刑法(殺人罪)

殺人罪(50) ~殺人未遂罪⑥「殺人未遂罪(実行未遂の場合で中止未遂)の裁判例」を解説~

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、殺人未遂罪(着手未遂の場合で中止未遂)の裁判例を紹介しました。

 今回の記事では、殺人未遂罪(実行未遂の場合で中止未遂)の裁判例を紹介します。

殺人未遂罪(実行未遂の場合で中止未遂)

 未遂は、

① 実行行為そのものが終了しなかった場合(着手未遂)

→詳しく説明すると、殺害行為を実行したが、実行した殺害行為が終了していない場合

② 実行行為は終了したが結果が発生しなかった場合(実行未遂)

→詳しく説明すると、殺害行為を実行し、殺害行為を実行しきったが、被害者死亡の結果が発生しなかった場合

とに分けられます。

 今回は、殺人未遂罪の中止未遂において、②の実行未遂の裁判例を紹介します。

(殺人未遂罪の中止未遂において、①の実行未遂の裁判例は、前回の記事参照)

殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するためには「結果発生防止の真摯な努力が必要」

 実行未遂の場合、「中止した」といえるためには、結果発生(被害者の死亡)を防止するための「真摯な努力」をすることが必要です。

 具体的には、殺害行為を実行して、殺害行為を終えた後、被害者が未だ死亡していない状態において、被害者が死亡することを防止するための真摯な努力をする必要があるということです。

 この点について判示した判例として、以下のものがあります。

大審院判決(昭和13年4月19日)

 殺害目的で青酸カリを胃腸薬と偽って交付した後、良心の呵責に堪えず取り戻しに行ったが、相手が偽って既に服用したと言ったのでそのままにしておいたところ、数日後に服用して死亡したという事案です。

 この裁判例は、殺人罪の未遂ではなく、既遂の事案ですが、殺人未遂罪の実行未遂による中止未遂について言及した点が参考になります。

 裁判官は、

  • 被告人にして、真に結果の発生を防止せんとせば、宜しくその先に交付したる薬品が毒物なりしことを告白するの真摯なる態度に出でざるべからざるをもって、単に相手の言によりそのまま放任し置いたのは、未だ結果の発生を防止する行為をしたと言えない

とし、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するには、結果発生を防止する真摯な態度と行為が必要であることを示しました。

大審院判決(昭和12年6月25日)

 結果防止行為は、必ずしも自分一人でする必要はなく、他人の助力を仰いでも差し支えないが、その場合には、犯人自ら防止に当たったと同視するに足るべき程度の努力をする必要があるとしました。

殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)の裁判例

 実行未遂の場合、「中止した」といえるためには、結果発生(被害者の死亡)を防止するための「真摯な努力」をすることが必要です。

 その観点をもって、裁判例を見てくことが有用です。

① 中止行為を認めた裁判例

 以下の中止犯を認めた裁判例は、殺人の実行行為によって死の結果を発生させる危険性を生じさせた場合には、直ちに自己においてなし得る応急措置を講じた上、被害者が速やかに適切な医療措置を受けられるように取り計らった行為が、結果発生防止のための「真摯な努力」と評価されています。

東京地裁判決(昭和37年3月17日)

 家事手伝いとして住込み先の幼児を殺害しようと決意し、イソミタール(催眠鎮静剤)10錠を風邪薬だと偽って飲ませたが、間もなく大変なことをしたと悟り、もはや独力ではいかんともし難いと観念して、110番で警察官に事実を通報し、警察官の助力を得て被害者を病院に収容し、医療手当を加えたため一命を取り止めた事案です。

 裁判官は、被告人自身、結果の防止に当たったと同視するに足るべき程度の真摯な努力を払ったものと認め、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するとしました。

東京地裁判決(昭和40年4月28日)

 被害者Aを山中まで誘い出して遭難事故に偽装して殺害しようと計画し、沢池内の中洲において野営中、熟睡しているAの頭部に大人の頭大の石を投げ下ろし、さらに手ぬぐいをAの首に巻いて絞め上げたまま引きずって、沢の水の中にAの顔を押さえて入れ、逃げ出したAがうずくまっているのを発見して殺害の目的を遂げるべく包丁を携えて近寄ったが、頭から血を流し芒然とした状態で被告人を識別できないAの様子を見て可哀想に思い、済まないことをしたと思って殺害行為を思いとどまり、Aを背負って中州に戻り、焚火でAの身体を暖め、濡れた衣服を自己の予備の衣類に着替えさせるなどした後、下山の途につき、途中の部落の医者に縫合等をしてもらった上、さらに十分な手当を受けさせるため、外科の専門医に連れて行き、その診断により大学病院に入院させて治療を受けさせた結果、入院加療23日間を要する頭蓋内出血を伴う後頭部等挫創等の傷害を負わせるにとどまった事案です。

 裁判官は、被告人が執った措置は、被告人としてなし得る最も適切な措置であったとし、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するとしました。

東京地裁判決(昭和40年12月10日)

 かつて同棲していた被害女性Bが復縁に応じないため、Bを殺害しようと決意し、布製バンドをBの頸部に巻き付け、強く絞めたが、Bの顔が赤くなって歪み、また足をばたつかせて苦しがったのに驚いて我に返り、どうせ一緒になれないのなら殺さないで助けて別れた方がよいと考えて殺害行為の継続を思いとどまり、バンドを緩め、濡れたタオルをBの顔に載せる等の措置を講じたが、依然として苦しみ続けたところから、近所に住む雇主Cに助力を求め、Cの指示により隣人に救急車の手配を依頼するなどして応急治療を受けさせた結果、加療約2週間の顔面うっ血の傷害を負わせたにとどまったという事案です。

 裁判官は、被告人の行為は有効適切で、被告人自身が結果の発生を積極的に阻止する行為に出たと同視し得る真摯な努力を払ったものと認め、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するとしました。

宮崎地裁都城支部判決(昭和59年1月25日)

 男女関係のもつれによる事件です。

 被害女性Dに対し「一緒に死んでくれ」などと言いながら、携帯していたファスナーをDの首に巻きつけて締めつけているうち、ファスナーが切れたため、包丁を持ち出しDの頸部前面を真横に切り裂いたが、多量の出血を見て驚き、正気を取り戻してDをなんとかして助けなければと考え、直ちに、119番が掛からなかったため110番で警察署に救急車の手配を依頼するとともに、止血のためお絞りを手交するなどし、救急車によって同女を病院に収容の上、治療を受けさせた結果、加療100日余りを要する頸部切創等を負わせるにとどまったという事案です。

 裁判官は、被告人の採った措置は、特に有効な治療措置を加える知識・経験をもたない被告人としては、できるだけの努力を尽くしたものというべきであり、結果発生防止のための被告人の採り得る最も適切な措置であったということができるとし、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するとしました。

福岡高裁判決(昭和61年3月6日)

 被告人は、未必の殺意をもって、A子の頸部を果物ナイフで1回突き刺したが、A子が口から大量の血を吐き出し、呼吸のたびに血が流れ出るのを見て、驚愕すると同時に大変なことをしたと思い、直ちにタオルを頸部に当てて血が吹き出ないようにした上、消防署へ電話して、傷害事件を起こした旨を告げて救急車の派遣と警察への通報を依頼し、到着した救急車にA子を消防署員とともに運び込むなどした結果、A子は病院に搬送されて手術を受け、一命を取り止めた事案です。

 裁判官は、被告人は2度、3度と続けて攻撃を加えることを意図していたものでなく、本件一撃によってA子に失血死、窒息死の危険を生じさせていることに照らすと、本件は実行未遂の事案であるとしつつ、被告人は、結果防止のための真摯な努力を払い、これが消防署員や医師らによる措置とあいまって、死の結果を回避せしめたもので、中止行為にあたると認め、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するとしました。

名古屋高裁判決(平成2年7月17日)

 殺意をもって被害者Eの右胸部をナイフで1回突き刺したところ、被害者がうめき声をあげたので、我に返るとともに可哀相になり、続けて刺すのを止め、119番電話をし、Eと一緒に傷口を押さえ、到着した救急隊員に自己がナイフで刺したことを説明したという事案です。

 裁判官は、結果発生の防止のため積極的で真摯な努力をしたと認め、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するとしました。

東京地裁判決(平成8年3月28日)

 自宅で妻の左胸部をナイフで3、4回突き刺すなどしたが、出血を見て驚愕するとともに、大変なことをしてしまったと悔悟し、直ちに119番通報するなどして救助を依頼し、医師らをして救命措置を講じさせたという事案です。

 裁判官は、 自ら結果の発生を阻止する行為をしたのと同視し得る真摯な努力を払ったものと認め、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するとしました。

大阪地裁判決(平成14年11月27日)

 実行行為終了後、3時間以上経ってから救命措置を講じた場合について中止未遂を認めた事例です。

 アルツハイマー型痴呆を患う夫との生活に疲れて前途を悲観し、夫を殺害した上、自殺しようと決意した被告人が、夫の胸部を包丁で2回突き刺したが抵抗されて包丁を取り上げられ、そのまま夫が死ぬのを待っていたが、夫が突然激しく苦痛を訴えたのを見て翻意し、110番通報するなどして一命をとりとめたという事案で、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂)が成立するとしました。

② 中止行為を認めなかった事例

 結果発生(被害者の死亡)を防止するための「真摯な努力」をしたと認められず、殺人未遂罪の中止未遂は成立しないとした裁判例として、以下のものがあります。

 なお、中止未遂が成立しない場合は、障害未遂が成立することになります(この点については、前の記事参照)。

大阪高裁判決(昭和44年10月17日)

 被害者の腹部を突き刺し、肝臓に達する刺創を負わせたが、被害者が「痛い痛い」と言って泣きながら病院へ連れて行ってくれるよう哀願したので、自己運転の自動車に乗せて病院へ運んだ実行未遂の事案です。

 裁判官は、救助活動が内部的原因に基づく任意のものであったことは必ずしも否定しなかったものの、

  • 被告人は、被害者を病院へ運び込んだ際、被害者の家族らに自己が刺したものではない旨嘘をつくなどして犯跡隠蔽しようとしており、医師に対し、犯人が自分であることを打ち明け、いつどこでどのような凶器でどのように突き刺したかを説明するとか、治療について経済的負担を約するなどの救助のための万全の行動を採っておらず、被害者を病院へ運んだだけでは、未だ結果防止のための真摯な努力をしたと認めるに足りない

とし、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で中止未遂ではなく、実行未遂の場合で障害未遂を認定)が成立するとしました。

新潟地裁長岡支部判決(昭和38年5月17日)

 殺意をもって被害者Aの腹部を小刀で刺したが、第三者が医師を呼ぶなどし、Aを病院で手当てできたため死亡しなかった事案で、中止未遂は成立しないとした事例です。

 裁判官は、

  • 被告人は、Aの腹部を1回突き刺しただけで、その後は攻撃を加えていないが、この突き刺した行為によって本件の実行行為は既に終了したと考えるべきであるから、本件はいわゆる実行未遂であるところ、実行未遂の場合で中止未遂が認められるためには、被告人が単にその後の行為を中止して不作為の態度に出ることのみでは足らず、結果の発生を防止するための作為が必要である
  • そして、その防止行為は被告人自らこれをなすか、あるいは被告人自らこれをなしたと同視できる程度のものであることを要する
  • 而して、被告人は本件現場付近から、飲食店YまでAを背負って行ったものであるが、これは主としてTの指示によるものであり、途中Aの傷口をタオルで押えさせたり、飲食店YでHに医者を呼ぶよう依頼したりしたのは、専らTがこれをなしたものであって、更に医者の手当が功を奏したため、結果の発生を防止することができたとみるべきである
  • その間の被告人の行動を観察するに、本件結果の発生が、被告人自らの又はこれと同視すべき程度の行為によって防止されたものと認めることはできないから、本件が中止未遂であると言うことはできない

と判示し、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で障害未遂)が成立するとしました。

大阪地裁判決(昭和59年6月21日)

 殺意をもって被告人が被害者Bの背中をナイフで突き刺し、その後、被害者Bが被告人に救急車を呼ぶように指示し、被害者Bは救急車に運ばれて病院で手当て受け、死亡しなかった事案です。

 裁判官は、

  • 本件における実行行為の終了の有無について検討するに、犯行態様、傷害の程度からして、本件は被告人の1回の突刺し行為それ自体で殺害の結果を生じさせるおそれを有していたと認められる上に、被告人は憤激のあまり咄嗟に未必的殺意を抱き本件犯行に及んだもので、果物ナイフを突き刺した直後ナイフから手を離していることからして被告人があらかじめ被害者を何回も突き刺そうという意図を有していたとは考え難いことをも考慮すれば、本件は1回の突刺し行為だけで被告人の実行行為が終了しており、いわゆる実行未遂にあたると解される
  • したがって、中止未遂が認められるためには、被告人自らのまたはこれと同視できる行為によって結果の発生が防止されたことが必要であるところ、関係証拠によれば、被告人が果物ナイフで被害者の背中を突き刺した後、被害者は自らナイフを抜き取り、被告人に対して救急車を呼ぶよう指示し、被告人は被害者から指示されまた同人が出血しているのを見て大変なことをしたとの気持ちも伴って、直ちに1階に降りて公衆電話から119番したが通じなかったため、110番して自らの犯罪を申告するとともに救急車の手配を要求したが、その時、被害者も自力で同所へ降りて来ていて被告人に対して救急車の手配を指示していること、被害者はその後救急車で運ばれ医師の手当が功を奏したため結果の発生を防止することができたことが認められるが、その間の被告人の行動は、結局のところ、被害者の指示のもとで被害者自身が救急車の手配をするのを手助けしたものと大差なく、もとより結果の発生は医師の行為により防止されている
  • したがって、この程度の被告人の行為をもってしては、未だ被告人自身が防止にあたったと同視すべき程度の努力が払われたものと認めることができず、本件が中止未遂であるということはできない

と判示し、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で障害未遂)が成立するとしました。

東京地裁判決(平成7年10月24日)

【事案】

 被告人(被害者B子の父)は、自宅アパートにおいて、一撃のもとに娘のB子を殺害する意図で、うつぶせの状態で就寝していたB子を仰向けの状態にし、その左胸部を出刃包丁で1回突き刺した。

 その後、被告人は、自宅アパートの整理たんす等に灯油を散布してライターで点火した。

 その直後、被告人は、出刃包丁で、自らの左胸部及び喉を突き刺した上、右頸部を切って自殺を図り、B子の足元付近にうっ伏せに倒れた。

 被告人は、その後しばらく意識を失っていたが、被告人方室内に立ち込めた煙により息苦しくなり、目を覚ました。

 すると、上半身を起こして壁に寄りかかるようにしていたB子が、被告人に向かって「お父さん、助けて。」と言ったことから、被告人は、急にB子のことがかわいそうになり、煙に巻かれないうちにB子を助け出そうという気持ちになった。

 そこで、被告人は、B子を玄関から室外に引きずり出し、自宅アパート前の道路に出た上、付近のC方出入口の門扉を開けて、その敷地内までB子を引きずって行ったが、意識を失ってB子と共にその場に倒れ込んだ。

 被告人らが倒れ込んだC方敷地付近は、夜間の人通りのほとんどない住宅街に位置するが、犯行当日の午前3時55分ころ、同所付近を偶然通り掛かった通行人が被告人及びB子を発見して110番通報したことから、B子は、病院に収容され、緊急手術を受けて一命をとりとめた。

【判決内容】

 裁判官は、

  • 出刃包丁の形状、突き刺した部位及び刺創の程度等に照らすと、被告人が出刃包丁でB子の左胸部を1回突き刺した時点において、B子には死の結果に至る高度の危険性が生じていたと認められ、被告人が一撃のもとにB子を殺害しようと意図していたことをも併せ考慮すると、被告人のB子に対する殺人の実行行為は、その時点において終了したというべきであり、本件はいわゆる実行未遂の事案である
  • したがって、被告人の任意かつ自発的な中止行為によって、現実に結果の発生が防止されたと認められなけれは中止犯は成立しないことになる
  • ところで、被告人がB子を室外に引きずり出したのは、B子が「お父さん、助けて。」と言ったのを聞いて、B子のことをかわいそうに思ったことによるものであるから、右行為はいわゆる憐憫の情に基づく任意かつ自発的なものであったと認められる
  • しかしながら、被告人は、B子を被告人方からC方敷地内まで運び出してはいるものの、それ以上の行為には及んでいないのであって、当時の時間的、場所的状況に照らすと、被告人の右の程度の行為が結果発生を自ら防止したと同視するに足りる積極的な行為を行った場合であるとまでは言い難く、B子が一命をとりとめたのは、偶然通り掛かった通行人の110番通報により病院に収容されて緊急手術を受けた結果によるものであったことを併せ考慮すると、本件が被告人の中止行為によって現実に結果の発生が防止された事案であるとは認められない
  • そうすると、殺人未遂について中止犯は成立しないと言うべきである

と判示し、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で障害未遂)が成立するとしました。

大阪地裁判決(平成23年3月22日)

 孫らを道連れに無理心中しようと企て、孫らが眠っている間に自宅の2階と3階に放火して殺害しようとしたが、火が回る前に孫たちが起き出してきたりしたため、殺人・現住建造物等放火ともに未遂に終わった事案です。

 裁判官は、

  • 放火の結果発生の危険性は客観的に見てかなり高まっていたにもかかわらず、2階の消火をしただけで、孫らを安全な場所に避難させたり、3階の様子を確認したりもしなかったのは、殺人・放火の結果が生じないように真剣に努力したとはいえない

として、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で障害未遂)が成立するとしました。

大阪高裁判決(昭和45年4月8日)

 強姦未遂(現行法:不同意性交未遂)の犯人が、犯行の発覚を恐れ、失神した被害者を、殺意をもって池に投げ込んだ後、被害者の手を引っ張って池から引き上げたという殺人未遂の事案です。

 裁判官は、

  • 被害者は池に投げ込まれて完全に意識を回復し、被告人に再び水中に押し込まれることを恐れて被告人の手の届かない沖の方に泳いで行き、竹につかまり立ち泳ぎしながら被告人の様子をうかがい、害意のないことを確かめたのち、被告人の差し延べた手の助けを借りて池の中から上がったのであって、被告人の救助行為は、被害者が意識を回復し、自ら泳いで竹に掴まり水没を免れたのちのことであるから、中止犯は成立しない

とし、殺人未遂罪(未遂内容:実行未遂の場合で障害未遂)が成立するとしました。

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