刑法(恐喝罪)

恐喝罪(10) ~「経済上の利益が恐喝者に残らなかったとしても恐喝罪は成立する」「恐喝目的以外の目的による脅迫によって相手を畏怖させ、財物の交付や利益の提供をさせた場合は恐喝罪にならない」を判例で解説~

経済上の利益が恐喝者に残らなかったとしても恐喝罪は成立する

 経済上の利益が恐喝者に残らなかったとしても、恐喝罪は成立します。

 被害者に害悪を告知して畏怖させ、金員の交付を受けた以上、結局において恐喝者に経済上の利益がなかったとしても、恐喝罪は成立するということです。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和10年2月14日)

 被告人が、以前からA会社に買取りを申し込んでいた古鉄を被害者が買い入れたことを知り、被害者を恐喝し、120円の交付を受けた事案です。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 被告人が、A会社からの古鉄を300円の雑費を使いBに売る約束をして、Bから手付金100円を受け取っていたところ、被害者に古鉄を買い取られたため、Bに古鉄を売ることができなくなった損害を補填するために被害者と交渉をしたのであり、100円はBに返却し、20円は旅費として交付したので、被告人には何らの利得もなかった
  • よって、恐喝罪で処罰したのは違法である

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 被告人に金120円の交付方を当然請求し得べき権利ないきこと明白なるが故に、被害者を恐喝して金員の交付を受けた以上、被告人に結局における利益ありしと否とに関せず、恐喝罪の成立すること一点の疑いなきところである

と判示し、被告人の手元に恐喝で得た利益が残らなかったとしても、恐喝罪は成立するとししました。

恐喝目的以外の目的による脅迫によって相手を畏怖させ、財物の交付や利益の提供をさせた場合は恐喝罪にならない

 恐喝目的以外の目的による脅迫によって、相手方を畏怖させ、財物の交付や利益の処分をさせた場合は、恐喝罪になりません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正11年11月7日)

 被告人は、A会社が取引銀行であるB銀行の破綻のため、予約金25万円が回収不能となり、経営上多大の支障をきたしたので、金策のため奔走中、たまたまA会社の株主であるCがA会社に対して革新運動を起こしたのを奇貨として、自らA会社の株主となり、株主名簿の閲覧を求め、A会社の取締役に迫って、B銀行預金問題を掲げてCとともに革新運動を起こす意思があることを告げて、時価3000円に相当するA会社株式1500株の交付を受けた事案です。

 裁判官は、

  • 害悪の通告が、財物の交付又は財産上不法利益の獲得の目的に出でたるものにあらずして、他の目的に出でたる場合、被害者がこれを免れる手段として、進んで加害者に財物又は財産上の利益を提供し、加害者は単にこれを受領したるに過ぎざるとき、その財物又は財産上利益の領得が正義に反し、徳義上の概念と相容れざる場合といえども、その財物又は財産上の利益を獲得したる加害者の行為は、恐喝罪を構成することなかるべき

と説明して、相手が恐喝の結果によらずに他の事情によって畏怖した場合は、一般的に恐喝罪が成立しないとしました。

 ただし、この事案では、被告人の害悪の通告は、「その本来の享有することを得ざる利益を獲得するの手段として行われたる場合」に当たると判断して、恐喝罪の成立を認めています。

 他方、恐喝目的以外の目的による脅迫によって相手方を畏怖させ、財物の交付や利益の処分をさせた場合でも、その目的とするところが不当なものであり、脅迫により畏怖した相手方が、これを免れる手段として進んで金銭の提供を申し出たのに対し、恐喝者が脅迫により意図したところのものが金銭あるいは財物の提供によっても代替的に満足し得るとの意向のあることを示した上、金銭又は財物の交付を受けた場合は、恐喝者の一連の行為は恐喝罪を構成するとした以下の判例があります。

高松高裁判決(昭和36年2月9日)

 この判例は、被告人が、Aにその所有山林の立木の買入れを申し入れたが、Aは自家用の木材を取った残りを売るということで、立木売買の話は一時中止になったところ、被告人の知らない間に、B が立木を買い受けて伐採を始めたので、被告人は先に口をかけていた立木をBに横取りされたと憤激し、Bを同道してA方に赴き、同所でBに対し、Aとの立木売買を破談にするように迫り、A方入口付近において、屋内にいたBに対し、平くわを手にとって「おい、B、出てこい、やっちゃる」等と怒号し、今にも暴行を加えるような気勢を示したので、B は極度に畏怖し、居合わせたC、Dらが金でも出さないとこの場は納まらないとBに勧め、当初は「金はいらない、売買の話を破談にせよ」といっていた被告人も、間もなく、Cらを通じ金を出すなら金2万円を出すように要求し、その結果1万5000円の交付を受けた事案で、恐喝罪が成立することを認めました。

恐喝罪(1)~(23)の記事まとめ一覧

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