刑法(詐欺罪)

詐欺罪㉓ ~「保険契約に関する詐欺」「株金払込請求に関する詐欺」を判例で解説~

保険契約に関する詐欺

 詐欺罪(刑法246条)について、保険契約に関する詐欺の判例を紹介します。

大審院判決(大正12年12月25日)

 保険会社の嘱託医に、被保険者の健康状態について真実に反した診査報状(診断書)を作成させ、これを利用して保険会社を欺き、保険契約を締結させた場合は、会社が商法429条1項但書(昭和13年法律72号による改正前のもの)の規定によって保険契約を解除することができるかどうかにかかわらず、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 保険証券は、財産権の目的たることを得べきものなれば、これをもって詐欺罪の目的物となすに妨げなきものとす
  • 保険証券騙取の行為とその保険金騙取未遂の行為とが金員騙取の目的に出たるときは、その全体を包括的に観察し、一罪として詐欺既遂の擬律をなすべく、詐欺未遂の法条を適用すべきものにあらず
  • 保険会社の嘱託医をして、被保険者の健康状態につき、真実に反する診査状を作成せしめ、これを利用して保険会社を欺罔し、保険契約を締結せしめたるにおいては、会社が商法第429条但書き規定により保険契約を解除することを得ると否とにかかわらず、詐欺罪は成立するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和10年11月11日)

 保険会社の募集員が、診査医に無診査のまま健康体である旨の虚偽の診査報状を作成させ、会社係員を偽り、会社から保険証券を保険契約者に送付させた行為について、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 保険会社の募集員が、保険会社の診査医をして、被保険者の診査をなさしめたる事実なきにかかわらず、その事実ありたる如く偽り、会社をして保険証券を保険契約者に送付せしめたるときは、被保険者の健否(健康か否か)にかかわらず、詐欺罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和14年8月31日)

 保険会社の診査医が、外務員と共謀して虚偽の検診報状を作成し、これを会社に送付して保険証券を交付させた行為について、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 生命保険会社出張所の外務員が、同会社の診査医と共謀し、被保険者を診査せずして、保険証券の交付を受けるに至らしめたるときは、詐欺罪成立し、別に背任罪を構成せず

と判示しました。

福岡高裁判決(平成8年11月21日)

 郵政事務官として、簡易生命保険契約の募集等の業務に従事していた被告人が、保険申込者らと共謀し、同契約締結上の障害となる事実(申込者らが入院中であることの告知義務違反や法定の保険金最高限度額超過の事実)を知りながら、申込者らを被保険者とする保険契約申込書を作成し、その事実を秘した上、担当職員らをだまして、適正な保険契約の申込みであると誤信させ、簡易生命保険契約を締結させ、申込者らに簡易生命保険証書を受領させた行為について、簡易生命保険証書の詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 簡易生命保険は、国が行う営利を目的としない事業であり、簡易に利用できる生命保険を、確実な経営により、なるべく安い保険料で提供することによって、国民の経済生活の安定を図り、その福祉を増進することを目的とするものであって、被告人の、欺罔的手段を用いて簡易生命保険を締結したうえ、その保険証書を騙取するという行為が、右のような行政目的を内容とする国家法益の侵害に向けられた側面があることを否定できないとしても、そのことから直ちに刑法の詐欺罪の成立が否定されるものではなく、それが同時に、詐欺罪の保護法益である財産権を侵害し、その行為が詐欺罪の構成要件に充足するものである場合には、詐欺罪の成立を認めることができるものと解される
  • 保険契約書は、保険契約上の重要な文書であり、それ自体経済的価値効用を有するものであって、刑法上、保護に値する財物にあたり、欺罔によってこれを騙取した場合には、詐欺罪の成立を認めるのが相当である
  • また、保険証書の騙取が、保険金騙取の前段階に位置し、その手段的な行為であるとしても、保険証書は、保険金とは別個の、刑法上の保護に値する財物であるから、その騙取について、独立して詐欺罪の成立を認めて差し支えない

と判示しました。

最高裁決定(平成12年3月27日)

 裁判官は、

  • 簡易生命保険契約の事務に従事する係員に対し、被保険者が傷病により入院中であること、又は被保険者につき、既に法定の保険金最高限度額を満たす簡易生命保険契約が締結されていることを秘して契約を申し込み、同係員を欺罔して簡易生命保険契約を締結させ、その保険証書を騙取した行為について、刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)246条1項の詐欺罪の成立する

と判示しました。

株金払込請求に関する詐欺

 株金払込請求に関する行為で、人を欺く行為に当たるとされた判例を紹介します。

大審院判決(大正9年6月10日)

 会社設立発起人が、創立趣意書に虚偽の事実を記載し、他人を欺いて株式引受人となることを承諾させ、申込証拠割増金と第1回払込金として現金を払い込ませた場合、詐欺罪が成立するとしました。

大審院判決(昭和9年9月21日)

 株式会社の設立について、すでに登記を終わったが、会社の設立が仮装であって、事業着手の事実がない場合に、善意の株式引受人に株金払込名義で金員を交付させたときは、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 株式会社の設立につき、既に登記を経たるも、その設立が全然仮装にして、事業着手の事実なき場合において、善意の株式引受人をして、株金払込名義の下に、金員を交付せしむるときは、詐欺罪を構成す

と判示しました。

大審院判決(昭和10年11月6日)

 新会社を設立して、その株式払込金を新会社の目的事業以外に流用することを企て、会社の目的事業を遂行する意思がないのに、遂行するもののように装い、しかも、とうてい利益配当のできる経営状態でないのに、利益配当が確実であるかのように宜伝して、出資者を募集し、株金払込名義のもとに金員を交付させた場合は、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 株式会社の募集設立に当たり、発起人が第1回株式払込金は定款所定の目的事業以外に使用せらるることを秘して、株式引渡人を欺罔し、第1回払込金として、金員の交付を受けるときは、会社の設立が有効なると否とを問わず、詐欺罪を構成す

と判示しました。

株式の売買委託に関する詐欺

 株式の売買契約に関する行為で、人を欺く行為に当たるとされた判例を紹介します。

大審院判決(昭和4年7月13日)

 株式一般取引員でも、誠実に株式の売買委託に応ずる意思がないのに、その意思があるように装って、証拠金又は代用証券名義のもとに現金、有価証券等を交付させた場合には、詐欺罪が成立するとしました。

東京地裁判決(昭和62年9月8日)

 株式買付資金の融資、株式の売買、その取次ぎを仮装して、株式投資家から株式買付資金の融資保証金又は株式買付資金名下に現金、株券等の交付を受けた行為について、詐欺罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和63年11月17日)

 株式貸付金の融資、株式の売買、その取次ぎを仮装して、株式投資家から株式買付金の融資保証金又は株式買付金名下に現金、株券等18億3000万円を騙取した行為について、詐欺罪の成立を認めました。

東京地裁判決(平成13年3月14日)

 架空の買い注文を出して、保有株式を高値で売り抜けるいわゆる「鉄砲取引」について、詐欺罪の成立を認めました.

 裁判官は、

  • 本件は、被告人が、証券会社の顧客から受託した株式売買注文を市場に出して、約定が成立した場合には、証券会社に成立した約定どおりの精算義務が生じることを奇貨として、架空の買い注文を出す一方で、他の証券会社等を通じて、保有株式の売り注文を出し、これを高値で売り抜けるいわゆる「鉄砲取引」の手口により、N証券から金員を詐取しようと企て、実際には、K産業代表取締役Bが、本件買い注文を出しておらず、本件各100万株は、その担保として預託するものではないのに、N証券の営業担当者Cに対し、虚言を弄して、真実、本件買い注文が出されているなどと誤信させ、N証券側に買い注文を実施させ、一方で被告人側で131万株の売り注文をして売買約定を成立させ、N証券をして、自己が管理する顧客勘定に131万株の売付代金総額55億200万円を入金させ、これをだまし取った

として、詐欺罪の成立を認めました。

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