刑法(詐欺罪)

詐欺罪(96) ~「特殊詐欺における被害者の『だまされたふり作戦』は承継的共同正犯として、詐欺未遂罪が成立する」を解説~

特殊詐欺における被害者の「だまされたふり作戦」は承継的共同正犯として、詐欺未遂罪が成立する

 振り込め詐欺などの特殊詐欺において、被害者が、詐欺師からの電話を受けた段階で詐欺であることに気づき、だまされたふりをして、受け子(被害者から現金を受け取る役割を担う者)を自宅に来させ、その場で待ち構えていた警察に受け子を逮捕してもらうことを「だまされたふり作戦」といいます。

 「だまされたふり作戦」は、被害者がだまされいない状態で受け子に現金を渡すふりをするのだから、被害者はだまされておらず、それ故、受け子に対して詐欺罪(詐欺未遂罪)は成立しないと考え方こともできます。

 この点について、最高裁は、被害者が「だまされたふり作戦」をしたとしても、受け子に対して詐欺未遂罪が成立するという結論を出しています。

 その考え方は、受け子は、詐欺の電話をかけた者(かけ子)の欺罔行為を利用して詐欺を行おうとしたのだから、承継的共同正犯が成立し、かけ子と受け子の両方に詐欺未遂罪の共同正犯(共犯)が成立するというものです。

 かけ子は、電話をかけた時点で、詐欺の実行の着手ありと認められ、この時点で詐欺未遂罪が成立します。

 そして、受け子は、かけ子との共同正犯(共犯)が認められるので、受け子にも詐欺未遂罪が成立するという考え方になります。

 この点を判示した最高裁判例の判決内容は以下のとおりです。

最高裁判決(平成29年12月11日)

 特殊詐欺におけるいわゆるだまされたふり作戦(だまされたことに気付いた、あるいはそれを疑った被害者側が、捜査機関と協力の上、引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして、受領行為等の際に犯人を検挙しようとする捜査手法)と詐欺未遂罪の共同正犯の成否について、職権で判断する。

1 本件公訴事実及び本件の経過

(1)本件公訴事実

 本件公訴事実の要旨は、次のとおりである。

 被告人は、氏名不詳者らと共謀の上、Aが、数字選択式宝くじであるロト6に必ず当選する特別抽選に選ばれたことによりその当選金を受け取ることができると誤信しているのに乗じ、同人から現金をだまし取ろうと考え、平成27年3月16日頃、福岡県大野城市内所在のA方にいた同人に対し、真実は同人が特別抽選に選ばれた事実はなく、契約に違反した事実も違約金を支払う必要もないのにあるように装い、B会社のCを名乗る氏名不詳者が、電話で、「Aさんの100万円が間に合わなかったので、立て替えて100万円を私が払いました。」「Aさんじゃない人が送ったことがD銀行にばれてしまい、今回の特別抽選はなくなりました。不正があったので、D銀行に私とAさんで297万円の違約金を払わないといけなくなりました。違約金を払わないと今度の抽選にも参加できないので、半分の150万円を準備できますか。」などとうそを言って、現金150万円の交付方を要求し、Aをして、違約金を支払う必要があり、違約金を支払えばロト6に必ず当たる特別抽選に参加できる旨誤信させ、大阪市内所在の空き部屋に現金120万円を配送させて、被告人が受取人であるEのふりをして配送業者から受け取る方法により、現金をだまし取ろうとしたが、警察官に相談したAがうそを見破り、現金が入っていない箱1個を発送したため、その目的を遂げなかった。

(2)第1審判決

 第1審判決は、被告人と共犯者らとの間では、本件公訴事実記載の詐欺(以下「本件詐欺」という。)につき、事前共謀は成立しておらず、共犯者による欺罔行為後に共謀がされたと認められるが、被告人の共謀加担前に共犯者が欺罔行為によって詐欺の結果発生の危険性を生じさせたことについては、それを被告人に帰責することができず、かつ、被告人の共謀加担後は、だまされたふり作戦が開始されたため、被告人と共犯者らにおいて詐欺の実行行為がなされたということはできず、被告人は詐欺未遂罪の共同正犯の罪責を負うとは認められないとして、被告人に対し、無罪の言渡しをした。

(3)原判決

 検察官が控訴したところ、原判決は、被告人が欺罔行為後の共謀に基づき被害者による財物交付の部分のみに関与したという事実関係を認定し、これを前提として、だまされたふり作戦の開始にかかわらず、被告人については詐欺未遂罪の共同正犯が成立するとし、これを認めなかった第1審判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるとして、第1審判決を破棄し、被告人を懲役3年、5年間執行猶予に処した。

2 当裁判所の判断

(1)原判決の認定によれば、本件の事実関係は次のとおりである。

 Cを名乗る氏名不詳者は、平成27年3月16日頃、Aに本件公訴事実記載の欺罔文言を告げた(以下「本件欺罔行為」という。)。

 その後、Aは、うそを見破り、警察官に相談してだまされたふり作戦を開始し、現金が入っていない箱を指定された場所に発送した。

 一方、被告人は、同月24日以降、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、氏名不詳者から報酬約束の下に荷物の受領を依頼され、それが詐欺の被害金を受け取る役割である可能性を認識しつつこれを引き受け、同月25日、本件公訴事実記載の空き部屋で、Aから発送された現金が入っていない荷物を受領した(以下「本件受領行為」という。)。

(2)前記(1)の事実関係によれば、被告人は、本件詐欺につき、共犯者による本件欺罔行為がされた後、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、共犯者らと共謀の上、本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。

 そうすると、だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず、被告人は、その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。

3 結論

 したがって、本件につき、被告人が共犯者らと共謀の上被害者から現金をだまし取ろうとしたとして、共犯者による欺罔行為の点も含めて詐欺未遂罪の共同正犯の成立を認めた原判決は、正当である。