刑法(盗品等に関する罪)

盗品等に関する罪⑥ 『盗品等運搬罪』を判例で解説 ~「運搬の定義と要件」「盗品の運搬距離の遠近」「盗品の占有」「有償譲受け罪と有償処分あっせん罪との不可罰的事後行為による成否関係」~

 盗品等に関する罪(刑法256条)の行為は、

刑法256条1項の

刑法256条2項の

の5種類と定められています。

※( )内は、平成7年改正前の旧刑法の罪名の呼び方です。

 今回の記事では、運搬(盗品等運搬罪)について解説します。

盗品等運搬罪を解説

運搬の定義と要件

 盗品等運搬罪における運搬の定義は、

その物が、盗品等であることを知りながら、その物を場所的に移転すること

をいいます。

 加えて、盗品等運搬罪における運搬の要件は、

その物の場所的移転により、被害者のその物に対する正常な(無償の)追求(回復請求)を困難にさせること

になります。

 盗品を運搬しさえすれば、何でもかんでも盗品等運搬罪が成立するわけではありまん。

 盗品を運搬することが、被害者の盗品に対する回復請求権(返還を求めるなど)を困難にする場合に、盗品等運搬罪が成立します。

 盗品を運搬されて、隠されたり、売却して現金化するために買取り人のもとに届けられたりすれば、被害者の回復が困難になります。

 この被害者の回復を困難する点に、盗品等の運搬行為を罰する価値が生まれます。

 判例も、被害者に対し、盗品の正常な回復を困難にさせた場合には、盗品等運搬罪が成立するという立場をとっています。

最高裁判決(昭和27年7月10日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗の被害者から贓物(盗品等)の回復を依頼されて、これを被害者宅に運搬し返還したとしても、結局、窃盗犯人に協力して、その利益のために贓物の返還を条件に、被害者をして多額の金員を交付せしめる等贓物(盗品等)の正常なる回復を困難ならしめた場合には、贓物運搬罪(盗品等運搬罪)が成立する

と判示し、たとえ被害者のもとに盗品を運搬するものであったとしても、その運搬が本犯(窃盗犯人)の利益のための運搬であれば、盗品等運搬罪が成立するとしました。

盗品の運搬距離の遠近は問わない

 運搬は、有償、無償を問いません。

 場所の移動を伴うことは必要ですが、距離の遠近も問いません。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和33年10月24日)

 この判例は、本犯(窃盗犯人)から依頼され、本犯の家の付近から本犯の家の4畳半の押入まで盗品を運んだ行為について、盗品等運搬罪の成立を認めています。

 裁判官は、

  • 贓物(盗品等)の場所的移転はあるのであり、たとえ、その運んだ距離にさほど遠くないものがあるといえ、被告人は、本件贓品の隠匿加功し、被害者の贓品に対する権利の実行を困難ならしめたものということができる
  • 従って、原判決が本件につき贓物運搬罪(盗品等運搬罪)の成立を肯定したのは相当である

と判示しました。

【盗品を運搬した距離があまりにも短い場合】

 盗品を運搬した距離があまりに距離が短く、被害者の追求権(回復請求権)の行使にほとんど影響がない場合には、運搬とはいえない場合もあると考えられます。

 この場合、元の場所と移動先の場所が、追求権の観点から同一場所と評価できるかどうかで考えればよいとされます。

 たとえば、被害者宅の玄関から窃盗犯人の車までのわずかな移動であっても、被害宅の玄関と移動が予定されている車とでは、同一場所とは評価し得えず、盗品等運搬罪が成立すると考えられます。

 参考となる判例として、以下の判例があります。

福岡高裁判決(昭和25年11月14日)

 盗品である米俵を1.5メートルの距離を移動させた事案で、裁判官は、

  • 被告人が米俵を移動した距離は、わずかに5尺内外(約1.5メートル)ではあるが、贓物(盗品等)の発見回復を困難にする移動というに妨げないから、被告人の搬入の所為は、贓物運搬罪(盗品等運搬罪)を構成する

と判示しました。

仙台地裁判決(昭和62年12月3日)

 強取された警察手帳など在中のショルダーバッグを強取現場で受け取り、約25メートルほどの距離を大学構内まで持ち込んだ行為について、裁判官は、

  • 贓物運搬罪(盗品等運搬罪)にいう運搬は、贓物の所在を移転し、被害者の権利の実行を困難ならしめることをいうものと解されるから、たとえ移転距離が短くとも、贓物運搬罪(盗品等運搬罪)は成立し得る
  • 被害者の贓物に対する権利の実行を困難ならしめたことは明らかであり、被告人の行為は贓物運搬罪(盗品等運搬罪)に運搬に当たる

と判示し、盗品等運搬罪が成立するとしました。

場所の移転があれば盗品の占有を有しない場合でも盗品等運搬罪が成立する

 場所の移転があれば、盗品等の運搬者が、盗品等の占有を直接有しない場合でも、盗品等運搬罪が成立します。

大阪高裁判決(昭和25年6月13日)

 この判例では、盗品等を所持している客を運搬した行為について、盗品等運搬罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人は、乗用自動車の運転手であって、荷物を携帯した客を乗せて、その指示する場所まで運転したに過ぎないので、荷物の占有は、依然として乗客にあるから、贓物運搬罪(盗品等運搬罪)は成立しないと主張する
  • しかし、贓物運搬罪は、贓物たるの情を知りながら、これを運搬した場合に成立するのであるから、占有移転の有無は、その成否に関係はないものと解する
  • それゆえに本件のように、被告人が乗用自動車の運転手である場合にも、乗客が荷物を携帯することと、その荷物が贓物であることを知って、その指示する地点まで運転した以上、贓物運搬罪(盗品等運搬罪)が成立するのである
  • 被告人は、相手方の依頼に応じ、一応その個数の多いことを理由にことわりながら、20個の荷物を客席に積みこましめ、客を助手席に乗せて運転し、指示する場所で積み下ろしを手伝ったというのであるから、その主たる目的は荷物の運搬にあったと認められる

と判示しました。

名古屋高裁判決(昭和30年9月26日)

 この判例では、本犯(窃盗犯人)と共同で盗品を運搬した行為について、窃盗犯人と共同で盗品を運搬した者に対し、盗品等運搬罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 贓物の運搬罪(盗品等運搬罪)は、他人が不法に領得した物を、その情を知りながら、本犯の利益のために、これに協力して物の所在を移動することによって成立し、通常、本犯の意図する場所へ物の所在を移動するものである

と判示し、本犯の依頼により贓物である情を知りながら、これを運搬する貨物自動車を斡旋手配し、その自動車に本犯と同乗し、本犯と共同して贓物を運搬した者に対し、盗品等運搬罪が成立するとしました。

運搬の要件

 盗品等の運搬は、単に契約では足りず、現実に盗品等を運搬することを必要とします。

 盗品等であることを知らずに運搬し、途中で気づいた場合には、その気づいた時点をもって、盗品等運搬罪が成立します。

 運搬の中止が困難な場合や、被害者に盗品を返還する目的で運搬を続ける場合には、盗品等運搬罪は成立しません。

 運搬は、自ら行う必要はなく、たとえば、宅配便を使って盗品を運搬させる場合も、盗品等運搬罪を成立させると考えられます。

 盗品である現金を受け取り、その現金を遠隔地の銀行口座に振り込むような場合は、現金の価値の運搬があるにとどまり、所有権は債権に変容し、盗品そのものの運搬と見なされないため、盗品等運搬罪は成立しません。

本犯と共同して運搬を行った者に対しては、盗品等運搬罪が成立する

 本犯(窃盗等の犯人)と共同して、盗品の運搬を行う場合、本犯(窃盗等の犯人)については、盗品の運搬行為は、不可罰的事後行為として、盗品等運搬罪は成立しません。

 これに対し、本犯(窃盗等の犯人)と共同して盗品の運搬を行った運搬者については、盗品等運搬罪が成立します。

 この点ついて、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和35年12月22日)

 窃盗本犯である米兵らが横須賀市a所在の米軍倉庫から窃取した贓物を、貨物自動車に積載して売却するのに都合のよい東京都内に運搬するにあたり、被告人は贓物であることの情を知りながら、米兵らの依頼を受けて、米兵らに協力し、共同して横須賀市b町付近から東京都台東区e町まで運搬した事案で、裁判官は、

  • 被告人の所為は贓物運搬の罪を構成する
  • 窃盗本犯らにおいて、窃盗罪のほかに贓物運搬罪(盗品等に関する罪「盗品等運搬」)をもっては問擬(もんぎ)せられないからといって、これがため被告人の贓物運搬の罪の成立に消長をきたすものとはいえない

と判示し、本犯と共同で盗品等運搬罪を実行した者に対し、本犯には盗品等運搬罪が成立せずとも、共同で同罪を実行した者に対しては、盗品等運搬罪が成立するとしました。

盗品等有償譲受け罪の後に行う盗品の運搬は、盗品等運搬罪を成立させない

 盗品等を有償で譲り受けた者(盗品等有償譲受け罪を行った者)が、その盗品等を運搬しても、犯罪によって得た物の事後処分にしかすぎないので、不可罰的事後行為となり、盗品等有償受け罪に加えて、盗品等運搬罪は成立しません。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和24年10月1日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗の幇助をした者が、正犯の盗取した財物を、その贓物たるの情を知りながら買受けた場合においては、教唆の場合と同じく、従犯について、贓物故買の罪(盗品等有償譲受け罪)は成立する
  • 同一人(盗品等を有償で譲り受けた被告人)が、既に故買した物件を他に運搬するがごときは、犯罪によりて得たものの事後処分たるに過ぎないのであって、刑法はかかる行為をも同法第256条第2項によって処罰する法意でないことはあきらかである
  • しからば、原判決は罪とならない行為(盗品等運搬罪)を罪として処断した違法があるものといわなければならない

と判示し、盗品等有償譲受け犯が、盗品等を運搬しても、運搬行為は不可罰的事後行為として、盗品等運搬罪は成立しないとしました。

盗品等有償処分あっせん罪の過程で盗品等を運搬しても、盗品等運搬罪は成立しない

 盗品等有償処分あっせん罪の実行する必要上、盗品等を保管し、又は運搬することがあっても、それが盗品等有償処分あっせん罪の媒介行為として不可分の関係がある場合は、包括して単一の盗品等有償処分あっせん罪のみ成立し、盗品等運搬罪は成立しません。

 この点について、以下の判例があります。

高松高裁判決(昭和26年4月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • 贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)は、贓物であるの情を知りながら、その有償処分に関する媒介をすることによって成立するものである
  • その媒介に当り、媒介者が、媒介の必要上、贓物の寄託(保管)を受け、又は自らこれを運搬することがあっても、これらの行為が、媒介行為と不可分の関係がある場合には、これを包括して観察し、単一の牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)と見るのが相当である

と判示し、盗品等有償処分あっせん罪をとりもつ行為として、盗品の運搬や保管を行っても、盗品等運搬罪や盗品等保管罪は成立しないとしました。

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