刑法(横領罪)

横領罪(1) ~「横領罪とは?(横領罪の主体・客体)」「『不動産』『代替物』も横領罪の客体になる」「『電気』『情報』は横領罪の客体にならない」を判例で解説~

 これから複数回にわたり横領罪(刑法252条)について解説します。

横領罪とは?

 横領罪(刑法252条)は、

自己の占有する他人の物(刑法252条1項)又は公務所から保管を命ぜられた自己の物(刑法252条2項)を横領する行為を内容とする犯罪

です。

 横領罪は、単純横領罪と呼ばれ、業務上横領罪刑法253条)と合わせて委託物横領罪とも呼ばれます。

横領罪の主体(犯人)

 横領罪(刑法252条)の主体(犯人)は、

  • 他人の物を占有する者(刑法252条1項)

又は

  • 公務所から保管を命ぜられた自己の者を占有する者(刑法252条2項)

です。

 上記のような物の占有者でなければ、横領罪の主体となることはできません。

 したがって、横領罪は、真正身分犯です。

 真正の意味は、条文に犯人となり得る身分が規定されているという意味と捉えればOKです。

 ちなみに、条文に犯人となり得る身分が明記されていないが、犯人に特定の身分を必要とする犯罪を不真正身分犯といいます。

 不真正とは、条文に犯人となり得る身分が規定されていないと捉えればOKです。

 横領罪が真正身分犯であること明示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和27年9月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法252条においては、横領罪の目的物に対する犯人の関係が占有という特殊の状態にあること、すなわち犯人が物の占有者である特殊の地位にあることが犯罪の条件をなすものであって、刑法65条にいわゆる身分に当たる

と判示しました。

横領罪の客体(被害品)

 横領罪(刑法252条)の客体は、

  • 自己の占有する他人の物(刑法252条1項)

又は

  • 公務所から保管を命ぜられた自己の物(刑法252条2項)

です。

 刑法252条1項の占有は、委託関係に基づくものであることを要します。

横領罪における「物」の意義と範囲

「物」とは、刑法における「財物」の意味である。

 「物」とは、窃盗罪刑法235条)、強盗罪刑法236条1項)、詐欺罪刑法246条1項)、恐喝罪刑法249条1項)等で規定する「財物」を意味します。

「不動産」も横領罪の客体になる

 横領罪において、物などの動産のほか、不動産も客体になります。

 つまり、自己が占有する不動産を自分の物にした場合は、横領罪が成立します。

 占有移転罪である窃盗罪では、客体の場所的移転の要否から不動産は窃盗の客体となるのかという論争があったために不動産侵奪罪刑法235条の2)が設けられましたが、横領罪では占有の移転は問題とならないし、横領罪における占有は、事実又は法律上の支配力を意味するので、横領罪においては、不動産も客体となることに問題はないとされています。

物が特定されない「代替物」も横領罪の客体になる

 金銭、米、酒などのように、その物の性質が数量・種類・品質において他の物と代替することができる物であっても、特定された上で現物のまま保管すべきとされている場合は、横領罪の客体となるのは当然です。

 ただし、不特定物のままであっても、消費寄託として委託されたものでない以上、委託されて保管しているものをその趣旨に反して処分した場合には横領罪が成立します。

 代替物でも横領罪が成立するとした判示として、次のものがあります。

最高裁判決(昭和26年6月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • 引取物件が代替物であって、Aが他に同種の鋼材を手持していたとしても、なおの所有に属する右引取物件を受託者において委託の趣旨に反して勝手に使用または売却した所為は、横領罪を構成するものであることは当然である

と判示し、代替物に対する横領罪の成立を認めました。

「電気」は横領罪の客体にならない

 横領罪において、電気は客体になりません。

 これは、横領罪に対しては、電気を財物とみなす刑法245条準用されていないためです。

「情報」は横領罪の客体にならない

 横領罪において、情報は客体になりません。

 なので、自己が管理する文書や電子機器上の情報のみを不正に漏示するなどしても横領罪は成立しません。

 しかし、情報が書面や記録媒体に化体している場合には、その書類や記録媒体自体が財物として横領罪の客体になります。

 化体した情報を横領すれば、横領罪・業務上横領罪が成立することの具体的事例として、以下の判例があります。

東京地裁判決(昭和60年2月13日)

 この判例は、勤務する会社から独立して起業するに当たり、会社の企業秘密であるソフトウェアなどの資料をコピーするため、同資料を社外に一時的に持ち出した行為について、業務上横領罪が成立するとしました。

東京地裁判決(平成10年7月7日)

 この判例は、大手都市銀行向けのプログラム開発業務に従事していた被告人が、業務上預かり保管中の書類資料の複製物を銀行の顧客データと共に売却する目的で、名簿業者に持ち出した行為について、業務上横領罪が成立するとしました。

次の記事

横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧

 横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧