刑法(賭博罪)

賭博罪(16)~「賭博罪における幇助犯」を説明

 前回の記事の続きです。

賭博罪における幇助犯

 幇助犯とは、

正犯(犯罪の実行者)を手助けした者

をいいます(刑法62条1項)。

 幇助とは、正犯(犯罪の実行者)を手助けし、より簡単に犯罪を実行できるようにすることです(幇助犯の詳しい説明は前の記事参照)。

 賭博罪(刑法185条)において幇助犯が認められる場合(賭博幇助罪)として、以下のものが挙げられます。

大審院判決(大正3年6月25日)

 自ら財物を賭けて勝負していなければ、賭博者の実行者ではなく、幇助者であるとした判決です。

 裁判所は、

  • チーハ―」の蟻走を為すは、賭博の実行行為開始よりその終了に至るまでの行為に関与せるものなれといえども、自ら財物を賭して輸贏(勝負)を決したるものに非ざれば、賭博罪の実行者に非ずして、他人の賭博を幇助したる者と認むるを相当とす

と判示しました。

大審院判決(大正6年11月26日)

 相場賭博における相場の告知は、賭博幇助罪に該当するとした判決です。

 裁判所は、

  • 賭博者に為す相場の告知は、賭博者が財物の得喪を決すべき偶然の事情を賭博者に告知するものにして賭博罪を容易ならしむる行為なるが故に、賭博幇助罪に該当し、また、賭博者の誘引は賭博場開張者をして利を図る便を得せしむるものなれば、賭博場開張罪の幇助に該当するものとす

と判示しました。

大審院判決(大正7年6月17日)

 賭博の見張り行為は、賭博幇助罪に該当するとした判決です。

 裁判所は、

  • 刑法第185条及び第186条第1項は、自ら偶然の輸贏(勝負)に関し財物をもって博戯又は賭事を為す者を処罰するの趣旨なりと解すべきをもって、単に賭博実行者のために見張りを為す行為の如きは、発覚妨害を排除して賭博実行を容易ならしめ、すなわち賭博犯を幇助したる関係あるに止まるものといわざるべからず
  • 従って、その幇助者自身が賭博常習者なると否とにより、刑法第65条第2項に基づき、同第186条第1項若しくは若しくは第185条の刑に照らし、軽減して処断すべきものなると同時に、その見張りの教唆者もまた同第62条第2項により教唆者自身が常習者なると然らざるとに応じて、右第186条第1項若しく第185条の刑を軽減して処断すべきものとす

と判示しました。

福岡高裁判決(昭和29年12月22日)

 賭博行為がばれないように見張りを行った者に対し、賭博幇助罪が成立するとした判決です。

 裁判所は、

  • 被告人は(中略)Aらが営業不振打開のため許可条件に違反して本件賭博を敢行するに至るや、その依頼を受け主として発覚防止の見張に従事し自らは何ら賭博行為に関与せずしかも同所に雇われて一定の日給と若干の手当をもらっている一従業員に過ぎずして経営面には参加せず賭博による収益の多寡にはほとんど利害関係を有しない事実に徴すれば、被告人は主宰者Aと共同し自己の犯罪を実現したものというよりはむしろ同人らの犯罪を幇助する意思をもって見張等に従事したものと認めるのが相当というべく

と判示しました。

大審院判決(大正13年6月25日)

 闘鶏賭博のための闘鶏用の鶏の提供した行為に対し賭博幇助罪が成立するとし、闘鶏賭博のための闘鶏用の鶏の提供して得た金銭は没収することができるとした判決です。

 裁判所は、

  • 被告人は、闘鶏用として鶏一羽を提供したるよりこれが使用の対価として賭金中より2円50銭の交付を受けたる事実を認め得べく、その提供は賭博の幇助なるをもって、賭博の正犯たる被告人に対しては、別罪を構成せざるも結局該金員は被告が本件犯行により得たるものなることを明白なるが故に、原判決において刑法第19条を適用し、これを没収したるは不法に非ず

と判示しました。

静岡簡裁判決(昭和35年11月7日)

 賭博行為で「札付け(賭金の分配を行うこと)」「壺振り」の役割を担った者に対し、賭博幇助罪が成立するとした事例です。

 裁判所は、

  • 各証拠によれば被告人Xは被告人Yに頼まれ、日当をもらう約束で同被告人の開設した賭場においてさきに判示したようないわゆる「札付け」をしたり、同被告人に差し支えのあるとき臨時に壷振りを代行したものに過ぎず、賭金(胴金)の出資、配分には関係しなかったものと認められるから、結局被告人X は同Yが(中略)賭博をなすに際しその犯行を容易ならしめたに止まるのであって被告人Yの従犯(※幇助犯)と認めるのが相当である

と判示しました。

賭博罪の幇助が成立するか、共謀共同正犯が成立するかの判断基準

 幇助と共謀共同正犯との限界は微妙です。

 共犯者が賭博による

収益の配分を受ける立場にあるような場合

には、賭博罪の幇助ではなく、共謀共同正犯が成立する場合が少なくないと考えられています。

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