法律(刑法)

詐欺罪㉘ ~「補助金、奨励金に関する詐欺」を判例で解説~

補助金、奨励金に関する詐欺

 詐欺罪(刑法246条)について、補助金奨励金に関する詐欺の判例を紹介します。

大審院判決(昭和8年2月2日)

 補助金、奨励金の交付に当たっては、係員が査定するものであるが、提出された書類を調査し、これを基礎として査定し、交付額を決定するものであるから、補助金、奨励金の交付を受ける場合に、虚偽内容の工事竣工精算書・建築費精算書を提出することは、人を欺くことに当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 神奈川県令震災復興耕地整理補助規則に基づき、補助金の下付を受けんとする者が、故意に虚偽仮装の内容を有する工事竣工精算書を提出して、県の査定を誤らしめ、よって不当過大の補助金の下付を受けたるときは、詐欺罪を構成す

と判示しました。

最高裁決定(昭和32年1月31日)

 供出制度の下、超過供出でない甲らの供出米麦を、あたかも乙らの超過供出したもののごとく偽装して、食糧検査官に虚偽の報告をし、食糧事務所から超過供出報奨金名下に金員の交付を受けた場合は、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 原判決がなした、「米麦等主要食糧の供出は、各生産者別に課せられ、各生産者は、その割当てられた数量の米麦等を一定の期間内に政府に売渡す義務があって、部落の連帯責任ではない」旨の判示、並びに、「本件のように超過供出でない甲等の供出米麦をあたかも乙等の超過供出したものなるがごとく偽装して食糧検査官に虚偽の報告をし、同検査官をしてその旨誤信させ、よって食糧事務所から超過供出報奨金名下に金員の交付を受けたときは、詐欺罪を構成する」旨の判示は、いずれも、正当である

と判示しました。

最高裁判決(昭和31年4月17日)

 町長が自ら授産場を経営するため、その地位を利用して町議会に町営授産場を設置する旨の議決をなさせた上、その認可を受け、授産場があたかも町営であるかのように装って係官を欺き、補助金の下付を受けた場合について、詐欺罪が成立するとしました。

裁判官は、

  • 表面上形式的には、授産場は町営の下に設置経営せられているように見えるけれども、その実質はあくまで被告人B(※町長から授産場の経営を任された者)の個人経営の範囲を出でないものであることが認められる
  • また、右授産場の設置経営について町議会の議決を経たことは所論のとおりであるが、それは該授産場の経営が公共事業である性質上個人には認可されず、表面町営であるということにすれば認可になることから、町長の地位にある被告人Aの操作によって、かかる処置が採られたまでのことであって、本件被害者に対する関係においては、被告人両名が被告人Bの個人経営に帰する事情を秘し、あたかも町で設置経営するように装って作為した結果、そのことを知らない当該係官は町で設置経営するものとのみ信じて、本件補助金を下附したものであるという事実が認められる
  • 従って、詐欺罪の構成要件は充たされているのであって、被告人はその刑責を免れることはできない

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和32年1月31日)

 供出米の検査に際し、米俵から刺しとられるいわゆる「刺米」を、いわゆる匿名供出として生産者から売渡を委託された米であるかのように装い、政府に対し、売渡を申し込み、係員を誤信させた結果、預金として口座に代金を振り込ませて、財産上の利益を得た場合について、横領罪とは別個に詐欺罪も構成するとしました。

 裁判官は、

  • いわゆる匿名供出とは、主要食糧たる米麦等の生産者が、食糧管理法3条1項の規定により定められた数量を超えてその生産した米麦等を政府に売り渡す(供出)にあたり、まず指定代表者に委託し、指定代表者は、委託者の住所、氏名をあらわさないで、委託者の生産した米麦等を政府に売り渡すことをいうものである
  • されば、本件のように、共謀の上、供出米の検査に際し、俵から刺とられたいわゆる「刺米」を、あたかも生産者から売渡を委託された米であるかのように装い、政府に対し売渡を申し込み、食糧検査官の検査を求め、同検査官はその旨誤信して支払証票を発行し、該証票に基き代金の支払を請求し、係員を誤信せしめた結果預金として、口座に代金を振り込ませて財産上の利益を得た場合には、詐欺罪を構成する
  • あるいは、いわゆる刺米は、政府の所有米であるから、これを政府に匿名供出することは、横領罪を構成するものであって、供出の結果政府から代金を取得しても、それはいわゆる事後処分であって、横領罪のほか別に詐欺罪を成立せしめるものではないというかも知れない
  • しかし、いわゆる匿名供出による米麦等の売渡の場合は、特別多額な超過供出報奨代金(本件では普通供米価格の3倍)を支払われるものであって、匿名供出は、この特別の利益を目的とするものであるから、本件のように他人の所有米を匿名供出する行為が、かりに一面において横領罪を構成することあるとしても、他面において詐欺罪を成立せしめること明らかであるといわなければならない

と判示しました。

名古屋高裁判決(昭和29年11月22日)

 失業対策事業において、事実、就労者がないのに、就労があったように記載して賃金の支払を受けた場合はもちろん、県の定めた適格者でない者を就労させ、事実就労していない適格者の氏名を記載して賃金の支払を受けた場合は、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 事実就労者がないのに、就労者があったものの如く記載して賃金の支払を受けた場合はもちろん、単に就労していない適格者の氏名を記載して、その名において賃金の請求をし、その支払を受けた場合でも、それ自体事実に反する虚偽の事実を記載して賃金の請求をなすにほかならず、これによって相手方に対し、欺罔手段が用いられたものと認めるほかはない

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和35年3月18日)

 農林漁業組合再建整備法に基づき、再建整備の対象に指定され、いまだその目的を達成していない組合が、同法に基づく増資奨励金の交付を受けるに当たり、虚偽の欠損金を計上した再建整備実績報告書と試算表を提出して、農林省当局から同法に基づく増資奨励金の交付を受けた場合について、欠損金の存否は、再建整備の目標達成には直接関係がなく、農林省当局において増資奨励金を交付するに際し、その審査の対象としていないのであるから、虚偽の欠損金を計上した書類の提出によって、農林省当局を欺いたことにならず、詐欺罪は成立しないとしました。

 裁判官は、

  • 欠損金の解消は、自己資本充足の一要素に過ぎなく、欠損金を解消したからといって直ちに自己資本が充足したとはいえないばかりでなく、固定化債権及び固定化在庫品が資金化されていない場合は、到底、債権整備の目標を達成したことにならないことが明白である
  • 債権整備報告書及び各試算表には、それぞれ欠損金が存する旨の記載があるけれども、欠損金の存否は、再建整備の目標達成には直接関係がないのであって、農林省当局において、増資奨励金を交付するに際し、これが審査の対象としていないのであるから、これにより農林省当局を欺罔したことにはならないものというべく、従って、被告人らの本件増資奨励金の交付については、詐欺罪は成立しないといわなければならない

と判示しました。

神戸地裁判決(平成14年11月22日)

 政府が、農畜産業振興事業団法に基づいて実施する牛肉在庫緊急保護対策事案を悪用して、約2億円の補助金を詐取した事件について、詐欺罪の成立を認め、執行猶予付きの判決が言い渡しました(雪印食品食肉偽装事件)。