前回の記事の続きです。
あっせん収賄罪の罪数の考え方
あっせん収賄罪と受託収賄罪との関係
あっせん収賄罪の新設以前には職務密接関連行為と考えられていたあっせん行為をして、その報酬として賄賂を収受・要求・約束した場合にあっせん収賄罪が成立するとすれば、収賄罪(受託収賄罪)が成立することはありません。
しかし、あっせん収賄罪は、元来、処罰の対象となっていなかった行為を処罰することにしたものであって、あっせん収賄罪の制定によって、従来、受託収賄罪とされていたものが、あっせん収賄罪となるべきものではないので、あっせん行為自体が職務密接関連行為であれば、従来どおり、あっせん収賄罪以外の収賄罪に問擬(もんぎ)すべきであるとされます。
※ 職務密接関連行為とあっせん収賄罪、受託収賄罪の成否の説明はあっせん収賄罪(3)の記事参照
あっせんをすることについて賄賂を要求、約束し、その後、あっせんをしたことによってこれを収受した場合はあっせん収賄罪の一罪が成立する
あっせんをすることについて賄賂を要求、約束し、その後、あっせんをしたことによってこれを収受した場合には、あっせん収賄罪の一罪が成立するにとどまります。
あっせんをすることで賄賂を収受し、更にあっせんをしたことで、再度賄賂を収受した場合も、あっせんの内容が同一である限り、包括してあっせん収賄罪の一罪が成立するにとどまる場合が多いと考えられます。
これは、言わば手付金と成功報酬のようなもので、あっせん収賄罪の主体(犯人)は一つであるためです。
あっせんの内容が異なる場合
あっせんの内容が異なる場合には、報酬としての性格も異なるわけなので、あっせん内容に応じた数のあっせん収賄罪が成立します。
そして、各あっせん収賄罪は併合罪か、収受・要求・約束の行為が一つなら観念的競合になります。
あっせん収賄罪の共同正犯
あっせん公務員からあっせんを受けた職務公務員とに共謀関係がある場合
あっせん収賄罪は、
- 公務員(あっせん公務員)が、請託を受け、他の公務員(職務公務員)をしてその職務上不正な行為をさせ、又は、相当な行為をさせないようにあっせんし、又はあっせんしたことの報酬として、賄賂を収受・要求・約束する罪
です。
職務公務員が、あっせん公務員の収賄を知って不正行為等をした場合、両者に共謀関係があればあっせん収賄罪の共同正犯が成立することになります。
職務公務員が単に知りながら、あっせん公務員の収賄を助けた場合であれば、職務公務員に対し、あっせん収賄罪の幇助犯が成立することになると考えられます。
他罪との関係
詐欺罪(刑法246条)との関係
あっせんの意思がないのに不正行為等をあっせんする旨欺いて金品等を得た場合につき、詐欺罪とあっせん収賄罪とが成立するとする考えと詐欺罪のみ成立するとする考えありますが、あっせんの意思がない以上、あっせん収賄罪の成立する余地はないと解すべきとされます。
また、あっせん公務員に、不正行為等を職務公務員がするように働きかける意思がなく、単にあっせんだけする意思で金品を得たような場合も、あっせん収賄罪の成立の余地はありません。
業務上横領罪(刑法253条)・背任罪(刑法247条)との関係
1⃣ あっせん収賄罪によるあっせんの結果、職務公務員が、業務上保管する物品を業務上横領する不正行為をなした場合、その横領行為があっせんの当然の内容である限り、あっせん公務員につき、あっせん収賄罪のほか、その業務上横領の教唆犯又は共謀共同正犯が成立することになります。
あっせん収賄罪と業務上横領罪の関係は、あっせんが横領の原因とはなっていますが、罪質も異なり、通常の手段又は結果の関係にあるとはいい難いので、併合罪の関係になると考えられます。
2⃣ 職務公務員が、業務上横領罪ではなく背任罪を犯した場合も、上記と同様に考えることになります。