前回の記事の続きです。
共同正犯の成立要件
共同正犯が成立するためには、
- 共同実行の意思(意思の連絡)
- 共同実行の事実
の2点が必要になります。
まず、①共同実行の意思(意志の連絡)について説明し、次に、②共同実行の事実について説明します。
① 共同実行の意思(意思の連絡)とは?
共同実行の意思(意思の連絡)とは、
共同して犯罪を実行しようとする意思
をいいます。
ちなみに、共同実行の意思(意思の連絡)は、一般的に「共謀」と呼ばれます。
共同実行の意思(意思の連絡)は、2人以上の犯罪行為者が、お互いに持っている必要があります。
たとえば、犯人Aと犯人Bが共謀して被害者Cを殺したと認定するためには、犯人Aと犯人Bとの間で「一緒に被害者Cを殺そう」という共同実行の意思の連絡がなければなりません。
共同実行の意思(意思の連絡)がない場合は、犯人Aと犯人Bには、それぞれ殺人罪の単独犯が成立します。
この状態を同時犯といいます。
以下で詳しく説明します。
同時犯とは?
共同で犯罪行為をしても、犯人同士の間で、共同実行の意思(意志の連絡)がなければ、共同正犯は成立しないという話をしました。
では、この場合、どのような形態で犯罪が成立するでしょうか?
結論として、この場合は、それぞれの犯人で、個別に単独犯が成立します。
このように、共同で犯罪行為をしても、犯人同士の間で、共同実行の意思(意志の連絡)を欠くため、数個の単独犯が成立する犯罪形態を
同時犯
といいます。
たとえば、犯人A・B・Cが、被害者Dをリンチして殺したとしても、犯人A・B・Cの間に、共同実行の意思(意志の連絡)がなければ、殺人罪の共同正犯は成立せず、犯人A・B・Cにそれぞれ殺人罪の単独犯が成立することになります。
片面的共同正犯とは?
犯人AとBの両方に、共同実行の意思がない場合は、共同正犯は成立しないという話をしてきました。
では、犯罪の共同実行者の一方である犯人Aには共同実行の意思があり、片方の犯人Bには共同実行の意思がない場合は、共同正犯は成立するでしょうか?
結論は、この場合、犯人Aにも、犯人Bにも、共同正犯は成立しません。
このように、犯罪の共同実行者の一方だけに共同実行の意思があり、片方には共同実行の意思がない場合を、
片面的共同正犯
といいます。
片面的共同正犯は、相互に共同実行の意思がないので、共同正犯を成立させません。
これは、共同正犯は、それぞれの犯人が、互いが互いの行為を利用し合って犯罪を実現した場合に、その成立が認められるためです。
共同実行の意思(意志の連絡)の成立要件
意志の連絡は暗示で足りる
共同実行の意思(意思の連絡)は、明示的にされることはもちろんですが、暗示的にされてもあったとされます。
暗に共謀した状況があるなら、はっきりと「共謀しよう!」という意思表示をしていなくても、共謀が認められます(最高裁判所判例S25.6.27)。
順次共謀でも共謀は成立する
まずAとBが共謀し、次にBとCが共謀するというように、順次共謀が行われた場合でも、AとBとCの3人の共謀が認められます。
共謀の意思の連絡は、複数人に同時に行われなくてもよいとされています(最高裁判所判例S33.5.28)。
事前の共謀である必要はない
共謀の意思の連絡は、犯罪行為を行う前に行わなければならないということはありません。
犯罪行為を行う時、または、行っている最中に共謀しても、共謀が認められます。
判例も、
『共同正犯たるには、行為者双方の間に意思の連絡のあることは必要であるが、行為者間において事前に打合せ等のあることは必ずしも必要ではなく、共同行為の認識があり、互に一方の行為を利用し全員協力して犯罪事実を実現すれば足りる』
としています(最高裁判所判例S23.12.14)。
② 共同実行の事実とは?
共同実行の事実とは、
共謀した犯罪行為者が、犯罪行為を分担した事実
をいいます。
共同実行の事実の具体例として、特殊詐欺をあげます。
たとえば、犯人Aが、高齢者に電話をかけ、「あなたの息子が会社の金100万円を横領した。すぐに100万円を弁償すれば、あなたの息子は助かる。これから会社役員が100万円をあなたの家に受け取りに行くから渡してくれ」と言ってだまし、会社役員に変装した犯人Bが高齢者の家に行き、100万円を受け取る…
というように、犯罪行為を分担している実行している状況が、共同実行の事実に当てはあります。
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