刑法(恐喝罪)

恐喝罪(6) ~恐喝罪における脅迫行為③「害悪を加える主体は、恐喝者自身であると第三者であるとを問わない」「縁起の悪さ説いて脅迫しても恐喝罪は成立しない」を判例で解説~

害悪を加える主体は、恐喝者自身であると第三者であるとを問わない

 恐喝罪(刑法249条)において、害悪を加える主体は、恐喝者自身であると第三者であるとを問いません。

 恐喝行為を行う者が第三者である場合に、第三者が共犯者であることは必要ではありません。

 また、害悪を加える主体が何人(誰)であるかを告知する必要もありません。

 たとえば、「金を出さないと、俺がお前を殺す」という犯人自身が害悪を加えること内容とする脅迫が恐喝罪を成立させることはもちろんのこと、「金を出さないと、俺の兄貴がお前を殺す」という犯人自身ではない第三者が害悪を加えることを内容とする脅迫でも恐喝罪を成立させます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治43年6月7日)

 被告人A、Bらが共謀して、Aが、被害者Cに対し、Cが差押米の封印を破棄して差押米を脱漏した件について、D銀行がCを告訴しようとしているのをAが制止しているので、至急Aに金員を交付してD銀行が告訴しないように依頼しなければ辱めを免れることはできない旨を申し向けてCを畏怖させ、金100円を交付させた事案について、裁判官は、

  • 害悪は、必ずしも犯人の行為により発生するものなることを要せず、第三者の行為又は人為以外の勢力によりて害悪の来たるべきことを通告し、もって被害者を畏怖せしめて財物を交付せしめたる場合においてもまた恐喝取財の罪を構成するものなりとす

と判示し、被害者に害悪を加えるのが、犯人自身ではなく、第三者であることを内容とする害悪の告知の場合でも、恐喝罪が成立するとしました。

大審院判決(明治43年5月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人に対して害悪の来たるべきことを通告し、畏怖の念を生ぜしめ、財物の交付を受けたる所為は、恐喝取財罪を構成す
  • 而して、その害悪は、犯人自らこれを加えることを要せず

と判示しました。

 また、このほかに、第三者が共犯者でなくてもよいことを判示した判例(大審院判決 昭和7年3月19日)、害悪を加える主体がだれであるかを告知する必要がないことを判示した判例(大審院判決 昭和7年3月19日)があります。

被害者が、害悪を加える第三者が、害悪行為に影響を与える立場であることを知る必要がある

 以上のとおり、害悪を加える主体は、恐喝者自身であると第三者であるとを問わないという説明をしました。

 ただし、害悪を加える主体が第三者である場合は、

  • 恐喝者が第三者の害悪行為の決意に対し影響を与えることができる立場にあることを相手方に知らせること

又は

  • 相手方がこれを推測できる場合であること

が必要になります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和5年7月10日)

 新聞記者である被告人は、私立女学校長Aが、同校女性教員と情交関係にあるとの風評を奇貨としてAを恐喝することを企て、Aと親交のあるBに対し、他の2、3の新聞記者らが風評を聞知して新聞に掲載する準備中であるが、中止させていると申し向けたので、その結果、B立会いの上で、校長Aと会談することになり、被告人は、校長Aに対し、自分は風評のような事実がないことを了解しているが、他の2、3の新聞記者らは既に掲載の準備を完了しているので、このままでは承知しないであろうから、この際、記事の掲載の中止を求めるには、前示記者らと会食でもするのがよいのだが、女学校長としてこのような問題で新聞記者らと会食はできないであろうから、何らかの方法を講ずる必要がある旨申し向けて、暗に金員の交付を要求して、畏怖した校長AからBの手を経て50円の交付を受けた事案です。

 裁判官は、

  • 恐喝罪における恐喝たるべき害悪の告知は、必ずしも、直接、行為者自身の行為による害悪の告知たるを要せず
  • 第三者の行為による害悪の告知たるを妨げずといえども、第三者の行為による害悪を告知して、恐喝を為すには、必ずや、行為者において、自己が第三者の害悪行為の決意に対し、影響を与え得る立場にあることを相手方に知らしむるか、又は、相手方において事態上これを推測し得る場合でなければならない
  • Aの名誉を侵害する事実を新聞に掲載せらるることは、直接、被告人の行為に基づかず、前示同業2、3新聞記者らの行為によるものなること所論のごとしといえども、被告人は、前には、Bに対し、右新聞記者らに対し記事掲載を中止せしめ置きたりと告げ、後には、A、Bに対し記事掲載を中止せしむるには、校長自ら新聞記者らと会食するを可とするも、右はその立場上、為し得ざるべきにつき、他に何らかの方法を講ずる要あるべしと告げた
  • 結局、Aより金円を受領したるに見れば、当時、被告人は、その行為により、右新聞記者らをして該記事掲載を敢行せしめ得べく、又は、これを中止せしめ得べき立場にあることを示したること疑うべからざる事実に属する
  • 故に、右は明らかに恐喝罪における恐喝たるべき害悪の告知に該当する

と判示し、被告人は、被害者である校長Aに対し、害悪行為を行おうとする第三者の立場にある新聞記者が、害悪行為に対し影響を与えることができる立場にあることを知らせていたとして、恐喝罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和27年7月25日)

 この判例は、公務執行妨害罪における脅迫行為について言及した事案です。

 裁判官は、

  • 本件脅迫行為の内容は「お前を恨んで居る者は俺だけじゃない。何人居るか判らない。駐在所にダイナマイトを仕掛けて爆発させ貴男を殺すと云うて居る者もある」「俺の仲間は沢山いて、そいつらも君をやっつけるのだと相当意気込んでいる」というのであるから、単に第三者に害悪を加えられるであろうことの警告、もしくは単純ないやがらせということはできない
  • むしろ、被告人自ら加うべき害悪の告知、もしくは第三者の行為による害悪の告知にあたり、被告人がその第三者の決意に対して影響を与え得る地位に在ることを相手方に知らしめた場合というべきである

と判示しました。

縁起の悪さ説いて脅迫しても恐喝罪は成立しない

 人が害悪の内容に影響を与えることが不可能である天災地変吉凶禍福などの縁起の悪さを恐喝者が説いても脅迫に当たらず、恐喝罪は成立しません。

 理由は、先ほどの説明のとおり、害悪を加える主体が第三者(犯人以外の者)である場合は、

  • 恐喝者が第三者の害悪行為の決意に対し影響を与えることができる立場にあることを相手方に知らせること

又は

  • 相手方がこれを推測できる場合であること

が必要になるためです。

 天災地変や吉凶禍福は、害悪行為の決意に対し影響を与えることができる第三者にはなり得ず、天災地変や吉凶禍福を理由に相手を脅迫しても、恐喝罪が成立することはありません。

 なお、天災地変や吉凶禍福を説いて、相手を錯誤に陥らせて畏怖させ、金員の交付を受けた場合であれば、詐欺罪が成立する可能性があります。

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