刑事訴訟法(捜査)

取調べとは?④ ~「被告人の取調べの適法性」「被告人の供述調書の証拠能力」を判例で解説~

起訴後の取調べは、なるべく避けなければならない

 被疑者段階(被疑者が起訴される前の段階)においては、被疑者は、捜査機関(警察官や検察官など)の取調べを受けなければなりません。

 起訴される前の段階においては、捜査機関と被疑者は対等な関係ではなく、捜査機関が被疑者より上の立場で、被疑者の取調べを行うことになります。

 これに対し、被疑者が起訴され、被告人になった後は、捜査機関と被疑者は、上下関係がなくなり、

裁判の当事者として、対等な関係

になります。

※ 被疑者は、検察官に事件を起訴されると、被告人という呼び方に名前が変わります。

※ 裁判においては、捜査機関と被告人で、どちらが上といった優劣はありません。裁判を戦う当事者として、立場は対等になります。

 

 ここで、起訴されて捜査機関と対等な関係になった被疑者の取調べができるかが問題になります。

 被疑者は被告人となり、捜査機関と対等な関係になったのだから、捜査機関が被告人のマウントをとって取調べを行うのはいかがなものかという考え方が生まれるわけです。

 この点について、最高裁判例(昭和36年11月21日)において、裁判官は、

『起訴後においては、被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならない』

と判示しています。

 このことから、被疑者が起訴され、被告人となった後は、捜査機関が、起訴済みの犯罪事実について、被告人の当事者たる地位にかんがみ、起訴前と同じような取調べをすることは、なるべく避けなければならないとされます。

被告人の取調べは、まったくできないわけではない

 起訴された後は、被告人の取調べはまったくできないわけではありません。

 先ほどの判例で、裁判官は、

『捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる旨を規定しており、捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから、「被疑者」という文字にかかわりなく、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができるものといわなければならない』

とも判示しており、被告人の取調べがまったくできないわけではないことを示しています。

被告人の取調べはただちに違法にならなず、被告人の供述調書に証拠能力はある

 先ほどの判例において、裁判官は、

『起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが、これによって直ちにその取調を違法とし、その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきいわれはなく…』

と判示しています。

 公訴が提起され(事件が起訴され)、被疑者が被告人の立場になってからの取調べは、なるべく避けるべきではあります。

 ただ、被告人の立場になってから取調べを行ったとしても、ただちにその取調べが違法になるわけではないということです。

 さらに、被告人の立場で作成された供述調書が、ただちに違法な取調べで作成された供述調書とみなされ、証拠能力が否定されるものではないということです。

 証拠能力とは、裁判において、犯罪事実を認定するための証拠として活用することができる証拠の能力をいいます。

 違法に収集された証拠(違法収集証拠)は、証拠能力が否定され、裁判官は、その証拠を犯罪事実を認定するための証拠として活用することができません。

 被告人の立場で作成された供述調書は、ただちに証拠能力が否定されるわけではないので、被告人になってから取調べを行った正当な理由があれば、証拠能力が認められることになります。

被告人の取調べは、公訴を維持するために必要であれば認められる

 被告人の取調べが正当であると認められるためには、

公訴を維持するために必要であった

という理由があることが要件になります。

 最高裁判例(昭和57年3月2日)において、裁判官は、

『起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができる』

と判示し、起訴後、つまり、被告人になってからの取調べは、公訴を維持(裁判において、検察官が犯罪事実の立証を成し遂げること)するために必要とされる理由があれば、行うことができることを示しました。

被告人でも、参考人として取調べることができる

 これまでに、『被告人の取調べはなるべくさけなければならない』ことを説明してきました。

 しかし、被告人でも、共犯者・被害者・目撃者といった参考人としての立場があれば、被告人ではなく、参考人の位置付けて取調べを行うことができます。

 参考人の取調べの法的根拠は、刑訴法223条にあります。

 被告人ではなく、刑訴法223条の参考人の位置づけで取調べを行えば、『被告人の取調べはなるべくさけなければならない』という制約を受けずに取調べを行うことができます。

 

 参考人とは、

被疑者以外の者

をいいます。

 被害者、目撃者はもちろん、共犯者(共同被疑者)も「被疑者以外の者」に当たることがポイントです。

 たとえば、被疑者Aの事件(被疑者Aと被疑者Bが共同して殺人をした事件)が立件(事件化)されたとします。

 被疑者Aの事件について、共犯者である被疑者Bは、「被疑者以外のもの」(被疑者A以外のもの)に当たります。

 なので、共犯者Bは参考人として扱い、取調べを行うこともできるのです。

 この点について、最高裁判例(昭和36年2月23日)があり、裁判官は、

刑訴223条1項のいわゆる被疑者とは、当該被疑者を指称し、これと必要的共犯関係にある他の者を含まないと解すべきであるから、所論のような共同被疑者であっても、当該被疑者以外の者は、すべて被疑者以外の者として、当該被疑者に対する関係において刑訴223条による取調べができ、同227条の証人尋問を許すべきである』

と判示し、共犯者(共同被疑者)は、他方の共犯者の事件の視点からは、「被疑者以外の者」と捉えることができ、参考人としての扱いができることを示しています。

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