法律(刑法)

詐欺罪(88) ~他罪との関係⑤「財物取得にあたり、詐欺と強盗の態様が競合する場合は、詐欺罪と強盗罪の包括一罪が成立する」「詐欺罪と強盗予備罪は併合罪になる」を判例で解説~

 詐欺罪と強盗罪との罪数関係について、判例を示して説明します。

財物取得にあたり、詐欺と強盗の態様が競合する場合は、詐欺罪と強盗罪の包括一罪が成立する

 人を欺く手段を用いて物品役務の提供を受けた上、相手方の抵抗を抑圧するような暴行・脅迫を加えてその対価の支払を免れた場合、詐欺罪と強盗罪との成立関係が問題になります。

 この問題については、以下の判例①と判例②の結論の流れを経て、最終的に最高裁判例(昭和61年11月18日)により結論が示されました。

判例①

 まず、判例①「札幌高裁判決(昭和32年6月25日)」において、詐欺罪と強盗罪(強盗致傷罪)の両罪が成立し、両罪は併合罪になると判示されました。

 判例①は、無銭飲食をしてから、約2時間半後、道路上でたまたま被害者に出会い、被害者から飲食代金の支払方の請求を受けるや、被害者に暴行を加え、その反抗を抑圧して右債務の請求を不能ならしめて債務の支払を免れ、しかも右暴行により被害者に傷害を負わせた事案です。

 裁判官は、

  • 一旦詐欺罪が成立したうえは、被欺罔者(欺かれた者)は欺罔者(欺いた者)に対し、その被害物の返還ないしその対価に相当する金員の支払を請求し得ることも明らかであって、かかる新たな請求につき詐欺手段を用いるのはともかく、暴行または脅迫を用いてその債務を免れることは、その手段の点からみて,詐欺罪におけるとは自らその保護法益を異にするところであるから、これを別個独立の犯罪として評価することこそ、法の要求するものと解する

として、詐欺罪と強盗致傷罪との併合罪の成立を認めました。

判例②

 次に、判例②「神戸地裁判決(昭和34年9月25日)」においては、いったん詐欺罪が成立した以上は、後から強盗罪(強盗殺人罪)は成立しないとしました。

 判例②は、甲を欺いて飲食物を提供させ、甲が飲食物の提供をやめ、勘定を締めて代金の支払を請求したところ、その代金の支払を免れるため甲を殺害した事案で、詐欺と殺人(強盗殺人ではなく)との併合罪であるとしました。

 上記①の判例とは異なり、強盗罪は成立しないとした点がポイントです。

 裁判官は、

  •  一旦騙取(詐取)した財物について、その代金の支払義務を免れるために欺罔(欺く)行為をしても、重ねていわゆる2項詐欺が成立しないと解するならば、その支払を免れるために暴行脅迫を加えても2項強盗が成立しないと解するのは理の当然である
  • なんとなれば、その場合、重ねて不法利得罪の成立を認めるとすれば、同一の客体について、一且財物奪取として処罰したものを更に利益奪取として処罰することによって、同一の法益につき、刑罰的に二重評価するという不当の結果を招来するからである

と判示し、詐欺と殺人(強盗殺人ではなく)との併合罪が成立するとし、詐欺罪が成立する以上、強盗罪の方は成立しないとしました。

 そして、判例①と判例②とで異なる結論が示されていたところ、その後、最高裁は、以下の昭和61年11月18日の裁判で、

詐欺罪と強盗罪が競合する場合は、詐欺罪と恐喝罪は包括一罪となり、法定刑の重い強盗罪の刑で処断すべき

という判断をしました。

最高裁決定(昭和61年11月18日)

 この判例の事案は、甲と乙が(乙が被告人)が、当初は丙を殺害して、その所持する覚せい剤を強取することを計画したが、その後計画を変更し、共謀の上、まず甲において、覚せい剤取引の斡旋かこつけて丙をホテルの一室に呼び出し、別室に買主が待機しているように装って、覚せい剤の売買の話をまとめるために現物を買主に見せる必要がある旨申し向けて丙から覚せい剤を受け取り、これを持って同ホテルから逃走した後、間もなく、乙が丙のいる部屋に赴き、丙を拳銃で狙撃したが殺害の目的を遂げなかったというものです。

 裁判官は、本件覚せい剤の取得行為が窃盗罪と詐欺罪のいずれに当たるのかにつき結論を留保した上で、

  • 前記の本件事実関係自体から、被告人(乙)による拳銃発射行為は、丙を殺害して同人に対する本件覚せい剤の返還ないし買主が支払うべきものとされていたその代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためになされたことが明らかであるから、右行為はいわゆる2項強盗による強盗殺人未遂罪に当たるというべきである(暴力団抗争の関係も右行為の動機となっており、被告人(乙)については、こちらの動機の方が強いと認められるが、このことは、右結論を左右するものではない)
  • 先行する本件覚せい剤取得行為がそれ自体としては、窃盗罪又は詐欺罪のいずれに当たるにせよ、前記事実関係にかんがみ、本件は、その罪と(二項)強盗殺人未遂罪のいわゆる包括一罪として重い後者の刑で処断すべきものと解するのが相当である

と判示しました。

 以上のような、詐欺罪が成立するのか、強盗罪が成立するのかという問題は、一応、上記の最高裁判例で解決されました。

 とはいえ、学説では、詐欺と強盗(2項強盗)の罪数については、主として両行為の時間的、場所的近接性の点から、包括一罪になるのか、又は併合罪になるのかが決められると考えられています。

 また、主観的には、初めから飲食物を提供させた上で、暴行・脅追を用いて代金の支払を免れる意思を持ち、客観的には、人を欺く手段によって飲食物を提供させる行為と暴行・脅迫によって債務の支払を免れる行為とが、きわめて接着した時点において行われたような場合には、包括して強盗一罪の成立を認めるのが相当だと考えられています。

詐欺罪と強盗予備罪は併合罪になる

 詐欺罪と強盗予備罪との関係について言及している以下の判例があるので紹介します。

名古屋高裁判決(昭和35年4月11日)

 この判例で、裁判官は、

  • 売上金強奪の目的で凶器を持ってタクシーに乗り込み運行させたが、途中で強盗の犯意を放棄し、その実行に着手せず、乗車料金支払の意思も能力もないのに、通常の乗客を装ったまま、引き続き運行させた場合は、強盗予備罪と詐欺利得罪(2項詐欺)の両罪が成立し、両罪は併合罪になる

としました。