これから25回にわたり、賄賂の没収・追徴(刑法197条の5)を説明します。

賄賂の没収・追徴

 裁判において、裁判所が収賄罪・贈賄罪の有罪を認定した場合、その収賄罪・贈賄罪における賄賂は必ず没収されることとなり(必要的没収)、既に賄賂が費消されてなくなるなどして没収できない場合は、賄賂の同額の現金が被告人から追徴されることとなります(必要的追徴)。

※ 没収・追徴の説明は、刑罰(6)刑罰(7)刑罰(8)の記事参照

 収賄罪・贈賄罪の没収・追徴については、刑法197条の5において、

  • 犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する

と規定されます。

刑法19条の没収規定との関係

1⃣ 刑法19条刑法197条の5との関係は、一般法と特別法の関係とされており、賄賂罪に関する没収・追徴にはまず刑法197条の5が適用され、一般法である刑法19条は、補充的に適用されることになります。

 つまり、刑法197条の5は、賄賂は必ず没収又は追徴しなければならないとしており(必要的没収)、裁判官の自由裁量を許さない点で、刑法19条に対する特例となっています。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(大正11年4月22日)

 裁判所は、

  • 刑法第197条第2項(現行法:刑法197条の5)に規定する賄賂の没収刑は、必ずこれを付加すべく、もし没収することわざるときは、その信頼を追徴することを要し、裁判官の自由裁量に属せざるにおいて、同法第19条の規定に対する特例を為すものとす

と判示しました。

2⃣ 没収又は追徴をしなかった場合には、法令の適用の誤りとなり、違法判決となります。

3⃣ 刑法19条の没収・刑法19条の2の追徴の規定と異なり、情を知っている第三者からも没収・追徴が可能であり、物でなく賄賂が没収の対象となっているから、無形の利益も追徴の対象となります。

4⃣ 刑法197条の5は、刑法19条を排斥するものではないので、刑法197条の5で没収し得ないものを刑法19条により没収することは可能であり、刑法19条の2で追徴も可能です。

 この点、収受されなかった賄賂につき、最高裁判決(昭和24年12月6日)は、

  • 原審が刑法第197条の4を適用して「押收の現金2万円を没収する」と判決したのは違法であって論旨は理由があり、この点において原判決は破棄を免れない
  • しかし刑法第197条の4は同法第19条を排斥するものではなく、問題の現金2万円は贈賄の「犯罪行為を組成したる物」として刑法第19条により没収せられ得べきものであるからその処置を執るのを適当と認める

と判示しています。

組織的犯罪処罰法の没収・追徴規程との関係

 組織的犯罪処罰法は、同法別表に一定の犯罪を列挙し、財産上不正な利益を図る目的で犯した別表犯罪の犯罪行為により生じた財産、当該犯罪行為により得た財産、当該犯罪行為の報酬として得た財産(同法2条2項1号)等を「犯罪収益」とし、さらに、犯罪収益の果実として得た財産、犯罪収益の対価として得た財産、これらの財産の対価として得た財産その他犯罪収益の保有又は処分に基づき得た財産を「犯罪収益に由来する財産」とした上(同法2条3項)、犯罪収益、犯罪収益に由来する財産、これらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産を任意的没収の対象とし(同法13条1項)、これらの財産を犯罪後に情を知って取得した犯人以外の者からも没収を認め(同法15条1項)、これらの財産を没収することができないとき又は没収することが相当でないと認められるときは、その価額を犯人から追徴できることとしています(同法16条1項)。

 刑法197条から197条の4まで(収賄、受託収賄及び事前収賄、第三者供賄、加重収賄及び事後収賄、あっせん収賄)の罪も別表に掲げられていることから(同法別表一の5号)、これらの罪が財産上不法な利益を図る目的で犯された場合には、これらの罪で授受された賄賂も、組織的犯罪処罰法により強化拡充された没収・追徴の対象となります。

 組織的犯罪処罰法の没収・追徴規定は、刑法19条、19条の2の特別規定ですが、刑法197条の5との関係でいうと、

  • 刑法197条の5は、収賄罪の犯罪収益一般ではなく、賄賂を対象している点

が組織的犯罪処罰法の没収・追徴規定とは区別される点になっています。

 賄賂は、接待や建物の無償貸与など、財産に限らない点で犯罪収益より広い面もある上(詳しくは単純収賄罪(2)の記事参照)、刑法197条の5は賄賂の没収・追徴を必要的としてより厳しい規制を設けているので、組織的犯罪処罰法の没収・追徴規定との関係でも特別法に位置付けられることになると考えられています。

 つまり、刑法197条の5の対象となる賄賂に関しては、その没収・追徴の要否は、刑法197条の5により判断することになりますが、組織的犯罪処罰法の関係規定も補充的に適用され、賄賂以外の犯罪収益等は組織的犯罪処罰法により没収・追徴され得るし、犯罪収益たる賄賂について没収・追徴保全を行うことも可能です。

 なお、犯罪収益等たる賄賂を隠匿・収受した場合は、組織犯罪処罰法10条、11条の犯罪収益等収受・隠匿罪が成立します。

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