法律(刑法)

詐欺罪⑦ ~「人を欺くとは?(錯誤に陥らせる、錯誤を利用する、財産的処分行為をさせる、交付の判断の基礎となる重要な事項について欺く)」「被害者に錯誤を生じさせないと詐欺にならない」を判例で解説~

詐欺罪の行為

 詐欺罪(刑法246条)における行為は、

人を欺いて財物を交付させること

をいいます。

「人を欺く」とは「人を錯誤に陥らせる行為」である

 詐欺罪の行為の定義における「人を欺いて」とは、

人を錯誤に陥らせる行為をすること

をいいます(大審院判決 明治36年3月26日、大正6年12月24日)。

 最近の判例では、人を欺いて財物を交付させる行為について、

交付の判断の基礎となる重要な事項

について欺かなければならないとされています。

最高裁決定(平成22年7月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • (航空会社係員に対し)搭乗券の交付を請求する者自身が航空機に搭乗するかどうかは、本件係員らにおいてその交付の判断の基礎となる重要な事項であるというべきであるから、自己に対する搭乗券を他の者に渡してその者を搭乗させる意図であるのにこれを秘して、本件係員らに対してその搭乗券の交付を請求する行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによりその交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示しました。

最高裁決定(平成26年4月7日)

 この判例で、裁判官は、

  • 総合口座の開設並びにこれに伴う総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を申し込む者が暴力団員を含む反社会的勢力であるかどうかは、郵便局員らにおいて、その交付の判断の基礎となる重要な事項であるというべきであるから、暴力団員である者が、自己が暴力団員でないことを表明、確約して上記申込みを行う行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為に当たり、これにより総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示しました。

「人を欺く」とは「欺かれた人に財産的処分行為をなさしめる人を欺く行為」であることが必要

 詐欺罪の「人を欺く行為」は、

欺かれた人に財産的処分行為をなさしめる人を欺く行為

であることが必要です。

 被害者を錯誤に陥れる行為であっても、それが被害者に錯誤に基づく財産処分行為をなさしめるものでなければ、詐欺罪の実行行為としての「人を欺く行為」とはいえません。

 人を欺く行為が、『欺かれた人(詐欺被害者)に財産的処分行為をなさしめる人を欺く行為』に至らなければ、詐欺罪はもとより、詐欺未遂罪すら成立しません。

 例えば、

  • 人をだまして注意を他に転じさせ、その隙に持ち物を取る
  • 留守番をしている母親を、子供が道路で自動車にひかれたと言ってだまし,母親があわてて飛び出して行った隙に屋内に入り、財物を取る

といった場合には、人を錯誤に陥れる行為はあるけれど、その行為によって生じた錯誤に基づいて、相手方に財産的処分行為をなさしめる行為ではないことから、詐欺罪の実行行為といえず、これらの場合には、詐欺罪は成立しません。

 なお、上記のような例の場合は、窃盗罪が成立することになります。

被害者が既に錯誤に陥っている状況を利用する場合も「人を欺く」行為になる

 詐欺被害者が既に錯誤に陥っている場合に、これを継続させる行為も、人を欺くことに当たります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和3年7月10日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被害者の錯誤を持続助長せしむるの行為は、また刑法第246条第1項にいわゆる欺罔(人を欺くこと)たるを失わざる

と判示しました。

被害者の不安・無知・過失があっても「人を欺く行為」になる

 詐欺被害者の不安や無知を利用する場合も「人を欺く」行為になります。

 また、被害者に過失があっても、欺く手段が人を錯誤に陥れる性質を持つ限り、「人を欺く」行為になります。

被害者に錯誤を生じさせないと「人を欺く行為」にならない

 人を欺くこととは、

相手方をだまして真実と合致しない観念を生ぜしめること

をいいます。

 なので、たとえ人を欺く手段が用いられても、それが被害者に真実と合致しない観念を生ぜしめるような行為(錯誤を生じさせる行為)がない場合は、詐欺罪における「人を欺く行為」があったはといえず、詐欺罪は成立しません。

 例えば、駅員の隙を狙って、しれっと乗車券なしで電車に乗っても、駅員を錯誤に陥れる行為(欺罔行為)がないので、「人を欺く行為」があったといえず、詐欺罪は成立しません。

 この場合、鉄道営業法違反(29条の不正乗車)が成立するだけです。

 同様に、他の入場者にまぎれて、入場券なしで映画館に忍び込んで映画を見る行為も、映画館の係員を錯誤に陥れる行為(欺罔行為)がないので、詐欺罪は成立しません。

 このように、人を錯誤に陥れる行為(欺罔行為)がないため、詐欺罪は成立しないとした判例として、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和31年8月22日)

 磁石を用いてパチンコ玉を当り穴に誘導し、不正に玉を流し出し、パチンコ玉を領得した行為について、人を欺く行為がないため、窃盗罪が成立しています。

最高裁決定(平成19年4月13日)

 パチスロのメダルの不正取得を目的として、大当たりを連続して発生させる特殊機器を身体に装着してパチスロ機で遊戯し、メダルを取得した行為について、人を欺く行為がないため、窃盗罪が成立しています。

東京高裁判決(昭和55年3月3日)

 拾得した他人のキャッシュカードを使って,銀行の現金自動支払機から現金を引き出す行為について、人を欺く行為がないため、窃盗罪が成立しています。