刑法(詐欺罪)

詐欺罪㊷ ~「詐欺の被害者は、財産的処分行為をなしうる権限・地位を有するものであればよい」「未成年者や心神耗弱者も詐欺の被害者になる」を判例で解説~

詐欺の被害者は、財産的処分行為をなしうる権限・地位を有するものであればよい

 人を欺く行為の相手方(詐欺の被害者)は、必ずしも財物の所有者又は占有者(つまり財産上の被害者)であることを要しません。

 しかし、その財物についての

財産的処分行為をなしうる権限または地位を有するもの

でなければなりません。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和45年3月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪が成立するためには、被欺罔者が錯誤によってなんらかの財産的処分行為をすることを要するのであり、被欺罔者と財産上の被害者とが同一人でない場合には、被欺罔者において被害者のためその財産を処分しうる権能または地位のあることを要するものと解すべきである

と判示し、欺く行為の相手方は、必ずしも財物の所有者又は占有者であることを要せず、その財物についての財産的処分行為をなしうる権限または地位を有するものであればよいことを明らかにしました。

財物の所有者・占有者ではなく、財物の財産的処分行為をなしうる権限・地位を有するものを欺いた事案の判例

 財物の所有者・占有者ではなく、財物の財産的処分行為をなしうる権限・地位を有するものを欺いた事案の判例を紹介します。

最高裁判決(昭和24年2月22日)

 教団の有力者を欺いて教団の金を借用し、教団の小切手を窃取した事案で、裁判官は、

  • 人を欺罔し、これに原因してその人から、自己に取得する権利のない財物を自己に交付させ之を不正に領得すれば詐欺罪は成立するものであって、財産上の損害を受ける者が被欺罔者であると又第三者であるとは問うところでない
  • また、窃盗罪は、他人の実力的支配の下にある財物を其の意思に反して、これを排除し自己の実力的支配内に移せば完成するもので、その財物が第三者の所有に係ることは窃盗罪の成立を妨げるものではない
  • 被告人は、第一、A教団内で、Bに対し、教団の部長である父Cのつかいとして、買物に出て来た処代金不足するにつき帰宅後直に返済するから金5千円貸してくれと嘘を言ってBを欺き、借用名義の下に即時Bから現金5千円の交付を受けてこれを騙取した、第二、B所有の金額5千円の小切手一通を窃取したというのである
  • 仮に、右現金5千円及右小切手が右Bの所有ではなく、法人たる教団若くはその教団主管者Dの所有であるとしても、被告人の右行為が、それぞれ詐欺罪並びに窃盗罪を構成することもちろんである

と判示し、欺いた相手が、財物の所有者・占有者ではなく、財物の財産的処分行為をなしうる権限・地位を有するものである場合において、詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(明治44年12月8日)

 被告人らの不実の申請に基づき、県当局が補助金下付の議案を県会に提出し、その決議を経て補助金を被告人らに下付したという事案で、欺かれた者は、県当局、すなわち、県庁にあって補助金下付申請の事務を担当した吏員のほか、県会議員も含まれるとしました。

最高裁判決(昭和29年10月22日)

 競輪選手が他の選手または第三者と通謀して八百長レースを行い、賞金及び払戻金を受領した場合、欺かれた者は、実際上だまされたという被害感を持つ多数の投票者ではなく、競輪施行者(地方公共団体)とその実施を担当する自転車振興会の係員(審判員、管理部員等)であり、この場合、詐欺の被害者は、競輪施行者(地方公共団体)であるとしました。

 裁判官は、

  • 本件の如く、競輪選手が他の選手(又は第三者)と通謀して実力に非ざる競技をなすいわゆる八百長レースにより賞金及び払戻金を受領する行為は、刑法の詐欺罪を構成する
  • 詐欺の実行の着手は、八百長レースを通謀した選手らがスタートラインに立った時であり、その既遂時期は通謀者が賞金、払戻金を請求しこれを受領した時と解する
  • また、詐欺の被欺罔者は、競輪施行者及びその実施を担当する自転車振興会の各係員ら(本件では賞金支払係岐阜市主事及び岐阜県自転車振興会の審判員、管理部員ら)であり、その錯誤の内容は、右係員らがそれぞれ本件八百長レースを公正なレースの如く誤信したことである
  • 詐欺の被害者は、賞金が施行者の財源(賞典費の項目)から支出されること及び払戻金は車券購買代金から支出されるけれども、右購買代金は車券発売と同時に施行者に帰属する事実に鑑み、施行者たる岐阜市であると解すべきものである

と判示しました。

未成年者や心神耗弱者も詐欺の被害者になる

 錯誤に陥り、財物についての財産的処分行為をなしうる者である限り、知慮浅薄な未成年者や心神耗弱者も、人を欺く行為の相手方となり、そのような者が被害者である場合でも、詐欺罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正4年6月15日)

 この判例で裁判官は、

  • 刑法第248条の罪は、未成年者の未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱なる状況を利用し、詐欺又は恐喝に該当せざる誘惑その他の方法を用い、財物を交付せしむるによりて成立するものとす
  • 知慮浅薄なる未成年者又は心神耗弱者に対し、詐欺又は恐喝の方法を用い、これによりて財物を交付せしめたる所為は、刑法第248条に該当せずして、同法第246条又は同法第249条に該当するものとす
  • 被害者が知慮浅薄なる未成年者又は心神耗弱者なりといえども、詐欺又は恐喝の方法を用い、これによりて財物を交付せしめたる場合においては、刑法第248条の罪は成立せず刑法第246条の詐欺罪又は同法第249条の恐喝罪を構成すべきものとす
  • 被告人は、被害者が心神の発育不十分なるに乗じ、詐欺の手段を用い、同人を欺罔し、被害者を借主とする共犯者M宛て金750円及び金600円の借用証書各1通を交付せしめたりというにありて、単に被害者の心神耗弱に乗じて財物を交付せしめたる事実を判示せるものにあらざれば、これを刑法第248条に問擬(もんぎ)せずして、同法第246条によりて処断したるは相当である

と判示しました。

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