刑法(公務執行妨害罪)

公務執行妨害罪(12) ~職務行為の適法性が認められた事例⑥「警察官以外の公務員の職務行為の適法性が認められた事例」を解説~

公務執行妨害で警察官以外の公務員の職務行為の適法性が認められた事例

 公務執行妨害罪(刑法95条第1項)に関し、警察官以外の公務員の職務行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとした事例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和51年5月21日)

 中学校長の中学校一斉学力調査(学力テスト)を実施する行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

最高裁判決(昭和42年5月24日)

 地方議会の議事進行に関する議長の措置について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

 この裁判で、被告人の弁護人は、議長の職務執行の違法性を主張し、違法な執行に対しては公務執行妨害罪は成立しないと主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 議長のとった本件措置が、本来、議長の抽象的権限の範囲内に属することは明らかである
  • かりに当該措置が会議規則に違反するものである等、法令上の適法要件を完全には満していなかったとしても、原審の認定した具体的な事実関係のもとにおいてとられた当該措置は、刑法上には少なくとも、本件暴行等による妨害から保護されるに値する職務行為にほかならず、刑法95条1項にいう公務員の職務の執行に当るとみるのが相当であって、これを妨害する本件所為については、公務執行妨害罪の成立を妨げないと解すべきである

と判示しました。

東京高裁判決(昭和52年11月30日)

 都議会管理部長の命を受けた都職員が、都庁内で不当な行為をする者を排除した行為について、裁判官は、

  • 庁舎内で不当な行状をする者を庁舎外に運び出し、あるいは押し出す程度の実力による排除行為が、庁舎管理権の行使として許される

とし、前記排除行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和52年5月30日)

 税務署長の庁舎管理権に基づく立入禁止措置に従い、税務署会計係長が民主商工会員の庁舎立入りを阻止した行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和51年2月24日)

 警察署長の庁舎管理権に基づき、警察署内で喧騒に及んだ集団を排除する行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

徳島地裁判決(昭和44年3月20日)

 税務署職員の労音例会の入場人員調査行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

最高裁決定(昭和37年7月12日)

 刑務所長の事前の命令がなかったが、刑務所所職員が大声を出して暴行を加えかねない受刑者に対し、戒具を使用した行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

 この裁判では、旧監獄法施行規則49条の規定により、戒具を使用するためには刑務所長の命令が必要とされていたところ、その事前の命令がなかったため、刑務所職員が戒具を使用した行為の適法性が争われました。

 控訴審の裁判官は、

  • 受刑者である被告人が、自己の行動につき注意を加えた看守を脅迫したので、その事実取調べのため、副看守長らが被告人を保安課事務所に連行するや、大声を発し暴行を加えかねない態度を示したので、副看守長において、保安課長の許可を得て、被告人に革手錠をかけた行為は、その革手錠使用につき、刑務所長又はこれに代わるべき上級職員の事前の命令を受けていなくても、緊急のためこれを受くべき時間的余裕がなかったことが明らかである
  • かつ、事後において、刑務所長から戒具使用の許否につき包括的委任を受けている理部長に報告して、その決裁を受け、さらに刑務所長においてもその報告を受け、被告人に懲罰を科しているときは、適法な職務の執行というべきである

と判示し、看守の戒具使用行為を適法としました。

 そして、最高裁の裁判官もこの判断を肯定しました。

福岡地裁判決(昭和47年9月26日)

 交通巡視員道交法126条による反則行為の事実を告知をするに際して、運転免許証の呈示を求める行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。

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