刑法(殺人罪)

殺人罪(31) ~「殺人罪における正当行為」を解説~

正当行為とは?

 正当行為とは、違法性阻却事由です。

 正当行為は、

  1. 法令行為
  2. 正当業務行為
  3. 自救行為
  4. 被害者の承諾による行為
  5. 被害者の推定的承諾による行為
  6. 労働争議行為

に分類されます(詳しくは前の記事参照)。

 殺人罪を犯しても、その行為が正当行為であると認められれば、殺人行為の違法性が阻却され、殺人罪は成立しません。

 上記①~⑥のうち、②の正当業務行為とは、法令行為のように、法律がそれを行うことを明記して許している行為ではないが、

  • 法律上正当と認められた業務行為
  • 法律上の根拠はないが、社会通念上相当と認められる業務行為

をいいます。

正当行為(正当業務行為)として、殺人罪の成立が否定された事例

 警察官による犯人の狙撃が正当行為として罪にならないとされた事例(瀬戸内シージャック事件)があります。

広島地裁判決(昭和46年2月26日)

【事案】

 警察官を刺傷し、銃砲店を襲って猟銃などを強奪するなどの事件を重ねて逃走中の犯人が、船長や乗客らにライフル銃等を突きつけるなどの脅迫を加えて旅客船を乗っ取り、広島港の桟橋接舷した船の船橋甲板において船員を人質に、近づく警察官らに対し、猟銃を発砲し続け、肉親の説得にも耳をかさないのみか、これに対しても発砲するという状況であったところ、船長に命じて再び出港しようとした。

 そこで、広島県警察本部長は、このうえは船員及び付近の警察官、報道関係者、一般市民の生命の安全のためにはライフル銃によって狙撃して逮補するほかないと考え、指揮下の警察官に命じて犯人を狙撃させ、銃弾をみぞおち付近に命中させて死亡させた。

【判決内容】

 広島県警本部長及び狙撃した警察官を被疑者として、刑事訴訟法262条1項付審判の請求があったが、裁判所は、被疑者らに未必の殺意があったことを認めたうえで、正当防衛の要件が満たされていたと判断し、警察官職務執行法7条、刑法35条により違法性が阻却されるとしました。

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