刑法(詐欺罪)

詐欺罪⑯ ~「欺罔行為に当たるかどうかの基準」「取引における信義誠実の原則」を判例で解説~

欺罔行為に当たるかどうかの基準

 詐欺罪(刑法246条)において、人を欺く手段には何ら制限はありません(前の記事参照)。

 人を欺く行為(欺罔行為)に当たるかどうかは、行為の際の具体的事情…例えば

  • 取引の状況
  • 相手方の属性(知能レベル、知識、性格、年齢、職業、経験など)

を考慮して、ー般的・客観的見地から、人を欺く行為が、一般人を錯誤に陥れる可能性があるか否かによって決定されることになります。

 人を欺く行為により惹起される錯誤は、「交付の判断の基礎となる重要な事項」についてのものであり、錯誤がなければ交付行為を行わなかったであろうような重要な事項に関するものでなければなりません(前の記事参照)。

 そうでなければ、錯誤と交付行為との間に条件関係を肯定することができず、そのような錯誤を惹起するにすぎない行為は、人を欺く行為とはいえず、詐欺未遂も成立しません。

 詐欺罪の成否の判断に関して、人を欺くことの程度について示した判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正3年11月26日)

 裁判官は、

  • 詐欺未遂の犯罪を構成するには、人を錯誤に陥れ、又は、錯誤に陥らしむべきおそれある程度以上に達せる事実あることを必要するものにあらずして、財物を詐取するため、単に人を錯誤に陥らしむべき欺罔手段を用いし事実あるをもって足る

と判示しました。

 つまり、詐欺未遂罪が成立するには、実際に人を錯誤に陥れる必要はなく、錯誤に陥れようとする欺罔行為を行った事実があることで足りるとしました。

大審院判決(大正6年12月24日)

 裁判官は、

  • 詐欺罪の欺罔手段は、一般に人をして動もすれば、錯誤に陥らしむべき能力を有するをもって足り、必ずしも巧妙なることを要せざるを常態とす
  • 判示欺罔手段の如きは、知慮周密にして平静の状態にある者に対しては、到底これを錯誤に陥れることあたわざるべしといえども、本件判示の如く憂慮困惑の境遇にある者に対しては、優にこれを欺罔するに足る

と判示しました。

 つまり、詐欺罪の成立を認めるに足る欺罔行為は、人を錯誤に陥れる程度のものであれば足り、巧妙なものである必要はないとしました。

 さらに、欺罔行為が、平静の人に対しては錯誤に陥れるような内容でないとしても、平静でない人に対しては錯誤に陥れる内容のものであれば、詐欺罪が成立するとしました。

大審院判決(大正6年12月24日)

 裁判官は、

  • 普通人を欺罔するに足るべき手段を用いたる以上、たまたま相手方が錯誤に陥らさしりし事実あるも詐欺未遂罪の成立を免がれざる

と判示しました。

 つまり、欺罔行為が一般人を錯誤に陥れる程度のものであれば、現実に相手が錯誤に陥らなかったとしても、詐欺罪未遂は成立するとしました。

取引における信義誠実の原則 

 日常生活において、商人が商品を売買する場合、駆け引きや商品の広告・宣伝に多少の誇張が伴うものであることは、一般経験的に認められ、ある程度、当然のことと是認されています。

 このように社会生活において、一般に是認されている程度の駆引きや誇張は、詐欺罪の人を欺く行為に当たらないとされます。

 しかし、一般に是認されている程度の駆引きや誇張の程度を超え、取引の信義誠実の原則(信義則)に反する欺罔であると認められる場合は、詐欺罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和27年2月9日)

 この判例で、裁判官は、人を欺く行為かどうかについて、

  • 詐欺罪の成否を定める標準の一つである欺罔手段は、信義則に合するかどうか、すなわち一般通常の見地から正直であると認められるかどうかの点にある
  • もし、一般通常の見地からする正直に関する平明な法則に反すると認められる程度の欺罔手段(例えば計画的欺罔、違法な工夫、悪い手練策略又は慣習のいずれたるを問わず)の施用によって人を錯誤に陥れ、その財物を騙取したときは詐欺罪を構成するというべきである

と判示し、取引における信義誠実の原則に反することを指摘し、詐欺罪の成立の判断基準を示しました。

仙台高裁判決(昭和28年2月2日)

 この判例で、裁判官は、

  • 単なる消費貸借であるか詐欺罪であるかは、諸般の状況から被告人の所為が普通一般の貸借としての取引に伴う正直さと公正さを具備するかによって、これを区別しなければならないものである
  • 被告人は、初めから古鉄くず等の入手見込みがないにもかかわらず、あるように装い、被害者に対し、古鉄くず等の他から買い入れた上、これを売却することを条件に、いわばその代金の前渡名義で金員の交付方を申し向け、同人をその旨誤信せしめた結果、金員を交付せしめたものでることが明認されているのであるから、普通取引に伴う公正さと正直さとがない
  • 従って、被告人の所為を普通の消費貸借と認めることはできない

として、取引における信義誠実の原則に反することを指摘し、詐欺罪が成立するとしました。

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