刑法(詐欺罪)

詐欺罪㉗ ~「請負契約に関する詐欺」を判例で解説~

請負契約に関する詐欺

 詐欺罪(刑法246条)について、請負契約に関する詐欺の判例を紹介します。

大審院判決(昭和10年9月26日)

 会社としては、鉄道に関する工事請負代金のような多額の支払に応ずる資力がないのに、請負契約保証金その他の名義のもとに、他から金品を詐取するのは、詐欺罪を構成するとしました。

最高裁判決(昭和31年8月30日)

 工事請負人の代理人として、町との工事請負契約を締結し、代金を受領する権限のある者が、請負人が承諾した金額を超え、町の予算額で契約を締結し、町から受領した請負代金から差額を領得しても、町を欺いて金員を詐取したものとはいえないとして、詐欺罪は成立しないとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、請負人に代ってK町との間に工事請負契約を締結し、また請負人の代理人として右請負契約に基く工事代金を町から受領したものである
  • そしてかかる場合においては、被告人が請負人との内部の関係において、請負人に承諾せしめた請負金額を、注文主たるK町に告知せねばならぬ法律上の義務が被告人にあるとすべき特段の事由は認めることができないのである
  • たとえ事実審の認定したごとく、被告人が、請負人に対してはK町の工事費予算額を知らせず、その予算額よりはるかに低額で請負うことを承諾させ、一方、K町役場係員にはその事実を秘して、あたかも請負人はK町役場の予算額(またはその範囲内で、右請負人に承諾させた請負金額を上まわる額)で請け負うもののごとく申し向け、本件請負契約を締結し、そして工事完了により町役場には請負人が町との契約額を請求するよう申し向けて、自己にその代金の交付を受け、当初請負人の承諾した代金との差額を被告人が領得したとしても、被告人は町と請負人との間に有効に成立した請負契約に基づく当然の請負代金を受領したに止まり、被告人の本件所為が、町との関係において詐欺罪成立の要件たる騙取(詐取)行為があったものとすることはできない

と判示し、詐欺罪は成立しないとしました。

大審院判決(大正2年11月6日)

 請負金の受取方を第三者に委任した場合に、その旨を秘し自ら直接に請求書を提出しても、これをもって人を欺く行為とはいえず、また右請求書に基づき請負代金を受領しても詐取とはいえないとしました。

 裁判官は、

  • 他人より受け取るべき請負金につき、その受け取り方を第三者に委任したる場合において、自ら直接に請求書を提出したる行為は、当然の権利に基づき債務の履行を請求したる行為なれば、これをもって欺罔行為となすわずまた、右請求書に基づき、請負代金を受領したる行為をもって騙取行為となすを得ず

と判示し、詐欺罪は成立しないとしました。

福岡高裁判決(平成7年6月27日)

 建設工事の実務上の責任者であった被告人が、建設会社の担当者Bに対し、その下請工事を受注させることを約束して裏金を受け取ったことが詐欺罪に当たるとした第一審判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡しました。

 裁判官は、

  • Bが被告人に交付した本件金員が、地元対策等の裏工事資金として使用されるかどうかは、必ずしもBの関知するところではなく、その使途は、被告人の裁量に委ねられていたと認められることからすれば、本件金員を裏工作資金として使用することが、被告人とBとの間において約束されていたとか、Bが被告人に本件金員を交付した決定的な動機になっていたとはいえず、この点をもって詐欺行為の内容とすることもできない

と判示し、詐欺罪は成立しないとしました。

最高裁判決(平成19年7月10日)

 H市の下水道工事を受注し、請負契約を締結した建設業者Aが、H市から使途を限定してA名義の前払金専用口座に振り込まれた前払金に関し、Aの会社の運転資金に充てる意図であるのにその意図を秘し、上記使途に沿った下請業者Cに対する支払と偽って預金の払出しを請求し、その旨誤信した銀行支店係員をして、Cに無断で開設していたC名義の預金口座に400万円を振込入金させたことは、同支店の上記預金に対する管理を侵害して払出しに係る金員を領得したものであり、詐欺罪に該当するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、A建設被告人名義の前払金専用口座に入金された金員について、前払金としての使途に適正に使用し、それ以外の用途に使用しないことをH市及び保証事業会社との間でそれぞれ約しており、B銀行H支店との関係においても同口座の預金を自由に払い出すことはできず,あらかじめ提出した「前払金使途内訳明細書」と払出請求時に提出する「前払金払出依頼書」の内容が符合する場合に限り、その限度で払出しを受けられるにすぎないのであるから、同口座に入金された金員は、同口座から被告人に払い出されることによって、初めて被告人の固有財産に帰属することになる関係にある(最高裁平成12年(受)第1671号同14年1月17日第一小法廷判決・民集56巻1号20頁参照)
  • すなわち、上記前払金専用口座に入金されている金員は、いまだ被告人において自己の財産として自由に処分できるものではない
  • 一方、B銀行H支店も、保証事業会社との間で、前払金専用口座に入金された金員の支払に当たって、被告人の払出請求の内容を審査し、使途が契約内容に適合する場合に限って払出しに応じることを約しており、同口座の預金が予定された使途に従って使用されるように管理する義務を負っている
  • そうすると、被告人らにおいて、A建設の運転資金に充てる意図であるのに、その意図を秘して虚偽の払出請求をし、同支店の係員をして、下請業者に対する前払金の支払と誤信させて同口座から前記C土木名義の口座に400万円を振込入金させたことは、同支店の上記預金に対する管理を侵害して払出しに係る金員を領得したものであり、詐欺罪に該当するものというべきである

と判示しました。

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