法律(刑法)

詐欺罪(75) ~詐欺利得罪(2項詐欺)④「無意識的財産処分行為は詐欺罪を成立させない」を判例で解説~

無意識的財産処分行為は詐欺罪を成立させない

 詐欺罪の成立には、詐欺被害者の財産的処分行為が必要です。

 ここで、詐欺被害者が、『無意識』で財産的処分行為を行った場合、詐欺罪は成立するでしょうか。

 答えは、詐欺被害者が、無意識で財産的処分行為を行った場合は、詐欺罪は成立しません。

 たとえば、請願書だと偽って、債権証書に署名させて借金を負わせた場合、詐欺被害者の財産的処分行為があったといえるが問題になります。

 この場合、請願書だと偽って、債権証書に署名させる行為は、被害者には書面に署名するという認識はあったものの、その書面が債権証書であること(つまり、署名の結果、債務を負担するということ)について認識がないから、財産的処分行為とはいえず、詐欺罪は成立しないとされます。

無意識的処分行為が詐欺罪を成立させない理由

 詐欺罪は、犯人の相手方に対する欺罔行為と相手方の犯人に対する処分行為が対立し、これが財産上の利益の収得という目的へ方向づけるという構造をもちます。

  しかもこれは、二つの主体の並列関係を前提とする取引を通じて行われるという意味で、他の盗取罪と区別されるという特色があります。

 被欺罔者(欺かれた者)の処分行為は、単に犯人が財産を取得する過程の因果関係を示すものとしてのみ理解することはできません。

 処分行為は、一つの主体的性格をもつものであり、行為者の意思にもとづいて行われなければなりません。

 このことは、被欺罔者の身体的態度が結果発生の原因であるということではたりません。

 結果に対して、被欺岡者の意思支配がなければならないとされます。

無意識的処分行為の有無が争点になった判例

 無意識的処分行為が争点になった判例として、以下の判例があります。

大審院判決(明治44年9月14日)

 被害者が文盲なのに乗じて、契約証書の内容が被害者名義の家屋を被告人らと共有する趣旨なのに、この家屋を売却して約束の金を被害者に支払う旨の契約書と偽って、契約証書に署名捺印させた事案に関して、文書偽造罪のみの成立を認めました。

 裁判官は、

  • 本件において、被告らの行為を証書騙取(詐取)罪に問わんとするの、証書の作成名義人が証書の内容を了知したるも、被告人の施したる詐欺手段により錯誤に陥りたる結果、これに署名捺印して、これを交付したる事実なかるべからず

と判示し、詐欺罪は成立せず、文書偽造罪のみが成立するとしました。

大審院判決(昭和2年3月26日)

 相手方を欺いて、文書の内容が真実であると誤信させた上、その文書を作成する意思で署名捺印して交付させた場合は、文書に対する詐欺罪を構成することになります。

 裁判官は、

  • 金銭の授受完了に先じ作成したる借用証書を授受ありたるものの如く偽り、これを利用して不正の利得をなさんがため、他人をして保証人としてその証書に書面捺印して交付せしめたるときは、証書騙取による詐欺罪を構成す
  • 詐欺罪は、人を欺罔して騙取するによりて成立するものにして、いやしくもこれの要件の具備する以上は、その詐欺により被害者のなしたる意思表示が法律行為の要素に錯誤ありたるため無効に帰すると、将た被害者において、その意思表示を取り消すまで有効なる法律行為の成立したるとにより、本罪の成立に異なりたる影響を及ぼすものにあらず
  • 既に人を欺罔して財産を騙取したる以上は、これに財産権侵害の事実あること明白にして、更にこれ以外の計算関係において損害の存することを要するものにあらず
  • 被告人は、代金支払の資力なきにかかわらず、これある如く装いて欺罔し、名を売買に託して不動産を騙取したるものなれば、その行為が詐欺罪を構成するはもちろんなりとす

と判示し、相手方を欺いて、文書の内容が真実であると誤信させた上、文書を作成する意思で署名捺印して交付させたときは、文書に対する詐欺罪が成立するとしました。