刑法(脅迫罪)

脅迫罪(12) ~「抗議行動における脅迫罪の成否」を判例で解説~

抗議行動における脅迫罪の成否

 住民による抗議行動などの中で発生した粗暴な言動が脅迫に当たるかどうかは、客観的事情を考慮して判断されます。

 参考となる判例として、次のようなものがあります。

大阪地裁判決(昭和47年4月21日)

 市当局と地域住民団体との集団的交渉の場で、住民が「お前ら今日帰れると思ったら間違いだぞ」「回答が出るまで夜通しでもやるぞ」「いてまうぞ」などと発言した事案で、裁判官は、

  • 集団的な交渉の場においては、そのこと自体に内在する特質から、その相手方に集団によるある種の心理的圧迫を伴うのが普通のことであるので、集団的な交渉をすること自体、違法、不当とみなされる場合は別にして、本件のように集団的な交渉自体は民主的な地方行政のあり方を求める地域住民の市当局に対する直接的な対市交渉として違法、不当なものとは考えられない場合においては、集団による心理的圧迫を必要以上に過大評価することは相当でない
  • 集団交渉の場における言動が、脅迫罪に該当し、かつ可罰的であるというためには、集団交渉の場において、通常予期される事態の範囲を著しく逸脱し、その場にふさわしくない、人を畏怖させるに足りる害悪の告知と評価すべき言動のあることを要する
  • 言動の主観的意図(動機、目的)、意味、内容、実害、脅威の程度、当日までの経緯、背景、当日の交渉の経過などを総合し、暴力行為処罰法1条の3 (刑法222条)に外形的に該当するとしても、その言動は、特に社会一般の処罰感情を刺激する程度には至っておらず、健全な社会通念に照らし、未だ右法律違反の罪として処罰すべき程度の実質的違法性を有していないものと解すべきである

旨判示し、脅迫罪は成立しないとして、無罪を言い渡しました。

福岡高裁判決(昭和57年6月25日)

 いわゆる主任制問題をめぐって、学校長に対する抗議の過程で、10数名で校長室に押しかけ、15時間余りにわたって、「生半可な決心で来とっとじゃないですよ。あなたの教育生命がなくなるまでやりますよ。組合をひぼうして申訳ないちゅう謝罪文を書きませんか。」などと申し向けて、確認書の署名押印、謝罪文の作成を要求するなどした行為が、脅迫に当たり、強要未遂罪が成立するとしました。

 この裁判の上告審である最高裁決定(昭和61年10月28日)でも、この福岡高裁判決を是認してました。

 ちなみに、この裁判の一審である長崎地裁判決(昭和54年5月8日)では、校長の不誠実な態度に対して向けられた抗議であり、校長の真面目な対応を促す発言であって脅迫行為とは認められないとして、脅迫罪・強要罪の成立を否定しています。

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