刑法(詐欺罪)

詐欺罪㊶ ~「口座が犯罪に利用されていることを知りながら金を引き出す行為は詐欺罪又は窃盗罪となる」「暴力団が暴力団入場禁止の施設を利用した場合の詐欺罪の成否」「暴力団員による口座開設詐欺」を判例で解説~

 詐欺罪(刑法246条)について、知識としておさえておきたい判例を紹介します。

口座が犯罪に利用されていることを知りながら金を引き出す行為は詐欺罪又は窃盗罪となる

東京高裁判決(平成25年9月4日)

 被告人が代表者である株式会社名義の預金口座が、詐欺等の犯罪行為に利用されていることを知りながら、被告人が銀行窓口で現金を払い戻す行為については詐欺罪が成立し、現金自動預払機(ATM機械)から現金を引き出す行為については窃盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 銀行が犯罪利用預金口座等である疑いがある預金口座について、口座凍結等の措置をとることは、普通預金規定に基づく取扱いであるとともに、救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)の期待するところでもあることから、銀行としても、救済法の趣旨に反するとの非難を受けないためにも、また、振り込め詐欺等の被害者と振込金の受取人(預金口座の名義人)との間の紛争に巻き込まれないためにも、このような口座については当然口座凍結措置をとることになると考えられる
  • そうすると、詐欺等の犯罪行為に利用されている口座の預金債権は、債権としては存在しても、銀行がその事実を知れば口座凍結措置により払戻しを受けることができなくなる性質のものであり、その範囲で権利の行使に制約があるものということができる
  • したがって、上記普通預金規定上、預金契約者は、自己の口座が詐欺等の犯罪行為に利用されていることを知った場合には、銀行に口座凍結等の措置を講じる機会を与えるため、その旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があり、そのような事実を秘して預金の払戻しを受ける権限はないと解すべきである

と判示しました。

暴力団員が暴力団入場禁止の施設を利用した場合の詐欺罪の成否

 入会の際に暴力団関係者を同伴しない旨誓約したゴルフ倶楽部会員において、同伴者が暴力団関係者であることを申告せずに、その暴力団同伴者に関するゴルフ場の施設利用を申し込み、施設を利用させた行為について、詐欺罪に当たるとしました。

最高裁判決(平成26年3月28日)(長野県ゴルフ場事件)

 長野県内のゴルフ倶楽部において、暴力団員の入場及び施設利用を禁止しているにもか
かわらず、暴力団員ではない旨の誓約書を提出して、入場して施設を利用した事案で、裁判官は、

  • 本件ゴルフ倶楽部では、暴力団員及びこれと交友関係のある者の入会を認めておらず、入会の際には「暴力団または暴力団員との交友関係がありますか」という項目を含むアンケートへの回答を求めるとともに、「私は、暴力団等とは一切関係ありません。また、暴力団関係者等を同伴・紹介して貴倶楽部に迷惑をお掛けするようなことはいたしません」と記載された誓約書に署名押印させた上、提出させていた
  • 入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるAが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している上、利用客が暴力団関係者かどうかは、本件ゴルフ倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによって施設利用契約を成立させ、Aと意を通じた被告人において施設利用をした行為が刑法246条2項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

 この判例の結論とは逆に、詐欺罪の成立を否定した以下の判例があります。

最高裁判決(平成26年3月28日)(宮崎県ゴルフ場事件)

 この判例は、上記の長野県内における暴力団組員によるゴルフ場利用による詐欺事件と同様の内容の判例です。

 犯行場所は、宮崎県のゴルフ場です。

 こちらの判例では、上記判例の結論と異なり、詐欺罪は成立せず、無罪判決が言い渡されています。

 裁判官は、

  • 暴力団関係者の利用を拒絶しているゴルフ場において、暴力団関係者であるビジター利用客が、暴力団関係者であることを申告せずに、一般の利用客と同様に、氏名等を偽りなく記入した受付表等を提出して施設利用を申し込む行為は、ゴルフ場の従業員から暴力団関係者でないことを確認されなかったなどの本件事実関係の下では、申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められず、詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらない

と判示し、詐欺罪は成立しないとしました。

 詐欺罪の成立を認めた長野県ゴルフ場の判例と、詐欺罪の成立を否定した宮崎ゴルフ場の判例の両者において、判断が分かれたのは、施設利用の際に、暴力団でないことの書面を提出しているか否かの点にあります。

 この両者の判例により、

  • 暴力団が、暴力団であることを秘して、ただ施設を利用しただけでは、欺罔行為がないので詐欺罪は成立しない
  • 暴力団が、暴力団ではないことの書面を作成して提出している場合は、それが欺罔行為になるので、詐欺罪が成立する

という判断基準が示された点が参考になります。

暴力団員による口座開設詐欺

最高裁決定(平成26年4月7日)

 約款で暴力団員からの貯金の新規預入申込みを拒絶する旨定めている銀行の担当者に対し、暴力団員であるのに暴力団員でないことを表明、確約して口座開設等を申し込み通帳の交付を受けた行為について、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 政府は、平成19年6月、企業にとっては、社会的責任や企業防衛の観点から必要不可欠な要請であるなどとして「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」等を策定した
  • 銀行においては、従前より企業の社会的責任等の観点から行動憲章を定めて反社会的勢力との関係遮断に取り組んでいたところ、前記指針の策定を踏まえ、平成22年4月1日、貯金等共通規定等を改訂して、貯金は、預金者が暴力団員を含む反社会的勢力に該当しないなどの条件を満たす場合に限り、利用することができ、その条件を満たさない場合には、貯金の新規預入申込みを拒絶することとし、同年5月6日からは、申込者に対し、通常貯金等の新規申込み時に、暴力団員を含む反社会的勢力でないこと等の表明、確約を求めることとしていた
  • 被告人に応対した局員は、本件申込みの際、被告人に対し、申込書3枚目裏面の記述を指でなぞって示すなどの方法により、暴力団員等の反社会的勢力でないことを確認しており、その時点で、被告人が暴力団員だと分かっていれば、総合口座の開設や、総合口座通帳及びキャッシュカードの交付に応じることはなかった
  • 総合口座の開設並びにこれに伴う総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を申し込む者が暴力団員を含む反社会的勢力であるかどうかは、本件局員らにおいてその交付の判断の基礎となる重要な事項であるというべきであるから、暴力団員である者が、自己が暴力団員でないことを表明、確約して上記申込みを行う行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為に当たり、これにより総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示しました。

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