盗品等に関する罪(刑法256条)の行為は、
刑法256条1項の
刑法256条2項の
の5種類と定められています。
※( )内は、平成7年改正前の旧刑法の罪名の呼び方です。
今回の記事では、有償処分あっせん(盗品等有償処分あっせん罪)について解説します。
盗品等有償処分あっせん罪を解説
「有償処分あっせん」とは?
有償処分あっせんとは
と判例(大審院判決 大正3年1月21日)で定義されています。
上記定義における「法律上の有償処分」に当たる行為として、盗品の
- 売買(大審院判決 明治36年3月30日)
- 入質(大審院判決 明治39年2月12日)
- 払戻し(東京高裁判決 昭和26年9月12日、乗車券の払戻し事案)
- 交換(大審院判例 大正5年2月24日)
などがあります。
「盗品等有償処分あっせん罪」における「有償」とは?
ここで勘違いしないでほしいのは、盗品等有償処分あっせん罪における「有償」とは、
あっせんの対象になる上記法律行為(盗品等の売買、入質、払戻し、交換など)が有償という意味
であり、あっせん行為自体が有償という意味ではありません。
あっせん行為は、有償でなくてもよく、あっせん行為を無償でやっても、盗品等有償処分あっせん罪は成立します。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
と判示し、盗品等有償処分あっせん罪の成否の認定に当たり、あっせん行為(媒介、周旋)を有償で行うことは必要ないとしています。
あっせんの対象になる法律行為(盗品等の売買、入質、払戻し、交換など)の名義問わない
あっせんの対象になる法律行為(盗品等の売買、入質、払戻し、交換など)は、依頼者名義、その代理名義、自己名義によるとを問いません。
たとえば、あっせん犯人が、知人に対し、盗品の売買をあっせんしたとします。
この時、実際に、その知人と盗品の売買を行う相手が、盗品の窃盗犯人なのか、盗品の窃盗犯人の代理人なのか、それとも、あっせん犯人自身なのかは、問いません(犯罪の成否に影響しません)。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 被告人は、Cらの依頼により、Cらのために、Cらが強盗によって入手した品物を、その贓物たるの情を知りながら、Dに売却した
- この事実が認められる以上、被告人の所為は、賍物牙保の罪(盗品等有償処分あっせん罪)に該当する
- この売買が、被告人自ら売主となってなされたか、又は盗罪犯人の名義若しくは、その代理名義でせられたかということは、贓物牙保罪の成否に影響するところはない
- かりに売買か、被告人自身の名義をもってされたとしても、他人の依頼により、他人の利益のためにするものである以上、「売買の周旋」というを妨げない
と判示しました。
あっせん行為は、間接的でも、軽微であってもよい
あっせん行為は、間接的であっても、軽微であっても、盗品等有償あっせん罪を成立させます。
この点について、以下の判例があります。
広島高裁岡山支部判決(昭和28年7月9日)
この判例で、裁判官は、
- 贓物(盗品等)売買に関する斡旋行為が、売買契約そのものに限って、軽微で間接的であるとしても、なお牙保(盗品等有償処分あっせん)罪をもって論ずる
と判示しました。
あっせん行為は、買主に直接交渉する必要はない
あっせん行為は、直接買主に交渉する必要はありません。
本犯(窃盗等の犯人)を、盗品の買主に案内誘導しただけであっても、盗品等有償処分あっせん罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
名古屋高裁判決(昭和30年3月10日)
この判例で、裁判官は、
- 盗品牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)は、贓物たる情を知りながら、贓品の売買の仲介斡旋の労を尽くすことによって成立するもので、犯人自らが贓物の売買につき、買主と接渉し、代金又は贓物の授受をすることまで必要としない
- 従って、仮に、被告人が、窃盗犯人を贓物の買主方に案内誘導し、窃盗犯人が贓物の売買につき、買主と交渉したとするも、被告人の行為は、贓物の売買の仲介斡旋と認むることができる
と判示し、窃盗犯人を盗品の買主に紹介しただけでも、紹介者に対し、盗品等有償処分あっせん罪が成立するとしました。
また、直接、盗品の買主に交渉しなくても、他人に依頼して、盗品の買主と交渉させ、盗品等の売買などのあっせんをした場合でも、本罪は成立します。
この点ついて、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 贓物(盗品等)の売却方の依頼を受けた甲が、贓物たるの情を知りながら、乙に対し、その売却斡旋方を依頼し、乙が更に丙に対し、売買の交渉をした場合においても、甲は贓物売却の斡旋行為をしたものとして贓物牙保(盗品等有償処分あっせん)罪の責を免れ得ない
と判示しました。
大審院判例(大正3年1月21日)
この判例で、裁判官は、
- 贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)は、情を知りながら、その有償処分に関する媒介をなすによりて成立するものなれば、直接買主に対して交渉をなさるも、他人に委嘱して交渉をなさしめ、もって売買の媒介をなしたるときは、該罪(盗品等有償処分あっせん罪)を構成するものとす
と判示しました。
あっせん行為は、買主に直接交渉する必要はないが、交渉を依頼した他人が、実際に買主にあっせん行為をしなければ、本罪は成立しない
あっせん行為は、買主に直接交渉する必要はありませんが、交渉を依頼した他人が、実際に買主に対し、盗品のあっせん行為をしなければ、盗品等有償処分あっせん罪は成立しません。
この点について、以下の判例があります。
名古屋高裁判決(昭和25年4月5日)
この判例で、裁判官は、
- 贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)が成立するには、当該犯人において、直接その贓物の有償処分に関する交渉をなす必要はないので、他人に委嘱して、その交渉をなさしめてもよいのである
- しかし、その直接又は間接の媒介によって、その贓物の有償処分が行われたことを要し、単に、売主からその贓物の有償処分の媒介を依頼せられたこと、もしくは、これを承諾して、更に他人にその媒介を依頼したことだけをもって、未だ贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)の成立ありとはなし得ないと解さなければならない
と判示しました。
盗品が既に存在する状態であっせん行為をしなければ、本罪は成立しない
あっせん罪が成立するためには、盗品がすでに存在していることが必要です。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 窃盗罪の実行を決意した者の依頼に応じて、同人が将来窃取すべき物の売却を周旋しても、窃盗幇助罪の成立することあるは格別、贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)は成立しないが、その後同人が窃取してきた贓物について情を知りながら現実に売却の周旋をした場合には、賍物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)が成立することはいうまでもない
と判示し、未だ盗品がない状態で、盗品のあっせん行為をしても、盗品等有償処分あっせん罪は成立しないとしました。
盗品が存在しない状態であっせん行為をした場合は、本罪でなく、窃盗等の幇助犯が成立する
上記判例のとおり、盗品が存在しない状態で、あっせん行為をしても、盗品等有償処分あっせん罪は成立しません。
しかし、盗品等有償処分あっせん罪は成立しないものの、窃盗等の幇助犯が成立する可能性があります。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 本犯たるAの杉材窃取行為の前に行われたる被告人の杉材売却の周旋行為につき、賍物牙保罪(盗品等有償譲受け罪)の成立を認められない
- しかしながら、苟くも被告人において、Aが前記杉材を窃取するものであるとの情を知りながら、その杉材の売却周旋をなす行為のある以上、それは畢竟Aの窃取行為を容易ならしめるもの、すなわち窃盗の幇助にほかならない
と判示し、盗品等有償処分あっせん罪は成立しないが、窃盗幇助犯が成立するとしました。
盗品が実際に売買されなくても、本罪は成立する
盗品等有償処分あっせん罪の成立について、盗品が現実に、窃盗犯人などの売主から、盗品の買主の手に渡り、売買、入質、払戻し、交換など法律行為によって処分されることは要しません。
この点について、以下の判例があります。
最高裁判決(昭和23年11月9日)
この判例で、裁判官は、
- 賊物(盗品等)に関する罪の本質は、贓物を転々して被害者の返還請求権の行使を困難もしくは不能ならしめる点にあるのであるから、いやしくも贓物たるの情を知りながら賊物の売買を仲介周旋した事実があれば、既に被害者の返還請求権の行使を困難ならしめる行為をしたといわなければならないから、その周旋にかかる贓物の売買が成立しなくとも、贓物牙保(盗品等有償処分あっせん)罪の成立をさまたげるものではない
と判示し、現実に、窃盗犯人と盗品の買取り人との間で、盗品の売買が成立しなくても、仲介周旋の行為があれば、盗品等有償処分あっせん罪が成立するとしました。
最高裁判決(昭和26年1月30日)
この判例で、裁判官は、本罪の事後従犯的性格を強調して、
- 被告人は、K等が判示犯罪によって得た贓物(盗品等)に関して、K等のため、不公正な取引を仲介周旋したものであって、一般に強窃盗を誘発するおそれが十分にあるといわなければならない
- されば、被告人の周旋行為によって、未だ贓物の売買が完成するに至らず、また本犯の被害者の贓物返還請求権行使を不能又は困難ならしめるおそれはなかったとしても、なお行為自体は既に贓物牙保(盗品等有償処分あっせん)罪の成立に必要な周旋行為に該当する
- (被告人の弁護人は、)贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)は、贓物に対する被害者の返還請求権の行使を不能、又は困難ならしめるおそれのある犯罪であると前提し、被告人の無罪を主張するのであるが、贓物に関する罪を一概に所論の如く被害者の返還請求権に対する罪とのみ狭く解するのは妥当ではない
- 法が贓物牙保(盗品等有償処分あっせん)を罰するのは、これにより被害者の返還請求権の行使を困難ならしめるばかりでなく、一般に強窃盗の如き犯罪を助成し誘発せしめる危険があるからである
と判示し、贓物の売買が完成していなくても、あっせん行為をした時点で、盗品等有償処分あっせん罪が成立するとしました。
この判例で、裁判官は、
- 贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)の成立するがためには、犯人が贓物たるの情を知りながら、他人のためにこれが売却の仲介斡旋の労を尽したといふ事実があれば即ち足るものであって、仲介斡旋をするため、犯人が自ら該贓物の交付を受けたか否かは 毫も同罪の成否に消長を来すものではない
- 被告人は、Aより、Aの知人が他より窃取してきたものであるという事情を打明けられた上、銅線8貫匁くらいの売却の仲介斡旋方の依頼を受けて、これを承諾し、Aの知人と共に右贓物の一部である長さ3尺、重さ4、5貫匁くらいを見本として携行の上、B方に赴き、Bに対し、該見本を呈示して、これが買入方を申込み、もってAのために仲介斡旋の労を採ったといふ事実を肯認するに十分であって、所論の如く、その際、被告人が贓物の全部を自ら交付を受けたと認むべき積極的な資料は存在しないけれども、被告人の前記所為は、特に贓物牙保罪(盗品等有償処分あっせん罪)の実行正犯に該当し、同罪の成立を否定し得べきものでない
と判示しました。