刑法(強盗致死傷罪)

強盗致死傷罪(9) ~共同正犯②「強盗の共犯者の一人が、殺意をもって被害者を殺害した場合、その者に強盗殺人罪が成立し、他の共犯者には強盗致死罪の共同正犯が成立する」を判例で解説~

強盗の共犯者の一人が、殺意をもって被害者を殺害した場合、その者に強盗殺人罪が成立し、他の共犯者には強盗致死罪の共同正犯が成立する

 傷害(刑法204条)の共謀し、被害者に暴行を加えたところ、共犯者の一人が、殺人の故意をもって暴行を行い、被害者を殺害した場合は、他の共犯者は殺意を有しない以上、他の共犯者に対しては殺人罪の共同正犯は成立しません。

 この場合、被害者を殺害した共犯者に対し、殺人罪の単独犯が成立し、他の共犯者に対しては、結果的加重犯である傷害致死罪の共同正犯が成立するというの判例の考え方です(詳しくは傷害罪の前の記事参照)。

本題

 この傷害罪の共同正犯の考え方は、強盗罪の共同正犯の考え方にも適用されます。

 強盗の共犯者は、強盗の機会に、共犯者のだれかによって暴行が行われることの認識はあるのであるから、殺人行為も暴行である以上、強盗の共犯者の一人が、殺意をもって被害者を殺害した場合、他の共犯者は、結果的加重犯たる強盗致死罪の限度で責任を負うことになります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

名古屋高裁判決(昭和31年10月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗共謀者中、ある数人が実行行為の途中から強盗の手段としで殺意を生じて人を殺害したときは、殺意のなかった他の共謀者も、強盗致死の結果についてその罪責を免れないものと解する

と判示し、殺意のなかった他の共犯者に対し、強盗致死罪の共同正犯が成立するとしました。

仙台高裁判決(昭和26年10月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第240条後段の罪は、強盗罪と傷害致死罪又は強盗罪と殺人罪との結合罪で、その性質上、包括一罪を構成すべく、すなわち、強盗が傷害により人を死に致した場合は、もちろん強盗が故意に人を死に致した強盗殺人の場合をも包含するものであって、刑法第243条の規定が同法第240条の未遂罪を認めているのは、故意犯たる強盗殺人行為についてである
  • 従って、強盗の共謀者は、他の一人が犯行の途中、強盗の手段として殺意を生じて被害者に傷害のみ与えた場合には、その殺意につき、共同犯行の認識のない限り、他の一人が殺意をもって傷害を与えた結果につき、強盗致傷の加重責任を負担するは格別、強盗殺人未遂の罪をもって問擬(もんぎ)するべきでない

と判示し、強盗の共犯者中、殺意をもって被害者を傷害した者に対し(被害者は死んでいない)、強盗殺人未遂が成立し、他の殺意のなかった共犯者に対しては、強盗致傷罪が成立するとしました。

(なお、強盗殺人については未遂が成立するが、強盗致傷罪については未遂は成立しないことについては前の記事参照)

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