法律(刑事訴訟法)

任意同行とは? ~「任意同行が行われる場面」「逮捕との違い」「任意同行における有形力の行使」「任意同行が違法と判断された場合の無罪判決の事例」を判例などで解説~

任意同行とは?

 任意同行とは、

犯罪捜査の必要から、強制手続によることなく、任意で被疑者を警察署や検察庁に同行すること

をいいます。

任意同行が行われる場面は3つに分けることができる

 任意同行が行われる場面は、3つに分けることができます。

1つ目➡職務質問の場面

 職務質問を行った際に、被疑者に対し、警察署に来るように同行を求める場面(警職法2条2項)。

2つ目逮捕の場面

 逮捕状が出ている被疑者について、警察署や検察庁に連れて行った上で逮捕状を執行するために、警察署や検察庁まで任意同行を求める場面。

3つ目➡取調べための出頭の場面

 逮捕されていない被疑者に対し、取調べのために警察署や検察庁に出頭を求める場面(刑訴法198条1項)。

任意同行と逮捕の違い

 任意同行と逮捕の違いは、強制力を行使できるかどうかの違いになります。

 任意同行は強制力を行使できません。

 逮捕は強制力を行使できます。

 犯罪捜査において、強制力を行使できるかどうかは、裁判官の発する令状があるかどうかで決まります。

 逮捕は、裁判官の発する令状(逮捕状)の効力で、被疑者の身体を拘束し、警察署や検察庁に強制的に連行することができます。

 しかし、任意同行の場合は、裁判の発する令状はないため、警察署や検察庁に同行するに当たり、強制力を行使できません。

 警職法2条2項では、職務質問における任意同行について、

『身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、もしくは答弁を強要されることはない』

と規定し、任意同行において、強制力が行使できないことをルール化しています。

 もし、任意同行で強制力を行為すれば、それは実質的に逮捕になります。

 そして、令状なしに、実質的に逮捕と見なされるような任意同行をすれば、それは違法行為になります。

任意同行では、強制手段に至らない有形力の行使が認められる

 任意同行において、いくら強制力を行使できないからといって、何の実力も行使できないとされるのであれば、犯罪捜査の目的を達成し、犯罪者を適正に処罰し、治安を維持することができません。

 そこで、任意同行の実効性を確保するために、

具体的状況の下で相当と認められる限度の強制手段に至らない有形力の行使

が認められています。

 有形力の行使とは、

  • 犯人の肩に手をかける
  • 犯人の腕をつかむ

といった物理的な力の行使をいいます。

 ここで問題になるのは、どの程度の有形力の行使が適法とされ、または違法とされるのかという判断基準です。

 考え方として、任意同行における有形力の行使が、

実質的な逮捕と同視されるような強制にわたるもの

であれば違法となり、そうでなければ適法となると整理することができます。

 より具体的には、任意同行前後における諸般の事情(任意同行の時間、場所、方法など)を総合勘案されて判断されることになります。

有形力の行使で参考となる判例

 任意捜査において、有形力の行使が認められることは、最高裁判例(昭和51年3月16日)で示されています。

 任意同行は、任意捜査における一つの捜査手段なので、有形力の行使を理解する上で、この判例は参考になります。

 この判例で、裁判官は、

  • 捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである
  • しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであって、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。
  • ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである

と判示しています。

 この判例は、

任意同行などの任意捜査において、強制力を行使することは許されないが、強制に至らない程度の有形力の行使なら許される

ことを示しています。

任意同行が違法と判断された場合の無罪判決の事例

 任意同行が、実質的な逮捕と同視され、強制力が行使されたと認められた場合、違法な任意同行と判断され、その後にも大きな影響を与えます。

 具体的には、違法な任意同行が前提にある状態で行われた捜査は、

その捜査全体が違法

と判断され、

収集した証拠も違法収集証拠となって証拠能力を否定され

結果として、

無罪判決

が出される場合があります。

 なお、証拠能力とは、

捜査で取得した書面や物を、裁判において、犯罪を証明するための証拠として裁判官に採用してもらえる力

をいいます。

 違法な任意同行が前提にある状態で収集された証拠が違法と判断され、その証拠の証拠能力が否定されると、

犯人の犯罪事実を認定する証拠がなくなり、

その結果、裁判において、検察官が犯罪事実を証明できず、裁判官は、

無罪判決を出さざるを得なくなる

という流れになります。

 この点については、仙台高裁判例(昭和55年12月16日)があり、裁判官は、

  • 違法な任意同行に引き続く取調べにより得た被告人の自白の証拠能力はもとより、その後の緊急逮捕及び勾留中になされた被告人の一切の自白の証拠能力も否定すべきものと解するのが相当である
  • そうすると、被告人の検察官及び司法警察員に対する各自白調書は証拠能力がなく、各自白調書以外の証拠をもってしては被告人が本件窃盗行為に及んだ事実を認定することはできない
  • 被告人の自白はすべて証拠能力がなく、その余の証拠のみをもつてしては公訴事実中窃盗の事実を認定することは困難であって、公訴事実については結局犯罪の証明がないことに帰するから、刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする

と判示しました。

 判例の結論を端的にまとめると、

  1. 違法な任意同行に引き続く取調べで作成された犯人の自白の供述調書は違法な証拠である
  2. だから犯人の自白の供述調書は証拠として採用できない
  3. これにより犯罪事実を証明する証拠がなくなるから犯人を無罪とする

という流れになります。