刑法(同時傷害の特例)

同時傷害の特例⑵ ~適用の要件①「2人以上の者による暴行」「共謀の不存在」を判例で解説~

適用の要件

 同時傷害の特例(刑法207条)が適用されるには、次の4つの要件が必要となります。

  1. 2人以上の者による暴行
  2. 共謀の不存在
  3. 共同実行行為との類似性(同一機会ないし場所的・時間的近接性)
  4. 傷害の原因をなした暴行の不特定

 ①~④の内容について、以下の詳しく説明します。

① 2人以上の者による暴行

 同時傷害の特例が適用されるには、条文(刑法207条)記載の「2人以上の者による暴行」が証明される必要があります。

 「2人以上の者による暴行」の証明の要件は以下のとおりです。

⑴ 2人以上の者がそれぞれ同一人に暴行を加えたことを要する

⑵ 2人以上の者のそれぞれが、暴行(又は傷害)の故意に基づいて暴行を加えるのでなければならず、例えば、一方又は双方が過失による傷害をしたにすぎないとき(過失傷害のとき)は、本条は適用されない

⑶ 暴行の態様が同じである必要はない

 この点に関し、東京高裁判決(昭和47年12月22日)で、裁判官は

  • 弁護人の被告人とMではその各暴行の態様が異なるから、被告人の行為は刑法第207条に該当しないというけれども、同条の罪が成立するためには2人以上の暴行がその態様を同じくする必要はないと解する

と判示しています。

暴行によらない傷害に本条の適用はない(この点は条文から読み取れる)。

⑸ 「2人以上の者」は、特定の者でなければならない

⑹ 多数者のうち誰かというのでは足りない

⑺ 氏名等の人定事項が明らかであるところまでを要しないが、その者の暴行であることが明らかでなければならない

② 共謀の不存在

 同時傷害の特例(刑法207条)が適用されるためには、行為者たちの間で、共謀のないことを要します。

 共謀がある場合は、同時傷害の特例(刑法207条)ではなく、共同正犯の規定(刑法60条)が適用され、傷害罪又は傷害致死罪の共同正犯が成立することになります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治44年3月2日)

 裁判官は、

  • 刑法第207条は、共同者にあらずして、2人以上暴行を加え、人を傷害したる場合の規定なるが故に、2人以上共同して暴行を加え、人を傷害したる場合に在りては、同条を適用するの要なきものとす

と判示し、共謀があった場合は、同時傷害の特例は適用されないことを示しました。

最高裁判決(昭和24年1月27日)

 裁判官は、

  • 刑法第60条に『2人以上共同して犯罪を実行したる者』とある『共同』又は同法第207条にいわゆる『共同者』とあるは、すべて2人以上の者の間に意思連絡のある場合を指すものである
  • されば右判示に被告人がKほか1名と共同して殴打成傷した旨の『共同』が右刑法の法条にいわゆる『共同』の趣旨であるとすれば、右3名の間に意思連続あることを証拠によりこれを認定判示し、かつ、刑法第60条をも適用すべきである
  • また、もし、その3名の間に意思連絡のない場合には、各自の暴行とその各自の暴行により加えたる傷害の部位又は程度とを証拠により明確に認定判示して、各自の現に加えた傷害の個数又は程度に対してのみ、それぞれ刑法第204条の責を問うべきである
  • また、もし、右3名の者が暴行を為し、人を傷害したこと明白であるが、その各自の間に意思連絡がなく、かつ、各自の加えた傷害若しくはその程度を知り得ないときは、その旨を明確に判示して、同法第204条のほか、同第207条をも適用して、各自に対し、それぞれ全部の個数程度の傷害の責任を負担せしむべきものである

と判示しました。

「共謀の不存在」とは、「検察官により共謀のあることが立証されない場合」を意味する

 共謀の不存在(共謀のないこと)とは、検察官が「共謀のないこと」を立証することを要するのではなく、「検察官により共謀のあることが立証されない場合」を意味します。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(平成18年7月5日)

 被告人2名に対する傷害被告事件について、暴行の黙示の現場共謀を認めた原判決を是認できないとして、傷害の同時犯を認定したです。

 裁判官は、

  • 本件は、被告人両名が、飲酒後、路上で被害者と口論し、その後、被告人両名が立ち去る気配を見せたが、被害者が被告人両名の方に向けてつばを吐いたことから、被告人Aが立腹して被害者の所に戻り、手で被害者の頬を殴打した上、バッグでその顔面を殴打し、その後、被告人Bが被害者の頭髪をつかみ、手拳で後頭部を殴打し被害者に対し、全治約2週間を要する頭部打撲等の傷害を負わせたというものである
  • この経緯に照らすと、被告人Aが被害者に暴行を加えたのは、同被告人の突発的な単独行為であることが明らかであり、その際、被告人Aが暴行を加えるについて同Bと意思を通じていたものとは認められない
  • その後、被告人Bが被害者に暴行を加えた際には、同Aに加勢する気持であったことは容易に推認することができるけれども、被告人Bが被害者に暴行を加え始めた後は、同Aは全く手を出していないのであって、被告人Aが、同Bの加勢を得て、これに呼応した形跡は全くない
  • そうすると、被告人両名が被害者に対して暴行を加える旨意思の連絡をしていたとは言い難いのであって、被告人両名の共謀を認めた原判決は是認することができない
  • しかし、被告人両名の行為は傷害の同時犯と認められる

と判示しました。

次回記事に続く

 次回の記事では、同時傷害の特例(刑法207条)が適用されるための4つの要件である

  1. 2人以上の者による暴行
  2. 共謀の不存在
  3. 共同実行行為との類似性(同一機会ないし場所的・時間的近接性)
  4. 傷害の原因をなした暴行の不特定

のうち、③の共同実行行為との類似性(同一機会ないし場所的・時間的近接性)について説明します。

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