法律(刑法)

詐欺罪(74) ~詐欺利得罪(2項詐欺)③「『財産上の利益の取得した』とは?」「財産的処分行為の有無が争点となり、詐欺罪の成否が争われた判例」「被害者の不作為による財産的処分行為」を解説~

『財産上の利益の取得した』とは?

 刑法246条2項の『財産上の利益の取得した』といえるためには、

他人を欺いて錯誤に陥れた結果、欺かれた者として財産的処分行為をさせ、それによって行為者(詐欺犯人)又は一定の第三者が財産上の利益を得たという関係があること

が必要になります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正12年2月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺利得罪の成立するには、欺罔者において、相手方をして、権利の放棄、債務の約束、その他財産上の利益を授与すべき特定の行為をなさしめ、欺罔者もしくは第三者において、これによって事実上利益を取得したる事実の存在を必要とす

と判示しました。

大審院判決(大正7年11月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 無尽の組織において、組合員の拠出したる金額が、抽選又は落札によりその帰属の定まるまでは、組合の共有たるべき場合において、脱会者又はその掛金遅延者の持口を会社持口とし、その持口に相当する掛金をなさざるにかかわらず、これをなしたるが如く装い、多数の組合員を欺き、当選又は落札の機会を阻害するときは、その阻害は組合員の錯誤に陥りてなしたる意思表示の結果にあらず
  • これが意思表示を待たずして、自己を利せんとするものなるをもって、これによってその抽選又は落札に相当する現在の拠出金を領得する行為の如きは、横領罪を構成することあるも、詐欺罪を構成すべきものあらず

と判示し、被害者を錯誤に陥れておらず、被害者の財産的処分行為がないため、詐欺罪は成立せず、横領罪が成立するとしました。

財産的処分行為の有無が争点となり、詐欺罪の成否が争われた判例

 財産的処分行為とは、

物・財産上の利益を相手方に移転させる行為

となります。

 より具体的に分かりやすく言うと、欺かれた被害者が犯人に金品を交付したり、サービスを提供する行為となります。

 財産的処分行為の詳しい説明は、前の記事で行っています。

 刑法246条2項(詐欺利得罪(2項詐欺))の財産的処分行為の意義は、刑法246条1項のものと変わるところはありません。

 しかし、詐欺利得罪(2項詐欺)においては、利得の態様が多様であるのに応じて、処分行為も様々な形態をとるため、財産的処分行為があったかどうかが問題になる場合が少なくありません。

 財産的処分行為の有無が争点となり、詐欺罪の成否が争われた判例として、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和30年4月8日)

 最高裁判例においても、詐欺罪の成立には、財産的処分行為が必要と判示しています。

 被害者を欺く行為をしても、被害者が財産的処分行為(交付行為)をしなければ、詐欺罪は成立しません。

 この判例で、裁判官は、

  • 第一審判決の確定する本件犯罪事実は、被告人は、りんごの仲買を業とするものであるが、Aに対し、りんご「国光」500箱を売り渡す契約(上越線a駅渡の約)をし、その代金62万5000円を受領しながら、履行期限が過ぎても、その履行をしなかったため、Aより再三の督促を受けるや、昭和23年4月11日その履行の意思のないのにAを五能線b駅に案内し、同駅でBをしてりんご422箱の貨車積を為さしめ、これに上越線a駅行の車標を挿入せしめ、「あたかも林檎500箱をa駅まで発送の手続を完了し、着荷を待つのみの如くAに示してその旨同人をして誤信させ、Aが安心して帰宅するやその履行を為さず、よりて債務の弁済を免れ、もって財産上不法の利益を得たものである」というのである
  • しかしながら、刑法246条2項にいう「〔人を欺罔して〕財産上不法の利益を得、または他人をしてこれを得せしめたる」罪が成立するためには、他人を欺罔して錯誤に陥れ、その結果被欺罔者をして何らかの処分行為を為さしめ、それによって、自己又は第三者が財産上の利益を得たのでなければならない
  • しかるに、右第一審判決の確定するところは、被告人の欺罔の結果、被害者Aは錯誤に陥り、「安心して帰宅」したというにすぎない
  • 同人の側にいかなる処分行為があったかは、同判決の明確にしないところであるのみならず、右被欺罔者の行為により、被告人がどんな財産上の利益を得たかについても同判決の事実摘示において、何ら明らかにされてはいないのである
  • 同判決は、「よりて債務の弁済を免れ」と判示するけれども、それが実質的に何を意味しているのか、不分明であるというのほかはない
  • あるいは、同判決は、Aが、前記のように誤信した当然の結果として、その際、履行の督促をしなかったことを、同人の処分行為とみているのかもしれない
  • しかし、すでに履行遅滞の状態にある債務者が、欺罔手段によって、一時債権者の督促を免れたからといって、ただそれだけのことでは、刑法246条2項にいう財産上の利益を
    得たものということはできない
  • その際、債権者がもし欺罔されなかったとすれば、その督促、要求により、債務の全部または一部の履行、あるいは、これに代りまたはこれを担保すべき何らかの具体的措置が、ぜひとも行われざるをえなかったであろうといえるような、特段の情況が存在したのに、債権者が、債務者によって欺罔されたため、右のような何らか具体的措置を伴う督促、要求を行うことをしなかったような場合にはじめて、債務者は一時的にせよ右のような結果を免れたものとして、財産上の利益を得たものということができるのである

と判示し、財産的処分行為がないことを理由として詐欺罪の成立を認めず、審理不十分として、第一審の裁判所にもう一度審理(裁判)を行うように命じました。

 この判例は、最高裁が、詐欺が成立するためには被害者の財産的処分行為が必要であることを明確した点に意義があるとされています。

最高裁決定(昭和30年7月7日)

 所持金がなく代金支払の意思もない被告人が、そうでないもののように装って、料亭A方で無銭飲食・宿泊した上、自動車で帰宅する知人を見送ると申し欺いてA方の店先に立ち出たまま逃亡した事案で、裁判官は、

  • 刑法246条2項にいわゆる『財産上不法の利益を得』とは、同法236条2項のそれとはその趣を異にし、すべて相手方の意思によって財産上不法の利益を得る場合をいうものである
  • したがって、詐欺罪で得た財産上不法の利益が、債務の支払いを免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺いて、債務免除の意思表示をなさしめることを要するものであって、単に逃走して事実上支払いをしなかっただけで足りるものではないと解すべきである
  • それゆえ、原判決が被告人の逃亡行為をもって代金支払いを免れた詐欺罪の既遂と解したことは失当である
  • しかし、本件にあっては、被告人は所持金なく、かつ代金支払いの意思がないにもかかわらず、宿泊・飲食したというのであるから、逃亡前、すでにAを欺いて、代金3万2290円に相当する宿泊・飲食などをした時に、刑法246条の詐欺罪が既遂に達したと判示したものと認めることができる

旨を判示し、所持金がなく、かつ、代金支払いの意思がないのに宿泊・飲食した時点で詐欺は既遂に達するとしました。

 この判例は、最高裁が、財産的処分行為の認定につき、厳格な態度をとった点が注目される判例です。

被害者の不作為による財産的処分行為

 欺かれた者が、作為によって、債務弁済の延期又は債務免除などの意思表示をしたような場合には、そこに財産的処分行為が認められることはいうまでもありません。

 これに対し、欺かれた者が、債務の弁済を請求しないなどの不作為を意識的に行う場合にも、財産的処分行為があったということができるでしょうか?

 答えは、不作為による場合でも、財産的処分行為があったということができるとされます。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和50年1月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法246条2項の詐欺罪の要件としての財産的処分行為は、必ずしも法律行為に限られるものではなく、事実上の財産的損失を生ぜしめるような事実行為でも足り、また作為に限らず不作為によっても成立するものと解すべきである

としました。

 例えば、詐欺犯人が、旅館に宿泊して飲食した後、所持金のないことに気づき、旅館主に対して、「外出してタ刻戻ってくる」と欺いて立ち去り、本当にタ刻戻るものと誤信した旅館主をして、宿泊料の支払を請求させなかった場合には、不作為による宿泊料債権に対する弁済猶予の財産的処分行為が行われたものとして、詐欺利得罪の成立を認めることができます。

 参考となる判例として、以下の判例があります。

仙台高裁判決(昭和30年7月19日)

 旅館に一泊した被告人が、旅館の女主人に「外出してタ方帰るから」と偽って旅館を出て、そのまま逃走して宿泊料の支払を免れた事案で、裁判官は、

  • 被告人は、旅館の女主人甲に対し、外出してタ方帰ってくるからと欺罔手段を施し、それにより錯誤に陥った同女は、その際、当然即時なすべき宿泊料の支払請求をせず、即ちその処分行為によって被告人は事実上一時宿泊料の支払を免れたものであるから、詐欺利得罪が成立する

としましました。

東京高裁判決(昭和33年7月7日)

 旅館の女主人に「外出してタ方帰るから」と偽って旅館を出て、そのまま逃走して宿泊料の支払を免れた事案で、裁判官は、

  • 刑法第246条第2項にいう財産上不法の利益の取得が債務の支払を免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺罔して、債務免除の意思表示をなさしめた場合たることを要することは所論のとおりであるが、その意思表示は、必ずしも明示たるを要しないものと解しなければならない
  • 被告人は、旅館を立ち去るに当たり、「今晩必ず帰ってくるから」と申し欺き、そのために、旅館主をして、被告人に対して請求し得べき宿泊料等の支払をさせなかったことが明らかであるので、この「支払の請求をさせなかったこと」は、とりも直さず、被告人が旅館を立ち去るに当たり、支払を即時にしなくてもいい旨、換言すれば、同旅館主において、被告人の支払を少なくとも一時猶予する旨の意思を暗黙に表示させたわけであり、しかも、この暗黙裡の意思表示が被告人の詐欺行為の結果によってなされたものである所からいって、被告人は刑事上の責任を負うべき筋合いである

と判示し、被害者が黙示的な一時支払猶予の意思表示をした事案で、2項詐欺の成立を認めました。

 ここで注意しなければならないのは、犯人が「外出してタ方帰るから」などの欺く行為をして旅館を立ち去った場合は2項詐欺が成立するものの、犯人が旅館主の隙を見て逃走したため、旅館主が、事実上、宿泊料の支払を請求しえなかった場合には、旅館主の財産的処分行為があったとはいえないから、2項詐欺は成立しないとされます。

 この点について、犯人が何も言わずに(被害者を欺罔することなく)逃走したため、財産的処分行為があったとはいえないとして、詐欺罪の成立を認めたなかった判例として、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和51年9月22日)

 被告人が、甲会社に工事代金90万円余を支払う義務があるのに、群馬県方面に逃走してその支払をせず、90万円の財産上不法の利益を得たことを2項詐欺に当たるとした第一審判決(原判決)に対し、高等裁判所裁判官は、刑法246条2項の詐欺罪の認定につき、相手方による処分行為の判示がないとして理由不備当の瑕疵があると判示し、第一審判決を破棄しました。

 裁判官は、

  • いわゆる2項詐欺が成立するためには、相手方の処分行為を必要とすることは判例上確定したところであり、原判決が、被告人において、甲会社に対する原判示の債務を支払わず、同額の財産上の不法の利益を得たとするためには、原判示のごとく、被告人が群馬県方面に逃走したということだけでは二項詐欺の成立要件を充足せず、相手方たる甲会社の側において、右債務につき何らかの処分行為をしたこと、すなわち、被告人において処分行為をさせたことが必要である
  • 然るに、原判決この点につき毫も判示することなく、また、引用の証拠と対照して原判分を読んでみても、右処分行為の点についてはこれを明らかにすることができないので、原判決は、原判示第二事実につき理由不備もしくは法令の解釈を誤った違法があり、原判決はこの点において、とうてい破棄を免れないものというべきである

と判示しました。