刑法(横領罪)

横領罪(27) ~横領罪における不法領得の意思①「定義」「窃盗罪における不法領得の意思の定義との違い」を判例で解説~

横領罪における不法領得の意思

 横領罪(刑法252条)の成立を認めるに当たり、不法領得の意思を必要とするのが通説であり、判例の立場です。

 不法領得の意思は、窃盗罪において、特に議論が行われます(窃盗罪における不法領得の意思については前の記事で詳しく説明しています)。

 窃盗罪においては、不法領得の意思の定義について、判例は

  • 権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、これを利用又は処分する意思

であるとしました(大審院判決 大正4年5月21日、最高裁判決 昭和26年7月13日)

 これに対し、横領罪における不法領得の意思の定義について、判例は、

などとしています。

 横領罪における不法領得の意思の定義は、窃盗罪の定義にはあった「利用又は処分する意思」(利用処分意思)が含まれておらず、また、「権利者を排除して」という文言が用いられていない点で窃盗罪と異なります。

 横領罪の場合は、横領犯人自身が占有する物を領得することから、占有侵害を伴わないため、「権利者を排除して」という文言が用いられていないとの理解もあります。

 ただ、「横領罪は他人の物を保管する者が、他人の権利を排除して、ほしいままにこれを処分すれば成立する」と判示する判例もあり、(最高裁判決 昭和24年6月29日最高裁判決 昭和25年9月19日最高裁判決 昭和31年2月28日最高裁判決 昭和32年6月27日)、横領行為が不法領得の意思の発現行為であるのであれば、このような他人の権利を排除するという横領行為の内容は、不法領得の意思にも含まれていると解するという理解もあります。

 実際、「他人の金員を保管する者が、所有者の意思を排除して、これをほしいままに自己の名義をもって他に預金するが如き行為は、また所有者でなければできないような処分をするに帰するのであって、場合により、横領罪を構成することがあるものといわなければならない」(最高裁判決 昭和33年9月19日 昭和29(あ)3005最高裁判決 昭和33年9月19日 昭和27(あ)5976)と判示する判例があります。

 このように、横領罪における不法領得の意思の定義は、多義的な面があります。

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