罪数
強制性交等罪(刑法177条)の罪数の考え方について、裁判で争点になった事例を紹介します。
13歳未満の者に対して暴行・脅迫によって強制性交をした場合には、刑法177条の前段後段を問わず刑法177条の一罪が成立する
13歳未満の者に対して暴行・脅迫によって強制性交をした場合には、刑法177条の前段後段を問わず刑法177条の一罪が成立します。
具体的にいうと、判決で適用される条文が、「刑法177条前段・後段」という記載ではなく、「刑法177条」という記載になります。
この点について判示した以下の判例があります。
大審院判決(大正2年11月19日)
この判例で、裁判官は、
- 13歳に満たざる少女を姦淫したるときは、暴行又は脅迫の有無を問わず、刑法第177条に該当するものなれば、暴力をもってこれを姦淫したる場合といえども、一所為一罪名にして、少女姦淫罪(刑法177条後段)と強姦罪(刑法177条前段)とのニ罪名に触れるものに非ず
- 従って、刑法第54条の適用なし
と判示し、13歳未満の者に対し、暴行・脅迫によって強制性交をした場合は、刑法177条前段後段を問わず、刑法177条の一罪が成立するとしました。
強制性交の回数と強制性交等罪の成立個数
同一被害者を数回にわたって強制性交した場合には、反抗の時間的、場所的接着性など犯行の態様によって包括一罪と認められる場合と併合罪と認めるべき場合とがあります。
数回にわたる強制性交を包括一罪と認定した事例として、以下の判例があります。
名古屋高裁判決(昭和30年4月21日)
3回にわたる姦淫を強姦罪(現行法:強制性交等罪)の1罪と認定した事例です。
裁判官は、
- 3回の姦淫は、午後8時頃から午後9時頃までの短時間内の行為であり、最初から最後まで、被害者の畏怖状態が継続していて、これを利用して被告人が3回姦淫したことが認められるので、物理的に観察すれば、数回の犯罪行為が為されたように思えるが、時間的関係、場所的関係と被告人の意思、被害者の畏怖状態等を総合して、一罪と解するのが相当である
と判示し、3回の強制性交を包括一罪とし、1個の強姦罪(現行法:強制性交等罪)が成立するとしました。
数回にわたる強制性交を併合罪と認定した事例として、以下の判例があります。
仙台高裁秋田支部判決(昭和29年2月2日)
裁判官は、
- 強姦罪(現行法:強制性交等罪)は犯人の性感を満足すると否とを問はず、暴行又は脅迫して婦女を姦淫する行為があれば直ちに成立するものであるから、たとえ同一人に対する場合であっても、その時及び場所の関係上行為と認められざる限り、1個の行為と認むべきではない
- 原判決挙示の証拠によると、被告人が薪小屋においてAを姦淫後、しばらくして、同所から約150m離れた被告人自宅に連行し、更にAを姦淫したことが認められるから、これを2個の行為と認定したのは相当である
と判示し、場所と時間を異にする2回の強制性交は併合罪となるとし、2個の強制性交等罪が成立するとしました。
複数の共犯者による同一被害者に対する数回の強制性交は、強制性交等罪の一罪が成立する
複数の共犯者が、同一被害者に対し、数回の強制性交(いわゆる輸姦)を行った場合は、強制性交等罪の共同正犯の一罪が成立する場合が多いです。
参考となる判例として以下のものがあります。
この判例で、裁判官は、
- 被告人らは、相被告人(共犯者)らと共謀して、同一機会にFを順次に強姦したのであるから、被告人らは自分の姦淫行為のほか、他の被告人らの姦淫行為についても共同正犯として責を負わなければならない
- かような場合は、一人で数回姦淫した場合と同様、連続犯となるという考方もあると思われるが、数人が同一の機会に同一人を姦淫したのであっても、全体を単一犯罪と見られないことはない
- 本体は連続犯と見るべきものであるとしても、結局一罪として処罰されることになるのであるから、原判決が単一罪として処罰したのと同一結果となるわけであって、原判決に影響を及ぼさないから、破棄の理由とならない
と判示し、各被告人に対し、強制性交等罪の共同正犯の一罪が成立するとしました。
被害者の人数に応じた個数の強制性交等罪が成立する
強制性交等罪の保護法益は、個人的法的であり、一身専属性からして、被害者が複数の場合には、たとえ同一の機会・場所で犯されても、被害者ごとに強制性交等罪が成立します。
この考え方は傷害罪の場合と同様です(詳しくは前回記事参照)。
参考となる判例として、以下のものがあります。
仙台高裁秋田支部判決(昭和34年8月19日)
この判例は、強姦を共謀した者が、二手に分かれて2人の婦女をそれぞれ別個の場所で強姦した事案につき、共謀共同正犯の成立を認め、2個の強制性交等罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。