法律(刑法)

住居・建造物侵入罪⑧ ~「立入りの承諾」「承諾権者(住居者・看守者)」「推定的承諾と包括的承諾」「承諾の範囲外の立入り」を判例で解説~

立入りの承諾があれば、侵入罪は成立しない

 立入り行為に対する住居者又は看守者の承諾がある場合、刑法130条の住居侵入罪や建造物侵入罪などの侵入罪は成立しません。

承諾権者

 刑法130条の侵入罪の成立を否定するような有効な承諾を与えることができる者(承諾権者)は、

住居にあっては「住居者」

邸宅、建造物、艦船にあっては「看守者」

になります。

住居における承諾権者である「住居者」とは?

 住居の場合、承諾権者たり得る住居者とは、

その住居に日常居住する者

をいいます。

 住居者が、一時的に住居を不在にしたからといって、承諾権を失うものではありません。

 友人・知人など、たまたまその住居を訪れた者は、住居者に含みません。

建造物、邸宅、艦船における承諾権者である「看守者」とは?

 建造物、邸宅、艦船の場合、立ち入りの承諾権者たり得る看守者とは、

その建造物、邸宅、艦船の管理権者

をいいます。

 管理権者から全面的に管理の委託を受けている者も、看守者に含まれると考えられています。

看守者に含まないとされた判例

 建物の守衛、警備員、留守番者などは、看守者に含みません。

 これらの者には、建物の管理権がないからです。

 なので、仮に警備員が立入りを黙認あるいは承諾したとしても、建物などの管理権者の意思に反することが明らかな立入りであれば、承諾のある立入りとはいえず、建造物侵入罪が成立します。

 この点について、以下の参考となる判例があります。

大阪高裁判決(昭和34年5月29日)

 留守番者の同意を得て、邸宅に侵入した事案で、裁判官は、

  • 刑法130条の人の看守する邸宅又は建造物に侵入する罪は、その看守者の意思に反して建物内に立ち入ることによって成立するものである
  • 同条にいわゆる看守者とは、看守をする者が自ら直接当該建物に所在して管理する場合はもちろん、番人を置いて監視せしめ、あるいは施錠してその鍵を保管する等の方法により、現実に右建物を事実上管理支配している関係にあることをいうものであって、その看守者の指揮監督の下に単に事故防止のため監視に当たっている一時的留守番のごときは、その建物について管理権がなく、右建物に他人をして入居させることを許す権限がないものであるから、たとえ一時的留守番の同意を得て入居したとするも、看守者本人の意思に反することが明らか状況であれば、本罪が成立するものと解すべきである

と判示し、留守番者に入居を認めるような権限は全然なく、留守番者が被告人の入居を認めることが、邸宅の看守者の意思に反する背任的な行為であることを、被告人が認識していたと認められることから、留守番者の同意を得て入居しても、邸宅侵入罪の成立を免れないとしました。

東京高裁判決(昭和27年4月24日)

 宣伝ビラを警察官に配布する目的で警察署庁舎に侵入した事案で、裁判官は、

  • 警察署庁舎の看守権は、旅行その他看守権をみずから行使することのできぬ事情があるためこれを他の者に委ねた場合のほかは、退庁して同庁舎内に現在していなくても依然として警察署長にある

と判示し、警察署長は退庁後も警察署庁舎の看守者であり、看守を署長から委されていない署員が立入りに同意を与えたとしても、同意としての効力はないとしました。

大審院判決(昭和9年10月29日)

 共同代表取締役の一人であるAのために、株主総会の開催を不能にする目的で、会社に侵入した事案で、裁判官は、

  • Aの意思に反せざるとするも、Aは個人的関係たるにとどまり、もとより会社の意思に反すること明白なれば、Aの意思如何は、罪の成立に影響を及ぼすものにあらず

と判示しました。

承諾の効力

 住居者又は看守者の承諾は、任意に出たものであることを要します。

 なので、侵入犯人の威圧による不任意な承諾は、無効であり、侵入罪を成立させます。

 この点について、参考となる以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年10月11日)

 この判例で、裁判官は、

  • 赤旗を擁した多数の威力を背景とする被告人らの言動に威圧されて、市長夫人が家宅捜索の承諾を与えたのは、真意から出たものではない

として、住居侵入罪が成立するとしました。

錯誤による承諾は無効である

 住居者又は看守者の承諾は、真意に出たものであることを要します。

 なので、住居者又は看守者の承諾が、錯誤による承諾であった場合は、その承諾は無効になります。

 たとえば、侵入犯人が強盗目的で店に入ることを隠し、客を装って店に立ち入り、店の看守者がその立ち入りに承諾を与えても、その承諾は無効であり、建造物侵入罪を成立せせます。

 なので、違法な目的を隠して立入りの承諾を得た場合、承諾者がその目的を知っていたら承諾しなかったであろうといえる限り、その承諾には錯誤があり無効ということになります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和23年5月20日)

 強盗殺人をする目的で店に侵入した事案で、裁判官は、

  • 刑法住居侵入罪の「故なく」とは、正当の事由なくしての意であるから強盗殺人の目的をもって他人の店舗内に侵入したのは、すなわち、故なくこれに侵入したものにほかならない
  • そして、住居権者の承諾ある場合は、違法を阻却することもちろんであるけれども、被害者において顧客を装い来店した犯人の申出を信じ、店内に入ることを許容したからといって、強盗殺人の目的をもって店内に入ることの承諾を与えたとは言い得ない
  • 果して、然らば、被告人等の本件店屋内の侵入行為が住居侵入罪を構成すること言うまでもない

と判示し、被害者が、犯人の強盗目的を知らずに、犯人に対して与えた立入りの承諾は無効であり、建造物侵入罪が成立するとしました。

最高裁判決(昭和24年7月22日)

 強盗の意図を隠して「こんばんは」と挨拶し、家人が「お入り」と答えたのに応じて住居に入った事案で、裁判官は、

  • 外見上、家人の承諾があったように見えても、真実においてはその承諾を欠くものであることは言うまでもない

と判示し、住居侵入罪の成立を認めました。

東京高裁判決(平成5年2月1日)

 虚偽の氏名・住所を記載した傍聴券を携帯・提示して参議院へ立ち入った行為について、看守者の意思に反するとして、建造物侵入罪の成立を認めました。

 一審判決(東京地裁 平成4年5月21日)では、立入りの目的が審議の妨害であったとは認められないとしながら、裁判官は、

  • 違法行為に及ぶ目的をもっての立ち入りでないとしても、当該建物の性質、使用目的、管理状態、管理権者の態度などからみて、現に行われた立ち入り行為につき、管理権者がこれを容認していないと合理的に判断されるならば、当該立ち入り行為が建造物侵入の罪を構成するのはもちろんである
  • かかる態様(※虚偽の氏名、住所を記載した傍聴券を携帯し、通用門において、その事情を秘して立番勤務中の衛視に提示して院内に立ち入った態様)による立ち入り行為については、右認定にかかる傍聴希望者らに対する度重なる厳重な点検、検査の状況からしても、参議院の管理権者である参議院議長がこれを容認していないことは明らかというべきである
  • さらに、国会法等関係法令の全体の趣旨からすると、傍聴規則1条2号で傍聴券への氏名等の記入を要求している具体的な趣旨は、主として、自らの身元を明らかにさせることによる心理的強制力によって、傍聴人による議事妨害その他の院内秩序の侵害を防止しようとするものと解されるのであり、かかる趣旨に照らすと、傍聴券に記載されるべき氏名が真実のものでなければならないことは、自明のことといえる
  • 参議院議長は、傍聴規則1条2号によって、所持する傍聴券に真実の氏名、住所等を記入していない者の院内への立ち入りを許さない意思を外部に表明しているものといえる

と判示し、本件行為は、管理権者の意思に反するとして、建造物侵入罪を認めました。

 二審の東京高裁でも、この判決が是認され、維持されました。

仙台高裁判決(平成6年3月31日)

 国民体育大会の開会式を妨害する目的で、一般観客を装い、入場券を所持して開会式場である陸上競技場に立ち入った事案です。

 被告人の弁護人の「入場券を所持して正規の入口から平穏に入場しており、本件建造物の保護法益が侵害されたとはいえない」との主張に対し、裁判官は、

  • 建造物侵入罪の保護法益を建造物の管理権と見るか、建造物利用の平穏と見るかはともかくとして、他人の看守する建造物に管理権者の意思に反して立ち入ることは、その建造物管理権の侵害に当たることはもとより、一般に、管理権者の意思に反する立入り行為は、たとえそれが平穏、公然に行われた場合においても、建造物利用の平穏を害するものということができる

と判示して、管理者の意思に反する立ち入りであるとして、建造物侵入罪が成立するとしました。

推定的承諾と包括的承諾

 住居者又は看守者が、立入りの場に現在するときは、

  • 「入ってください」などと言って、立入りを明示に承諾する
  • 立入りを黙認し、立入りに対して黙示の承諾を与える

という方法が一般的です。

 住居者又は看守者が、立入りの場に現在するときは、立入りに対する承諾があったことが明瞭になるため、承諾の有効性が問題になることは少ないです。

 これに対し、

住居者又は看守者が、立入りの場に現在しないとき

の承諾の有効性が問題視されることが多々あります。

 理由は、住居者又は看守者が、立入りの場に現在しないときの承諾は、

推定的承諾

包括的承諾

になるため、立入りに対する有効な承諾があったのかが、解釈に委ねられ、承諾が明確にならないためです。

推定的承諾とは?

 推定的承諾とは、

住居者等が立入りの場に現在したと仮定した場合に、立入りに同意をしたであろうと推測されること

をいいます。

 たとえば、彼女の家に遊びに行ったところ、彼女が不在だったため、勝手に彼女の家に上がったとしても、彼女の家への立ち入りは、彼女の推定的承諾があったものとして、適法な立入りとされる可能性が高いです。

 推定的承諾は、承諾が実在しない点において、以下で説明する包括的承諾とは区別されます。

包括的承諾とは?

 包括的承諾とは

立入りについての承諾が、その都度、個々になされるのではなく、あらかじめ包括的になされていること

をいいます。

 包括的承諾が行われるケースとして、たとえば、多人数の者の出入りが予想される執務時間中の官公署、企業の事務所、営業中のお店が典型例として挙げられます。

 包括的承諾は、明示的にされる場合もあるし、黙示にされる場合もあります。

 包括的承諾は、承諾が事前とはいえ、承諾が実在する点において、推定的承諾とは区別されます。

推定的承諾が争点になった判例

 推定的承諾が認められるかどうかが争点になった判例として、以下の判例があります。

大審院判決(大正7年12月6日)

 夫の不在中に妻の承諾の下に姦通目的で住居に立ち入った事案で、裁判官は、

  • 他人の不在に乗じ、その妻と姦通する目的をもって、その住居に侵入せんとしたるときは、たとえあらかじめ妻の承諾を得たりとするも、当然、夫たる居住権者が被告の住居に入ることを容認する意思を有すと推測し得べきものにあらざれば、妻が夫に代わり承諾を与えるも、何ら効力を生ずべきものにあらず

と判示し、承諾権者たる夫が立入りを認容する意思があるとは推測し得ないとして、推定的承諾はなかったとし、住居侵入罪が成立するとしました。

大審院判決判(大正4年10月6日)

 親族の家に、強盗目的で立ち入った事案で、裁判官は、

  • たとえ親族の関係ありといえども、同居の事実なき者の家宅へ強盗のため侵入したる以上は、家宅侵入罪を構成するものとす

と判示し、被害者と親族の間柄であっても、強盗のため立ち入った以上、推定的承諾は認めず、住居侵入罪が成立するとしました。

最高裁判決(昭和23年11月25日)

 家出中の息子が、強盗の目的で実父宅へ侵入した事案で、裁判官は、

  • 強盗の目的で、しかも共犯者3名をも帯同して、深夜、家宅内に侵入したとあっては、たといそれがかつては自らも住み慣れたなつかしい実父の家であるとしても、父としても、世間としても、これを目して正当な「故ある」家宅の侵入とは認めえないであろう
  • されば、被告人らの所為は、数人共同して住居侵入罪を実行した場合に該当する

と判示し、実父の推定的承諾を認めず、住居侵入罪が成立するとしました。

最高裁判決(昭和24年12月13日)

 ふだん気安く被害者の家を出入りしている被告人が、強姦の目的で被害者の家に立ち入った事案で、裁判官は、

  • 弁護人は、被害者A方は氷屋であって被告人はふだん気易く同人方に出入し、同家奥の間は氷水を飲むときにも便所に行くときにも通ったりしていたので、被告人が奥の間に入るについては、右Aの承諾を予想していたのであると主張する
  • しかし、右のような事柄について承諾が予想されるからといって、直ちに強姦の目的で侵入することの承諾までが予想されるものと推論し得ないことはいうまでもない
  • すでに、Aにおいて被告人の右奥の間における強姦の行為の承諾が予想されない以上、同女が被告人に対して退去を要求したと否とにかかわらず、被告人が同女の意志に反して奥の間に入ったものということができる

と判示し、被害者の推定的承諾を認めず、住居侵入罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和27年4月24日)

 警察署の措置に対する抗議を内容とする宣伝ビラを警察官などに配布する目的で警察署に立ち入った事案で、裁判官は、

  • 本件においては、要するに被告人両名が人の看守する建造物である国家地方警察栃木地区警察署及び栃木市警察署共用の庁舎内に「故なく侵入」したものであるかどうかが問題の焦点なのである
  • そして、被告人両名が右庁舎内に立ち入ったことは争のないところであるから、右の立ち入りがまず刑法第130条にいわゆる「侵入」に該当するかどうかを考えてみるのに「侵入」とは、この場合、右の建造物を看守する者の意に反して建造物内に立ち入ることをいうのである
  • 従って、被告人両名の立ち入り行為が「侵入」でないというためには、看守者がこれに明示もしくは黙示の同意を与えたか、又はその立ち入りにつき看守者の推定的同意が認められることを必要とするといわなければならない
  • 右庁舎の前記入口は別にこれを閉鎖してなく、開放的な状態にあることが認められる
  • そして、右建造物は警察署として使用されているものであるから、その公共性からいって、正当な用務のために来た者に対しては、あらかじめ一般的にその立入につき黙示の承諾が与えられているものと解しなければならない
  • 従って、たとえば犯罪の発生したことを告げに来た者とか、警察署から出頭を求められたものが無断でその入口から庁舎内に入つたとしても、ここにいう「侵入」とはいえないのである
  • しかしながら、被告人両名が、庁舎内に立ち入つたのは、D党E地区委員会名義の宣伝ビラを警察官等に配布するためであったこと明らかであり、かかる目的で立ち入ることはもとより、公共の機関たる警察署を市民が利用するために立ち入る場合と同一視することはできず、建造物看守者の事前における黙示の承諾の範囲を超えるものであること明白であるから、これをもつて黙示の同意の下に立ち入ったとすることもできない
  • 次に、推定的同意というのは、もし建造物看守者がそこに現在したと仮想した場合その立ち入りに同意したであろうと考えられることをいうのであるが、本件建造物の看守者である警察署長が被告人両名の立ち入りに同意したであろうとは到底考えられないこと原判決の説示するとおりであるから、この点においても本件立ち入りの行為が看守者の意に反したものでないとはいえないのである
  • すなわち、以上考えきったところからすると、論A巡査部長が同庁舎に来る前に、すでに被告人両名は前記庁舎内に「侵入」していたものである
  • そして、その立ち入りがよしんば平穏公然になされたものであったとしても、いやしくも看守者の意に反してなされる限り「侵入」たるを妨げるものではない
  • なお論旨は、被告人らの立ち入りの動機、目的になんらの不法性がないから、「故なく」侵入したものではないと主張する趣旨をも含むと解せられるが、「故なく」とはいうまでもなく正当の理由のないことをいうのであって、正当の理由のある侵入とは、たとえば法令により捜索等のため看守者の意に反して立ち入る場合のごときをいうのであり、看守者の意に反してまで建造物に立ち入ることを正当視するためにはきわめて強い理由の存在することを必要とするのである
  • 従つて、たとえ被告人両名の立ち入りの動機が不法なものとはいえないにしても、この程度をもってしては、それだけから看守者の意に反しても前記庁舎内に立ち入ってよいとはいえぬこと多言を用いるまでもない

と判示し、看守者である警察署長がその立入りに同意したであろうとは到底考えられないとして、推定的承諾は認めず、建造物侵入罪が成立するとしました。

 これらの判例をみると、推定的承諾の有無を判断するにあたって、

住居者等が行為者の目的を知っていたら同意を与えなかったであろう

という基準を用いていることが分かります。

包括的承諾が争点になった判例

 包括的承諾が争点になった判例を紹介します。

大審院判決(大正11年5月18日)

 営業時間中の飲食店に暴行の目的で闖入した事案で、裁判官は、

  • 飲食店の営業時間内において、その営業設備を利用するの意思なく、単に暴行の目的をもって店内に闖入する行為は、刑法130条の罪を構成す
  • 該店管理者の許諾あるべきはずなき

と判示し、被害者の包括的承諾の範囲外として、建造物侵入罪が成立するとしました。

最高裁判決(昭和34年7月24日)

 夜間、税務署庁舎内に、人糞を投げ込む目的で構内に立ち入った事案で、裁判官は、

  • 被告人らが、夜間、税務署庁舎内に人糞を投込む目的をもって、同構内に立入った以上、その所為は、一般に予期される正常な用務を帯びるものでなく、庁舎管理者の承諾の限度を越えてなく人の看守する建造物に侵入したものとして刑法130条の罪を構成するこというまでもない

と判示し、看守者の包括的承諾の範囲外として、建造物侵入罪が成立するとしました。

札幌高裁判決(昭和33年6月10日)

 吉田内閣打倒市民大会に際し、吉田首相が列車で旭川駅に到着したか否かを調査するために同駅ホーム等に侵入した事案で、裁判官は、

  • 被告人が共産党機関紙受取りのため、駅ホームに立ち入ることが黙認されていたとしても、前記の如き特別の目的(吉田首相が列車で旭川駅に到着したか否かの調査)のために、特に右の如く立ち入るについては、駅管理者たる駅長の許諾が必要であると解される
  • 被告人の立ち入りは正当な理由がない

と判示し、看守者の包括的承諾の範囲外として、建造物侵入罪が成立するとしました。

山口地裁判決(昭和36年12月21日)

 国鉄の職員であり、国鉄労働組合の組合員である被告人が、年末闘争の一環として、勤務中の職員を離脱させる目的で国鉄の施設に立ち入った事案です。

 弁護人は、

  • 被告人らは、国鉄の施設に立ち入るについて、看守者の包括的承諾を受けている
  • その理由として、まず被告人らは国鉄の職員であり、国鉄の所有または占有する土地、建物に対して、占有補助者たる立場を認められており、この地位は国鉄当局と組合が紛争状態にあるときでも失われるものではない
  • すなわち、被告人らが国鉄当局から交付されている身分証明書は、その採用時において、その者の退職に至るまで、国鉄の施設の占有補助者たることを包括的に承諾したものである
  • さらに、公労法の規定により、国鉄職員は労働組合活動の自由が保障され、承認されており、国鉄労働組合の各級機関が組合員と交通するため、その場に立ち入る自由の保障は、労使関係の動揺を超越して、一貫して持続しているものというべく、したがって、本各被告人に対する公訴事実中、建造物侵入の点は、罪とならない

と主張したのに対し、裁判官は、

  • 第一に、国鉄職員が国鉄の施設の占有補助者たる地位を認められるのは、その職員が勤務する特定の職場においてのみであって、このような限定なく国鉄職員というだけで国鉄の施設全般につき、その占有補助者たる地位が認められるわけでないことは当然である
  • また、国鉄動労組合が、組合活動のため、国鉄用地あるいは建造物内に立ち入る事由が保障されているからといっても、闘争に際し、勤務中の職員を離脱させる目的で、国鉄の施設たる信号所や運転従業員詰所に立ち入る行為は、列車運行業務に重大な支障を来たすものであるから、たとえ日頃立ち入りの許容されている施設に対してさえも、管理者において立ち入りを許容するはずがなく、 一般的抽象的に施設立ち入りの包括的事前の承諾があったと認められない

と判示し、看守者の包括的承諾の範囲外として、建造物侵入罪が成立するとしました。

東京地裁判決(昭和44年9月1日)

 皇居における新宮殿の造営を批判する手段として、発煙筒を燃焼発煙させる目的で、発煙筒を携帯して皇居正門から一般参賀会場に立ち入った事案で、裁判官は、

  • 一般参賀者と共に、一定の日時、順路に従い、係員の誘導整理に服して参賀会場に立ち入ったとしても、当日被告人らの目的、態様による立ち入りを禁ずる旨の掲示がなされていなくても、もとより管理者の承諾の範囲を越え、その意思に反したその場所の平穏を害する違法な立ち入り行為である

と判示、看守者の包括的承諾の範囲外として、邸宅侵入罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和31年1月30日)

 警察署長に抗議する目的で、多数共同してスクラムを組み「ワッショイ,ワッショイ」と声をかけるなどして、警察署に侵入した事案で、裁判官は、

  • 警察は、国民の生命、身体財産の保護や公安秩序の維持、犯罪捜査、被疑者の逮捕等の責務を有する公共のための公の機関であるから、一般の国民が正常平穏の態度をもって、警察の要務に関連して請求陳述その他のためにその建物に出入りすることはもとより、一般国民の自由に属し、その建物の管理者である警察署長の承諾があるものと解し得られるのである
  • 従って、警察署長に対し、何らかの抗議を提出したいとする多数者がある場合においても、その建物の構造設備の状況、建物における執務者並びに利用者の状況、抗議の内容、所要時間そのた諸般の状況にかんがみ、妥当と思料される範囲において代表者を立ち入らせるとかその他方法をもって平穏にその折衝がなされるかぎり、この立ち入り所為は、何ら違法性を具有するものとは認められないのであろう
  • しかしながら、本件においては、被告人らは当初から一方的に警察署の処置を不当と断じ、その署長に抗議せんとしたものであり、多数共同してスクラムを組み「ワッショイ,ワッショイ」と声をかけ、更に「署長を出せ、署長はどこに行った」などと叫びながら庁舎内に入り込まんとし、平穏に署長に面会の申し込みをしようとする意図の下になしたものでない事実…から察すれば、被告人らの所為は、違法性のない平穏な建造物の立ち入り行為とは到底認められないところであって、警察署に立ち入る一般国民の態度として暗黙に承認されている程度を越えて、その看守者である警察署長の意思に反して押し入る違法性のある行為と断じなければならない

と判示し、看守者の包括的承諾の範囲外として、建造物侵入罪が成立するとしました。

東京高裁判決(平成5年7月7日)

 過激派の構成員が、県幹部の自宅に対するテロ・ゲリラ活動のため、その付近の警備状況などを調査する目的で、夜間、住民らがジョギングをするため立入りを例外的に認めていた小学校の構内(校庭)に立ち入った事案で、裁判官は、

  • 本件構内への夜間における一般人の正当な理由のない立入りにつき管理権者の包括的承諾があったものと認めることはできない
  • 管理権者の意思といっても、その自然的意思を絶対視することなく、規範的にみて合理性を有すると認められる意思に反するかどうかを問題とすべきことは所論のとおりであるが、 これを判断するに当たっては、所論実害の有無の点に限らず、行為の全体像を総合的に促えることが必要である
  • 侵入目的のほか、侵入の態様、滞留場所及び滞留時間、その他記録上うかがい得る諸般の事情に照らせば、被告人の本件立入りが同校の管理権者の合理的意思に反することは明らかである

と判示し、看守者の包括的承諾の範囲外として、建造物侵入罪が成立するとしました。

 上記各判例から分かるとおり、包括的承諾の範囲内か否かを判断するにあたっては、立入りの目的と態様が考慮されます。

 お店、デパート、官公庁など、人の立入りが許容されている場所は、あらかじめ包括的に立入りの承諾がなされていますが、その承諾は、正当な用務のためにする立入りについて承諾がなされているにすぎません。

 なので、その他の目的での立入りについては、たとえそれが正当な目的であっても、包括的な承諾の範囲内とはいえない可能性があります。

 特に、違法行為をする目的の場合にはなおさらです。

 目的自体は包括的承諾の範囲内であっても、立入りの態様が、施設の一部を破壊したり、凶器を所持したり、大勢で押しかけるなど平穏を害するものであれば、そのような立入りも、管理権者があらかじめ容認するようなものではなく、やはり包括的承諾の範囲外であるといえます。

承諾の範囲外の立入り

 立入りについて承諾があっても、その承諾の範囲外の場所に立ち入れば、その立ち入りは承諾がないのと同じで、侵入罪が成立します。

 たとえば、旅館に宿泊した客が、勝手にスタッフルームや厨房に立ち入れば、旅館の承諾の範囲外の立入りとして、建造物侵入罪が成立する可能性があります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和5年8月5日)

 この判例は、家人の承諾を得て住居の一部屋に入った者が、承諾なく他の部屋に立ち入れば、住居侵入罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 適法に人の住居の一室に入りたる者も、家人の承諾なきにこだわらず、なく他の部屋に入りたるときは、住居侵入罪を構成す

と判示しました。

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