公務執行妨害で警察官の職務行為の適法性が認められた事例①
警察官による職務質問・任意同行・所持品検査・自動車検問の事例
公務執行妨害罪(刑法95条第1項)に関し、警察官による職務質問・任意同行・所持品検査・自動車検問の行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとした事例として、以下のものがあります。
夜間、道路上で、警ら中の警察官から職務質問を受け、駐在所に任意同行され、警察官から所持品などにつき質問を受けている際中、隙を見て逃け出した者を、警察官が、更に質問を続行すべく追跡し、背後から腕に手をかけ停止させる行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
最高裁決定(昭和29年12月27日)、最高裁判決(昭和30年7月19日)
職務質問を続行するために跡を追いかける行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
職務質問に応じないで逃げようとする挙動不審者の肩に手をかけた行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
職務質問に対し逃走しようとした者の面前に立ちふさがり、更に2、3分職務質問を続ける行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
東京高裁判決(昭和60年9月5日)
職務質問のため停止させる目的で、逃走を制止するため、両肩をつかんだり、ジャンパーの両襟首をつかんだりした行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
東京高裁判決(昭和49年9月30日)
職務質問を続行するため、立ち去ろうとする相手方の手首をつかんで停止を求める行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
名古屋高裁判決(昭和49年12月19日)
酒酔い運転の被疑者が呼気検査を拒否して立ち去ろうとした場合において、警察官が翻意を求めて両手で被疑者の手首をつかみ押しとどめた行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
大阪高裁判決(昭和49年2月28日)
職務質問のため、疾走して来る者の面前に立ちふさがり、両手を広げて停止を求める行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
交通整理等の職務に当たっていた警察官につばを吐きかけた者に対して、職務質問に先立ち、その胸元をつかみ歩道上に押し上けた警察官の行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
名古屋高裁判決(平成13年10月31日)
職務質問のため停止を求めた際、胸元をつかまれたため、相手の胸元をつかみ返してもみ合いとなり、相手の着衣を破損した行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
広島高裁判決(昭和31年5月31日)
職務質問に際し、被質問者が所持したメモを飲み込もうとしようとするのを制止するため、その身体に手をかけ実力を行使する行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
大阪地裁判決(昭和56年11月13日)
職務質問に着手したがこれを拒否する相手に翻意を求めて説得しているところを、他の者が妨害するのを排除する行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
被質問者が暴れた現場から極めて近い道路上に事情聴取のため任意同行を求める行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
仙台高裁判決(昭和30年10月13日)
職務質問のため任意同行を求めるに際し、ひじ付近を押さえ、引く行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
高松高裁判決(昭和40年7月19日)
職務質問の過程において、異常な箇所につき着衣の外部から触れる行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
大阪高裁判決(昭和38年9月6日)、東京高裁判決(昭和48年4月23日)
警察官による自動車検問や自動車の停止を求める行為を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
一時停止違反をした者に対し、職務質問のために進行中の自動車に停車を命じ、その自動車のドアを両手でつかむ行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
仙台高裁秋田支部判決(昭和46年8月24日)
酒酔い運転の疑いのある者に対し、警察官が職務質問のため自動車のドア及びハンドルをつかんで停止させる行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
東京高裁判決(平成19年8月10日)
職務質問のため、自動車のエンジンの停止を呼び掛けたが、これを無視して前進と後退を始めたことから、警察官が運転席の窓上方から手を差し入れ、エンジンキーを引き抜こうとする行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
職務質問及び交通の危険防止のため、警察官が窓から手を差し入れ、エンジンキーを回転してスイッチを切る行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
東京高裁判決(昭和45年11月12日)
無免許運転容疑が濃厚な被疑者が職務質問に応じず、自動車を発進させて逃走を企てた際、警察官が窓から手を差し入れて、ハンドルを握って停止を求める行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
東京高裁判決(昭和54年7月9日)
職務質問のため自動車の発進を制止しようとして、開いたドアと車体の間から手をのばしエンジンを切ろうとしたり、ハンドルをつかんだ警察官の行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
東京高裁判決(昭和57年4月21日)
自動車検問に際し、約5~10分間停車させて職務質問した上、更に質問を続行しようとして、運転者が提示した免許証を返還することなく、丸太で車止めしようとした行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
名古屋高裁金沢支部判決(昭和52年6月30日)
自動車の前後に捜査用自動車を接近させ、車を停止せる「はさみうち自動車検問」の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
交通取締りを実施していた警察官が、停止の合図に従わずに加速して検問場所を通過して逃げようとした自動車運転者に対し、酒酔い運転について取り調べる必要を認めて降車を求めたのに、かえって発進しようとしたため、エンジンを切るために手を自動車内に差し入れるなどしてこれを阻止しようとする行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
大阪高裁判決(昭和40年10月28日)
停車を求めたのに逃走する自動車のドアをつかみ「止まれ止まれ」と連呼しながら一緒に走る警察官の行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
警察官が、ホテルから料金不払いや薬物使用の疑いのある宿泊客を退去させてほしい旨の要請を受け、客室で職務質問を行った際、警察官と気づくやドアを急に閉めて押さえるなどしたため、ドアを押し開けて敷居上辺りに足を踏み入れ、ドアが閉められるのを防止する行為の適法性を認めました。
(なお、この判例は、覚醒剤取締法違反の事案ですが、公務の適法性の判断基準を考える上で、参考になります)