喝既遂罪と恐喝未遂罪の2罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 残金支払要求それ自体は、1万円の恐喝の際の脅迫と相俟って、残金5000円の喝取を遂げ得るに充分であるばかりでなく、この支払要求が先の脅迫との間に半月の間隔を有すること、被害者T子が既にその支払の意思を失っていたこと等を考え合せて見るときは、右残金の支払要求を、単に先の脅迫に基く約旨(やくし)の実行を促す行為とのみ見ることなく、これを別個独立の脅迫行為と認めるを相当とする

と判示しました。

東京高裁判決(平成8年6月25日)

 この判例は、2社に対して恐喝文書を発送した時点では、実行行為は共通していても、その後、それ以外の大半の実行行為が重ならず、相手方も異なっている場合には、包括一罪ではなく、別個独立の犯罪が成立し、複数の恐喝罪が成立し、各恐喝罪は併合罪になるとしました。

恐喝罪(1)~(23)の記事まとめ一覧

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