法律(刑法)

詐欺罪⑧ ~「人を欺く手段・方法に制限はない」「不作為による詐欺」「不作為による詐欺の判例(その1)」を解説~

人を欺く手段・方法に制限はない

 詐欺罪(刑法246条)において、人を欺く手段・方法に制限はありません。

 つまり、詐欺罪の手段方法は、言語によると動作によると直接的であると間接的であるとを問いません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治44年7月10日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪における欺罔(人を欺く行為)は、必ずしも犯人自ら、被害者に対して、これを行うことを要せず
  • 情を知らざる第三者に対して、欺罔手段を施し、よりて虚偽の事実を被害者に告知せしむるも詐欺罪の成立を妨げることなし

と判示しています。

東京高裁判決(昭和29年2月24日)

 被告人が、不渡りになることを承知しながら、先日付小切手を銀行から振りだし、不渡りとなるべき情をしならないAをして、先日付小切手は、期日後いつでも銀行から支払を受けることができるものとしてBを欺罔し、Bに金員の受けさせた事案で、裁判官は、

  • 情を知らない第三者をして他人を欺罔させ、よりて第三者に財物を受領させた場合でも、刑法246条第1項の詐欺罪を構成することはもちろんである

と判示しました。

 上記のとおり、詐欺罪において、人を欺く手段・方法に制限はありません。

 そのため、人を欺く行為は、作為によると不作為によるとを問いません。

 それでは、不作為によって人を欺くことについて、次で説明します。

不作為による詐欺

 人を欺くことは、通常、積極的に詐術を用い、虚構の事実を告知することによって行われます。

 しかし、虚偽の事実を告知しなくても、相手方がすでに陥っている錯誤状態を継続させ、また錯誤状態を利用することによっても、詐欺罪は成立し得ます。

 もっとも、こうした虚偽の事実の不告知が、すべて不作為によって人を欺くことに当たるというわけではありません。

 不作為犯の一般原則に従って、法律上の告知義務がある場合にのみ、虚偽事実の不告知は、不作為によって人を欺くことに当たり、詐欺罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正6年11月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪につき、欺罔(人を欺くこと)ありとするには、他人に対して虚偽の事実を告知し、もしくは真実の事実を隠蔽するによりて錯誤を惹起せしめ、もしくはこれを保持せしむるをもって足る
  • 然れども、単純なる事実の緘黙によりて他人に錯誤を生ぜしめ、もしくはこれを保持せしめたる場合においては、事実を告知すべき法律上の義務存するにあらざれば、これをもって他人に対する欺罔ありというべからず

と判示し、法律上の告知義務がなければ、虚偽事実の不告知があっても、詐欺罪は成立しないとしました。

「法律上の告知義務」について深掘りして説明

 法律上の告知義務は、生命保険契約における告知義務(旧商法678条、現行保険法37条)のように、直接、法令の規定から認められる場合に限らず、ひろく契約上、慣習上、条理上認められる場合もあります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和8年5月4日)

 この判例は、法律上の告知義務について、

  • 法令上、慣習上又は契約上その他法規上の一般条理として存在する告知義務

と判示しています。

 また、別の判例では、

  • 「信義誠実を旨とする取引の通念上」(大審院判決 大正13年11月28日)
  • 「信義誠実を旨とする取引上の必要」(大審院判決 大正13年3月18日、昭和4年3月7日)
  • 「法律上の取引の安固を保持する必要」(大審院判決 大正7年7月17日)

から、法律上の告知義務を認めています。

不作為による詐欺の判例(その1)

 不作為によって人を欺くことの存否が問題になった判例を紹介します。

保険契約における病気の黙秘

大審院判決(昭和7年2月19日)

 被保険者に重症の子宮疾患があるのに、これを保険会社に告知しないで生命保険契約を締結した事案で、裁判官は、

  • 生命保険契約締結の際、保険契約者は、その知れる被保険者の現在疾患はもとより、保険者に告知すべきものなれば、これを隠秘して告知せず、保険者をして被保険者にかかる疾患なきものと誤信せしむるの、欺罔行為なりというべし

と判示し、不作為(真実を告知しない)による詐欺の成立を認めました。

生活保護費の不正受給

東京高裁判決(昭和31年12月27日)

 生活保護費の不正受給事案で、裁判官は、

  • 行政措置によって生活扶助料の支給を受けている外国人にも、生活保護法61条の規定するところに準じ、条理上、当然被保護者としての届出義務に類する告知義務がある

と判示し、収入その他生計の状況などの変動を届出することなく、従前と同様の生活扶助料の給付を受けた行為について、不作為による詐欺罪の成立を認めました。

東京地裁判決(昭和47年8月4日)

 生活保護の実施機関が、被保護者の収入状態を過少に誤認しているのに乗じ、届出義務に違反して収入の届出をせずに、生活保護費を不正に受給した事案で、裁判官は、

  • 不正の手段を用いて保護を受ける行為として考えられるものは、ほとんどが外形上刑法の詐欺罪に該当する行為であると思われるので、このような行為を生活保護法85条ただし書きにより刑法の詐欺罪の規定を優先して適用し、処罰することになれば、実際上、同条本文の罰則が適用される事例はごく少なく、同条本文の罰則を設けた意義がうすれることは否定できないし、また不正受給行為はごく例外の悪質な事犯を除けば、ほとんどが貧困の余り犯されるものであるうえに不正受給の額もそれほと多額にはならない場合が多いと思われ、情状酌量の余地が多いであろうから、「不正受給行為が外形上刑法の詐欺罪に該当する場合でも、生活保護法の右罰則によって特に軽く処罰し、刑法の詐欺罪の規定の適用が排除される」という(弁護人の)見解には説得に富むものがあり、傾聴すべきものがある
  • けれども、生活保護法85条ただし書きには「刑法に正条があるときは刑法による」旨を明文で規定しているのであり、もし不正受給行為について刑法の詐欺罪の適用を排除するものであれば、不正受給行為の大部分が外形上刑法の詐欺罪に該当する趣旨を明文にうたったはずであり、そのようなことわり書きがない以上、不正受給行為が刑法の詐欺罪の構成要件に該当する場合には、同条ただし書きにより刑法の詐欺罪に関する246条の規定が優先して適用されるべきものと解するほかはない
  • 刑法の詐欺罪の保護法益は個人的、財産的法益を主眼とするものであり、国家的、社会的法益を主眼とするものではないと解すべきことは弁護人ら主張のとおりである
  • しかし、不正の手段によって保護の実施期間等を欺罔し、保護費を受給する行為は、一面において、生活保護行政の適正な運営を阻害するという国家の行政作用に対する侵害を結果とすると同時に、他面において欺罔手段により保護の実施機関等から財産上の給付を受け(生活保護は必ずしも財産上の給付のみには限らないであるが、その大部分は金銭、生活必需品等の財産上の給付であることは否定できない)、これにより保護の実施機関等に財産の減少を生じさせて、それと引換えに受給者が、財産上、不法の利得をし、財産権の侵害を結果とするという面があるこを否定できない
  • そして後者の側面においては、たとえその財産権の窮極の主体が国家または地方公共団体であったとしても、その財産権は、刑法の詐欺罪の主体となりうるものであり、不正受給行為が刑法の詐欺罪の対象となりうることを否めないものと解する
  • 生活保護法61条の被保護者の届出義務は、…単に道徳的、訓示的な意味の義務ではなく、法律上の義務と解すべきものである
  • したがって、保護の実施機関が被保護者の収入状態を過少に誤認しているのに乗じ、届出義務に違反して敢えて収入の届出をなさず、よって不正な額の保護費を受給する場合には、収入の届出をしないという不作為が詐欺罪における欺罔行為となりうるものであり、不作為による詐欺罪が成立することは明らかである

と判示し、不作為(収入の届出をしない)による詐欺罪の成立を認めました。

法律上の権限の不告知

大審院判決(大正7年7月17日)

 準禁治産者が、その事実を黙秘して相手方から金を借り受けた事案で、裁判官は、

  • 準禁治産者が法律上の取引をなさんとするに当り、その相手方において、準禁治産者たることを知れば、取引をなさざるべき場合においては、法律上の取引の安固を保持する必要に鑑み、その準禁治産者たることを告知するの義務あるものと解するを、一般法理上の観念に適するものといわざるべからず
  • 故に、かかる場合において、ことさらにその準禁治産者たることを黙秘して、相手方をして能力者なるがごとく誤信せしめ、よりてもって財物を交付せしめたるときは、詐欺罪を構成するものとす

と判示し、不作為(事実の不告知)による詐欺罪の成立を認めました。

担保物の瑕疵の黙秘

 担保物瑕疵があることを黙秘して契約を締結すると、不作為による詐欺罪が成立します。

札幌高裁判決(昭和27年1月19日)

 すでに売渡担保に供してある電話加入権を、その事実を黙秘して、さらに別の人に対し、売渡担保に供した行為について、不作為による詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 担保に供してある電話加入権を、更にAに担保に供する場合には、Aは担保に差し入れてある事実を知ることができないのであるから、債務者(犯人)は、Aに対して担保に供してあることを告知すべき義務があることは、信義誠実の原則に照らし当然である
  • これを黙秘して更に担保に供するときは、不作為による欺罔行為ありといわねばならないから、詐欺罪の成立を否定することはできない

旨判示し、不作為による詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(大正3年7月7日)

 この判例は、すでに売渡担保に供した動産を自己が占有しているのに乗じ、その事実を黙秘して、その動産をさらに売渡担保に供し、被害者から代金名義で金員を貸与させた行為について、不作為による詐欺罪が成立するとしました。

大審院判決(大正4年5月27日)

 すでに売渡担保に供した物を、さらに質入れして金員を借り受けた事案で、裁判官は、

  • 売渡担保の目的たる動産が自己の占有中にあるを奇貨とし、売主においてその事実を隠蔽し、これを更に第三者に質入れするときは、詐欺罪を構成するものとす

と判示し、不作為による詐欺罪の成立を認めました。

福岡高裁宮崎支部判決(判昭27年8月20日)

 この判例は、不動産を担保に供することを要件として、他人に債務の保証人となることを依頼するに当たって、その不動産がすでに他の債務のために売渡担保に供してある場合には、保証人に対してその事実を告知すべき義務があり、これを黙秘して保証人になることを承諾させ、金員借用の目的を達したときは、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人がAに保証人となることを依頼するに当たっては、本件建物を担保に供することを要件としながら、売渡担保に供してある事実を告げなかったので、Aは、それが瑕疵のない担保物であると信じて保証人となったこと、及びもしAが、本件建物が何時他人の所有名義に登記されるかも知れない不安な状態にあったことを知っていたとすれば、Aは保証人となることを承諾しなかったであろうことが認められるのであって、それはまた、取引の通念に合致するところである
  • かように、不動産を担保に供することを要件として、他人に債務の保証人となることを依頼するに当たって、その不動産が何時第三者の所有名義に登記されるかも知れない不安な状態にある場合には、債務者は、保証人となるべき者に対して、その事実をを告知すべき義務があることは、信義誠実の原則に照らし、疑いを容れないところで、被告人に告知義務があることはもちろんである
  • されば、本件建物を担保に供してあることを告知せず、Aをして無瑕疵の担保物と誤信させて、保証人となることを承諾させ、よりて金員借用の目的を遂げた本件において、被告人に詐欺の犯意あり、詐欺行為あり、これに基づく不法利得の事実あることはまことに明らかで、到底、詐欺(不法利得)罪の成立を否定することはできない

と判示し、不作為による詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和9年9月18日)

 差押えの事実を秘して、物件を担保に供して、金品を交付させた事案で、裁判官は、

  • 実体法上、仮装の債権関係を記載したる公正証書を債務名義として動産の差押をしたるときといえども、手続法よりこれをみれば、差押の効力を生じ、差押物の占有は執達吏に移転するをもって、債務者は右差押の事実を秘し、何ら負担なき物件なるがごとく装い、他に担保に供して金品を交付せしむるにおいては、詐欺罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(大正13年3月18日)

 この判例は、金員借用のため提供する担保品が、あらかじめ示した見本と異なり、はるかに品質の劣るものであることを知ったが、貸主にその旨を告知せず現品を呈示することもなく、そのために貸主をして見本と同一であると誤信させて取引をさせた行為について、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 金員貸借のため、現に提供する担保品が、あらかじめ示したる見本と異なるときは、借主は貸主に対して、その旨を告知するの義務あるをもって、担保品が見本と同一ならざることを秘し、よりて貸主をして担保品を見本と同一なりと誤信し、取引をなすに至らしめたる場合においては、詐欺罪成立するものとす

と判示し、不作為による詐欺罪の成立を認めました。

次回記事に続く

 不作為による詐欺の判例の紹介は、次回記事に続きます。