刑法(逃走の罪)

加重逃走罪(8)~「罪数の考え方」「他罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

加重逃走罪の罪数の考え方

 被拘禁者が、加重逃走罪(刑法98条)の損壊、暴行・脅迫、通謀等の各手段・態様を併用して逃走したときについては、包括一罪と解されています。

 加重逃走罪の「手段(損壊、暴行・脅迫)」を併用した場合は単純一罪とする見解もあります。

 特に、2人以上通謀し、かつ損壊等の手段を用いた場合につき、包括一罪とすることに疑問も示す見解もあり、この場合は加重逃走罪(通謀逃走)だけを認めれば足りるとする見解もあります。

加重逃走罪と他罪との関係

逃走罪との関係

 逃走に着手した後、損壊又は暴行・脅迫行為に着手した場合は、単純逃走罪刑法97条)のみが成立します。

 なお、逃走が既遂に達した後、看守者に暴行等が加えられた場合は、単純逃走罪と公務執行妨害罪刑法95条1項)が成立し、加重逃走罪は成立しません。

建造物等損壊、器物損壊等罪との関係

 拘禁場等の損壊を手段とする加重逃走罪は、拘禁場等の損壊と逃走行為を構成要件とする結合犯であり、その手段たる拘禁場又は拘束のための器具の損壊が建造物等損壊罪刑法260条)又は器物損壊罪刑法261条)などに当たるときでも、これらの罪は、加重逃走罪に吸収されて別罪を構成しません。

 この点に関する以下の裁判例があります。

金沢地裁判決(昭和57年1月13日)

 裁判所の仮監(一時的に被疑者や被告人を収容するための場所)の天井の一部を損壊して逃走しようとしたが未遂に終わった事案です。

 裁判所は、

  • 既決未決の囚人が拘禁場である建造物の天井の一部を損壊して逃走を企てた場合については、右建造物損壊の点は加重逃走罪の構成要件的評価の対象に包含されているものと考えるのが相当であるから、本件においては加重逃走未遂罪が成立するにとどまり、別個に建造物損壊罪は成立しないものと解する

と判示しました。

暴行罪、脅迫罪との関係

 暴行・脅迫を手段として加重逃走罪を敢行した場合は、暴行罪刑法208条)、脅迫罪刑法222条)は加重逃走罪に吸収され、暴行罪、脅迫罪は成立せず、加重逃走罪のみが成立します。

公務執行妨害罪との関係

 公務員たる看守に暴行・脅迫を加えて、その公務の執行を妨害して逃走した場合は、公務執行妨害罪刑法95条1項)は加重逃走罪に吸収されて加重逃走罪のみが成立します。

 この点に関する以下の裁判例があります。

宮崎地裁判決(昭和52年10月18日)

 裁判所における審理終了後、看守者に暴行を加えて逃走しようとしたが、看守者に取り押さえられてその目的を遂げなかった事案です。

 裁判所は、

  • 加重逃走罪は、その規定の位置、構成要件的内容、法定刑等に徴すると、既決未決の囚人が公務員たる看守に対し暴行・脅迫を加えその公務の執行を妨害して逃走を図る場合をもその構成要件的類型として評価の対象に包含していると解されるから、(略)加重逃走未遂罪が成立するにとどまり公務執行妨害罪は成立しないと解する

と判示しました。

放火、殺人、傷害、逮捕監禁罪との関係

 逃走の手段として放火、殺人、傷害、逮捕監禁が行われた場合は、「加重逃走罪」と「放火罪、殺人罪刑法199条)、傷害罪刑法204条)、逮捕監禁罪刑法220条)」とは、それぞれ観念的競合となります。

 学説の中には、観念的競合又は牽連犯になるとするものもあります。

逃走の罪の記事一覧