刑法(住居・建造物侵入罪)

住居・建造物侵入罪① ~「住居侵入罪とは?」「住居とは?(住居の一時使用、居住者不在、乗り物の住居性)」「建物における住居性(建物に一部が住居の場合、共用部分は住居なのか邸宅なのか)」を判例で解説~

住居侵入罪とは?

 住居侵入罪は、刑法130条に規定があります。

刑法130条(住居侵入等)

 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

 本条は前段と後段とに分かれています。

 前段は、正当な理由がないのに、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入する罪を規定したものです。

 前段は、作為犯の犯行態様です。

 侵入場所は、

  • 住居(人が住んでいる家)
  • 邸宅(人が住んでいない家、空き屋など)
  • 建造物(店舗、倉庫、ビルなど)
  • 艦船

の4つに分類されます。

 侵入した場所に応じて、罪名が

  • 住居侵入罪
  • 邸宅侵入罪
  • 建造物侵入罪
  • 艦船侵入罪

になります。

 後段は、建物の居住者や看守者から「退去しろ」という要求があったにもかかわらず、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物、艦船から退去しない罪を規定したものです。

 後段は、不作為犯の犯行態様です。

 たとえば、クレーマーが市役所から退去せずに居座った場合、不退去罪が成立する可能性があります。

 退去しなかった場所に応じて、罪名は

  • 住居不退去罪
  • 邸宅不退去罪
  • 建造物不退去罪
  • 艦船不退去罪

になります。

「住居」とは?

 住居侵入罪における「住居」の定義は、判例で示されています。

大審院判決(大正2年12月24日)

 この判例で、裁判官は、住居の定義について、

  • 人の住居に使用する建造物とは、現に人の起臥寝食の場所として日常使用せらるる建造物をいう

と判示しました。

 つまり、住居侵入罪における「住居」とは、人が寝起きして食事をする場所(生活している場所)となります。

住居は一時使用でも構わない

 住居侵入罪における「住居」を認定するためには、住居の使用が一時的でも構わないのか、それとも継続的であることを要するかという点が疑問になります。

 この点については、住居の使用は一時的でも構わないとするのが判例の立場です。

名古屋高裁判決(昭和26年3月3日)

 この判例で、裁判官は、

  • 住居とは、一戸の建物のみを指すのではなく、族館料理屋の一室といえども、これを借り受けて使用したり、又は宿泊したり飲食している間は、そのお客の居住する住居と認むべき

と判示し、部屋の借り受けや宿泊といった一時使用の場合でも、住居と認め、そこに侵入すれば、住居侵入罪が成立するとしました。

住居侵入の犯行時に居住者がいる必要はない

 犯人が住居侵入を実行したときに、その住居に、居住者が一時的に不在でいなかった場合でも、住居侵入罪は成立します。

 なお、空き家や全く使われていない別荘などに侵入した場合は、居住者が一時的ではなく、継続的に不在にしていると認められるので、「住居」ではなく、「邸宅」や「建造物」に当たり、邸宅侵入罪や建造物侵入罪が成立すると考えられます。

乗り物も「住居」となる可能性がある

 住居といっても、建物であることは必要でなく、自動車、電車、船などであっても、起臥寝食に使用されるものであれば、住居に当たり、そこに侵入すれば、住居侵入罪が成立します。

 学説では、住居は、ある程度の設備・構造が整っているものであれば、テントのようなものでも、住居と認められるとされます。

 ただし、野外の土管の中や、地下道などは、そこで浮浪者が起臥寝食をしていても、住居には当たらないとされます。

「建物」における住居性

建物全体が住居である必要はない

 住居を考えるにあたり、必ずしもその全体をもって一つの住居とみなければならないものではありません。

 建物内の一区画でも、個々に独立の住居になり得ます。

 たとえば、アパートや旅館の一室は、個々に独立した住居になり得ます(上記名古屋高裁判決(昭和26年3月3日)参照)。

 なので、人が住んでいるアパートの一室や、旅館の客室に侵入した場合、住居侵入罪が成立します。

建物の一部が住居の場合、建物全体が住居となるわけではない

 建物の一部だけが住居に用いられている場合に、

  • その建物全体を住居とみるのか
  • それとも住居部分が独立した区画となっている限り、独立した住居部分だけを住居とみるのか

という疑問が生じます。

 この疑問の答えは、

住居侵入罪においては、住居部分が独立した区画となっている限り、その部分だけを住居とみて、他の部分は建造物とみる

となります。

 たとえば、

  • 住居と店舗が一体となってる建物
  • 住居と貸事務所が併存する雑居ビル

は、独立した専用部分をそれぞれの性格に従って、それぞれ住居か建造物かを判断することになります。

 そして、住居部分の侵入であれば、住居侵入罪が成立し、建造物部分の侵入であれば、建造物侵入罪が成立することになります。

 参考になる判例として、以下の判例があります。

広島高裁判決(昭和51年4月1日)

【判例の概要】

 1、2階が貸店舗・貸事務所なので、3、4、5階が住居として利用され、屋上は子供の遊び場・物干し場として利用されている雑居ビルの階段通路を通って、屋上に侵入した事案です。

 住居として利用されている居室に付属する階段通路および屋上について、住居性を認定し、建造物侵入罪ではなく、住居侵入罪が成立するとしました。

【判決の内容】

 裁判官は、ビル全体を建造物と認定した原判決を批判し、

  • 本件のごときビルは、たしかに建物としては、その構造および利用上相互に密接な関連を有し、一個の建造物としての性格を有するが、その中味は、各種の独立した部分と、それに関連する共用部分とからなり、これを刑法130条の客体としてみる場合、必ずしも全体を一個の種別のものに分別して考えなければならない必然性はない
  • 事務所・店舗・住居等でその構造および利用上異なる性格を有する各独立した専用部分は、時にその一方が他方に従属したとみられるような関係にある場合のほか、それぞれの性格に従い、『人の看守する建造物』『人の住居』などとして各別に判断すれば足るものと解される
  • そして、次に問題の共用部分とみられる同ビル階段通路および屋上等についてであるが、これらは、まず、その構造および利用上、これが独立した部分のいずれに従属する性格のものであるかどうかの判断を前提に、さらに、元来『人の住居』と『人の看守する建造物』との区分につき、人の住居とは、それに従属するものも含め、現にこれが人の日常生活の場として利用されていることから、さらに『人の看守』といったことを必要とするまでもなく当然その管理,また平穏の確保といったことが予定され、保護客体としての性格を具有するに至るとみられることによるものであるという観点から判別するのが相当であると考える
  • ビル階段通路および同屋上は、住居部分に必要的に従属し、かつ、その居住者らによるその日常の生活での共同した事実上の監視、管理も当然予定されるところで、居住者の平穏を配慮する必要も強く認められ、結局これからして、本件ビルのうち前記現に住居として利用されている各居室のほか、これに付属する階段通路および同屋上も、右と一体をなして刑法130条所定の『人の住居』にあたるものと解するのが相当であると考えられる

と判示しました。

 さらに上記広島高裁判決(昭和51年4月1日)の流れをくんだ判例として、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和38年4月9日)

 この判例は、アパート内の廊下につき、住居の一部と認定しました。

 裁判官は、

  • 通常アパート内の廊下は、その構造上、その居住者のみの共用にあてるため設けられているものであるから、各住居者の住居の一部と解すべきである
  • 被告人は、窃盗の目的をもって、アパートの1階廊下からに2階居室前廊下まで足を踏み入れたことが明らかである以上、原判決がこれに住居侵入罪の法条を適用したのは正当である

と判示しました。

福岡高裁判決(昭和59年5月7日)

 この判例は、会社独身寮の各居室以外の屋内部分につき、住居の一部と認定しました。

 裁判官は、

  • 本件建物(旅館目的で建てられた建物であって、A会社が独身男子寮として借り受けている建物)は、独身男子社員が起臥寝食の場所として、日常生活をいとなむために使用している場所であって、その平穏は保護されるべきである
  • 1、2階の各室は、その住人の住居であり、その余の部分は、その付属部分で、住居の一部であると解するのが相当である

と判示しました。

名古屋地裁判決(平成7年10月31日)

 この判例は、マンション内の1階出入口、エレべーター、外階段などについて、住居の一部と認定しました。

 裁判官は、

  • 住居侵入罪における住居とは、日常生活に使用するため、人が占有する場所をいい、必ずしも房室である必要はない
  • 本件の共同住宅は、地下2階、地上14階の鉄筋コンクリート造の建物中、3階から14階までの集合住宅とその共用部分である1階出入口、エレベーターホール、二基のエレベーター、階段通路、外階段と外踊り場などから成り、被告人らは、右の共用部分に侵入したわけであって、その侵入場所を「住居」と認定するのに疑問はない

と判示しました。

 対して、上記判例の結論と異なり、アパートなどの集合住宅の共用部分について、「住居」ではなく「邸宅」と認定し、住居侵入罪ではなく、邸宅侵入罪を認定した以下の判例があります。

アパートのなどの集合住宅の共用部分について、「住居」ではなく「邸宅」と認定した判例

広島高裁判決(昭和63年12月15日)

【事案の内容】

 この判例は、アパートの2階外側共用通路につき、各入居者の利用形態が一様でないことから、各入居者それぞれの住居の一部ないしその延長とみることはできないにしても、全体として住居に使用されているアパート建物に附属する施設とみることによって、「邸宅」に当たると解することができるとしました。

【判決の内容】

 裁判官は、

  • 現に人が住居として使用している建物に附属する施設ではあるが、住居の一部とはいえないものや、建物の囲繞地は、これを刑法130条にいう邸宅に当たるものと解し得るのでるが、このことは、右が単一の住居用建物に限らず、アパート等の共同住宅に附属する場合においても、その施設や囲繞地が専らそこに居住する者のみが利用し、あるいはこられの者のためにのみ利用されるべき性質のものである以上同様である
  • これを本件についてみると、本件アパートの建物の構造と形状、その敷地や隣接建物等との関係その他の状況からして、本件アパートが小規模な共同住宅であり、その出入口が袋小路北部分のみであって、他へ通り抜けられるような状況ではなく、従って本件アパートの通路部分は、アパートに何らかの用事のある者以外の一般通行人が自由に出入りすべき場所ではないことが、その外観上から明らかである
  • かつ、アパートの通路部分の形状や利用状況等に徴すると、通路部分は専ら本件アパート住人のみが利用し、あるいは同人らのためにのみ利用されていることもまた明白というべきである
  • そして、通路部分が場所によっては、各入居者らによる利用が一部重複したり、あるいはほとんど専用的になったりして、必ずしもその利用形態が一様ではないので、通路部分をもって各入居者それぞれの住居の一部ないしその延長と見ることはできないにしても、これを全体として住居に使用されているアパート建物に附属する施設と見ることによって、これが刑法130条にいう邸宅に当たる解することは差し支えないというべきである

と判示しました。

最高裁判決(平成20年4月11日)

【事案の内容】

 「自衛隊のイラク派兵反対」などと記載したビラを、各室に投函する目的で、防衛庁立川宿舎の敷地内に立ち入った上、各号棟の階段1階出入口から4階の各室玄関前まで立ち入った事案です。

【判決の内容】

 裁判官は、

  • 立川宿舎の各号棟の構造及び出入口の状況、その敷地と周辺土地や道路との囲障等の状況、その管理の状況等によれば、各号棟の1階出入口から各室玄関前までの部分は、居住用の建物である宿舎の各号棟の建物の一部であり、宿舎管理者の管理に係るものであるから、居住用の建物の一部として刑法130条にいう『人の看守する邸宅』に当たるものと解される

と判示し、住居侵入罪ではなく、邸宅侵入罪が成立するとしました。

 判例おいて、アパートなどの共用部分を「住居」と認定すべきなのか、それとも「邸宅」と認定すべきなのかは論争があるところとなっています。

次の記事

住居・建造物侵入罪①~⑯、不退去罪①②の記事まとめ一覧

住居・建造物侵入罪①~⑯、不退去罪①②の記事まとめ一覧