刑法(殺人罪)

殺人罪(51) ~殺人未遂罪⑦「中止未遂が成立するためには、自己の意思により犯罪の実行をやめたことが必要」を解説~

中止未遂が成立するためには、自己の意思により犯罪の実行をやめたことが必要

 中止未遂(中止犯)が成立するためには、

自己の意思により

犯罪の実行を止めた(やめた)ことが必要です。

 殺人未遂罪において、犯罪の実行をやめたことが、自己の意思によるかどうかの判断するためには、裁判例の傾向を追って理解することが有用です。

 裁判例の傾向として、

  • 中止の原因が外部的障害か(例えば、殺害現場を他人に発見されそうになったから、殺害行為を止めて逃げた)、内部的意思か(例えば、反省して殺害行為を止めた)によって区別し、「殺害行為をやろうと思ってもできなかった場合」を障害未遂、「やろうと思えばできたが、やらなかった場合」を中止未遂とする考え方
  • 悔悟慙愧・同情・憐憫など、広義の後悔によってやめた場合のみを中止犯とする考え方
  • 中止の原因が社会一般の通念に照らして通常障害と考えられる性質のものかどうかによって、客観的に区別する考え方

が採られています。

 なお、障害未遂と中止未遂の区別の考え方については、中止未遂が成立しなければ、障害未遂が成立するとなります(詳しくは前の記事参照)。

 以下で裁判例を紹介します。

中止行為の任意性が認められず、中止未遂ではなく、障害未遂を認定した事例

 殺人未遂罪の事案で、自己の意思により犯罪の実行を止めた(やめた)とは認められず、中止未遂ではなく、障害未遂を認定した事例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正2年11月18日)

 殺意をもって被害者に対し、脇差で2、3度切りつけたが、被害者が起き上がろうとしたので、「グズグズしていて人に発見されては大変だ」と思い逃走したという事案です。

 裁判官は、

  • 外部的障害により犯罪の発覚を畏怖し、殺害行為を遂行することができず、仕方なく逃走したのであるから、任意に中止したものではない

とし、自己の意思により犯罪の実行を止めたとは認めず、殺人未遂罪の中止未遂ではなく、障害未遂を認定しました。

大審院判決(昭和12年3月6日)

 工事代金を支払わない被害者の態度に憤激し、殺意をもって短刀で被害者の胸を突き刺したところ、被害者の胸の辺りからぱっと血が吹き出たので、はっと我に返り、続いて危害を加えることを止めた事案です。

 裁判官は、

  • 流血の流れるを見て止むるは、意外の障害に外ならない

とし、自己の意思により犯罪の実行を止めたとは認めず、殺人未遂罪の中止未遂ではなく、障害未遂を認定しました。

仙台高裁判決(昭和28年1月14日)

 被害女性Aを殺そうとしてまさかりで頭部を殴ったが流血のため右頬が染まるのを見て止めたのを外部的障害によるとし、自己の意思により犯罪の実行を止めたとは認めず、殺人未遂罪の中止未遂ではなく、障害未遂を認定しました。

 裁判官は、

  • 中止未遂たるには、外部的障害の原因が存しないのにかからず、内部的原因により任意に実行を中止し、若しくは結果の発生を防止した場合でなければならないと解すべきである
  • しかるに、本件被告人はAを殺そうとしてまさかりをもってその頭部を殴打したが流血のため左頬が染ったのを見て更に打撃を加えることを中止したのであるから、意外の障害により殺害の目的を遂げなかったものにほかならない

と判示し、自己の意思により犯罪の実行を止めたとは認めず、殺人未遂罪の中止未遂ではなく、障害未遂を認定しました。

最高裁決定(昭和32年9月10日)

 実母Aを殺害しようとして、電灯を消して就寝中のAの頭部を野球バットで力強く1回殴ったところ、うめき声を出したので死亡したものと思い、いったん隣の自室に行ったが、間もなくAが自己を呼ぶ声を聞いて戻り、電灯をつけてみると、頭部から血を流して痛み苦しんでいたので、その姿を見て急に驚愕恐怖し、その後は殺害行為を続行しなかったという事案です。

 裁判官は、

  • 被告人は、母の流血痛苦の様子を見て、今さらの如く事の重大性に驚愕恐怖するとともに、自己当初の意図どおりに実母殺害の実行完遂ができないことを知り、これらのため殺害行為続行の意力を抑圧せられ、他面、事態をそのままにしておけば当然犯人は自己であることが直ちに発覚することを怖れ、ことさら便所の戸や高窓を開いたり等して外部からの侵入者の犯行であるかのように偽装することに努めたものと認めるのが相当である
  • 意力の抑圧が、被告人の良心の回復又は悔悟の念に出たものであることは、前記のような被告人の偽装行為に徴しても首肯し難い
  • そして、右のような事情原因の下に、被告人が犯行完成の意力を抑圧せしめられて本件犯行を中止した場合は、犯罪の完成を妨害するに足る性質の障害に基づくものと認むべきであって、刑法43条但書にいわゆる自己の意思により犯行を止めた場合に当たらない

とし、自己の意思により犯罪の実行を止めたとは認めず、殺人未遂罪の中止未遂ではなく、障害未遂を認定しました。

中止行為の任意性を認め、中止未遂を認定した事例

 殺人未遂罪の事案で、自己の意思により犯罪の実行を止めた(やめた)と認められ、中止未遂を認定した事例を紹介します。

反省・悔悟・憐憫が理由で犯行を止めた事案で、中止未遂を認定した事例

 中止行為の任意性を認めている裁判例においても、反省・悔悟憐憫を理由としている事例が多いです。

福岡高裁判決(昭和29年5月29日)

 被害者の子供たちが目を覚まして泣き出した様子を見て、可哀想だという気が起こるとともに大変なことをしたという反省の気持ちも起こったので、殺すことを断念して首を絞めていた手を離した事案で、犯罪の発覚を恐れたのではなく、泣き出した幼児に憐憫を覚え翻意したことを理由として、犯行中止の任意性を認めた事例です。

 裁判官は、

  • 被告人が犯罪の実行に着手した後、これを中止したのは、幼児たちが泣き出したため、犯罪が発覚し、逮捕されることを怖れたことによるものではなく、「泣き出した幼児に憐憫を覚え飜意した」ことによるもので、反省悔悟した被告人自らの意思により任意に犯罪の実行を中止したものとみるのが相当であるから、被告人の本件所為は障害未遂ではなく、まさしく中止未遂に当るものといわねばならない

と判示し、自己の意思により犯罪の実行を止めたものであるとし、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

大阪高裁判決(昭和33年6月10日)

 被害者が被告人の言うことは何でも聞くと言って哀願したので、哀れみを覚え殺害するにいたらなかった場合について、自己の意思により犯罪の実行を止めたものであるとし、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

東京地裁判決(昭和40年4月28日)

 被害者Aを山中まで誘い出して遭難事故に偽装して殺害しようと計画し、沢池内の中洲において野営中、熟睡しているAの頭部に大人の頭大の石を投げ下ろし、さらに手ぬぐいをAの首に巻いて絞め上げたまま引きずって、沢の水の中にAの顔を押さえて入れ、逃げ出したAがうずくまっているのを発見して殺害の目的を遂げるべく包丁を携えて近寄ったが、頭から血を流し芒然とした状態で被告人を識別できないAの様子を見て可哀想に思い、済まないことをしたと思って殺害行為を思いとどまり、Aを背負って中州に戻り、焚火でAの身体を暖め、濡れた衣服を自己の予備の衣類に着替えさせるなどした後、下山の途につき、途中の部落の医者に縫合等をしてもらった上、さらに十分な手当を受けさせるため、外科の専門医に連れて行き、その診断により大学病院に入院させて治療を受けさせた結果、入院加療23日間を要する頭蓋内出血を伴う後頭部等挫創等の傷害を負わせるにとどまった事案です。

 裁判官は、

  • 犯行を継続し、殺害の目的を遂げることが容易であったのに、殺害行為を継続しなかったのは、水に濡れ血を流してうずくまっている被害者の姿を見て憐憫を覚えて翻意し、自己の行為を反省悔悟したによるものであったこと
  • 被告人が執った措置は、被告人としてなし得る最も適切な措置であったこと

を認め、自己の意思により犯罪の実行を止めたものであるとし、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

名古屋高裁判決(平成2年1月25日)

 一家心中を企図した被告人が、長男Aの頸部にロープを巻き付けて絞めた際、被害者と目が合って、その悲しそうで苦しそうな目を見て憐憫の情を催して絞めるのを止めた事案につき、殺害の気持ちを失くしたのは、被害者が抵抗したことにもよるが、決定的な原因は憐憫の情にあるとして中止の任意性を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人は、布団の上で就寝中の長男Aの頸部にナイロン製ロープを巻き付けて、これを引っ張って絞め付けたところ、気配で目を覚ましたAが布団の上に半身を起こしたこと、Aは半身を起こしてからも、首を振ったりして必死で抵抗しながら後ろを振り向いたが、その際、Aの目と被告人の目があったこと、このとき被告人は、Aの悲しそうで苦しそうな目を見て、憐憫の情を催し、ロープを引っ張る手の力を抜き、Aを殺害しようとの気持ちを失くしたことか認められる
  • 被告人やAの捜査官に対する各供述によれは、Aが布団の上に半身を起こすことができたのについては、Aが相当のカで必死に抵抗したことによることが窺われるけれども、反面、Aが半身を起こしたのちも、ロープは依然としてAの首に巻かれたままであり、大の男である被告人がロープを引っ張り続けようとすれば、それが可能であったという状況も認められるのである
  • 前記の事実関係に徴すれば、被告人がA殺害の気持ちを放棄したのは、Aが抵抗して布団に起き上がり、起き上がってからも首を振るなど抵抗を続けたことにもよるが、何よりも決定的な原因はAの悲しそうで苦しそうな目を見たことによりAに対する愛情の念が生じたことによるものと判断せざるを得ない
  • 果たしてそうだとすれは、被告人はA殺害の犯行を任意に中止したことが明らかである

と判示し、自己の意思により犯罪の実行を止めたものであるとし、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

東京高裁判決(昭和51年7月14日)

 日本刀で被害者の肩部一撃したのち攻撃を中止した場合において、殺人の中止未遂が認められた事例です。

 裁判官は、

  • 被害者を殺害するため、さらに次の攻撃を加えようとすれば容易にこれをなし得たのに、「息の根を止め、とどめをさすのを見るに忍びなかった」、「子供4人と狂っている妻の面倒をみさせるのは被害者しかいない」という動機に基づく攻撃の中止は、自己の意思による中止である

とし、自己の意思により犯罪の実行を止めたものであるとし、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

横浜地裁川崎支部判決(昭和52年9月19日)

 妻を殺害して自殺しようと決意し、裁ち鋏の刃先で咽喉部等を十数回突き刺すなどした被告人が、出血を見て驚愕するとともに憐憫の情を抱き、その後の行為を止めた事案です。

 裁判官は、多量の出血に驚愕したことによる障害未遂であるとの検察官の主張を退け、

  • こうした事情がある場合すべてについて任意の意思を否定するのは妥当でなく、通常人があえてなしうるのに、行為者はなすことを欲しないという意思が外部的障害を契機として生じたにせよ『自己の意思』あるものと解するを相当とする
  • 本件は強固な殺意に導かれてなされたものではなく、妻に対する憐欄の情等の心理的葛藤の中でためらいながら行われたもので、いずれの攻撃も強度のものでなく、与えた傷害の程度も重大でなかったことなどの事実を考慮し、客観的には殺害可能であったのに、妻をいとおしむ気持ちが先立ち、急所を刺し得ず、決定的な殺害行為に及ばないうちに、自己の意思により止めたものと認めた
  • 本件は、着手中止の色彩が強いばかりか、その後、直ちに救急車を呼んでおり結果防止に真摯な努力をしなかったとはいえず、その結果、被害者は確実に死を免れたのであって、その面では実行中止の要素もある

と判示し、自己の意思により犯罪の実行を止めたものであると認め、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

反省・悔悟・憐憫ではない理由により中止未遂を認定した事例

青森地裁弘前支部判決(平成18年11月16日)

 被害者から別れ話を持ち出され、考え直すよう迫ったものの拒絶されたため、殺意をもって頸部を強く絞めつけて失神させることを数回にわたって繰り返し、被害者が急激に失神した様子を見て死亡したものと誤信し、頸部から手を離したが、その後、大変なことをしてしまったと考え、被害者が呼吸をしていることを確認して未だ死亡していないことを認識しながら、更に頸部を絞めるなどの行為に及ばなかった事案です。

 裁判官は、殺人未遂罪の中止未遂を認め、その理由として、反省の気持ちから殺意を失ったことに加え、居室内に失神した被害者と二人きりであったという状況において、一般に、犯人がそれ以上殺害行為に及ばないとは限らないという点を理由としました。

宮崎地裁都城支部判決(昭和59年1月25日)

 男女関係のもつれによる事件です。

 被害女性Dに対し「一緒に死んでくれ」などと言いながら、携帯していたファスナーをDの首に巻きつけて締めつけているうち、ファスナーが切れたため、包丁を持ち出しDの頸部前面を真横に切り裂いたが、多量の出血を見て驚き、正気を取り戻してDをなんとかして助けなければと考え、直ちに、119番が掛からなかったため110番で警察署に救急車の手配を依頼するとともに、止血のためお絞りを手交するなどし、救急車によって同女を病院に収容の上、治療を受けさせた結果、加療100日余りを要する頸部切創等を負わせるにとどまったという事案です。

 裁判官は、

  • 被告人の採った措置は、特に有効な治療措置を加える知識・経験をもたない被告人としては、できるだけの努力を尽くしたものというべきであり、結果発生防止のための被告人の採り得る最も適切な措置であったということができる
  • 被害者の切創部から多量に出血しているのを見て驚愕したことがきっかけとなって殺害行為の継続を思いとどまったとしても、右驚愕は行為継続の障害となるべき状態を引き起こしたものではなく、深夜、密室において無抵抗の被害者と二人きりの状況にあることを考えると、容易に殺害の目的を遂げ得たであろうに、殺害行為を継続しなかったのは、殺害行為を反省し、積極的に被害者を救助すべく決意したことによるものであって、任意の意思に基づくものである

とし、自己の意思により犯罪の実行を止めたものであると認め、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

東京高裁判決(昭和62年7月16日)

 被告人が殺意をもって牛刀で被害者Aの左側頭部付近を切りつけ、Aが左手で防ぐなどしたため左前腕切傷を負わせたが、その直後、Aから「勘弁して下さい。私が悪かった。命だけは助けて下さい。」などと何度も哀願されたため憐憫の情を催して、それ以上の実行行為をしなかった事案です。

 裁判官は、

  • 被害者が被告人にとりすがって「勘弁して下さい。私が悪かった命だけは助けて下さい。」などと何度も哀願したことが中止の契機になっているが、一般的にみてそのような契機があったからといって被告人のような強固な確定的殺意を有する犯人が実行行為を中止するものとは必ずしもいえず、殺害行為を継続するのがむしろ通例であるとも考えられるのに、被告人は憐憫の情を催してあえて実行行為を中止したもので、反省、後悔の念も作用していたことが看取されるから、殺人の実行をやめたのは自己の意思による

とし、憐憫の情という主観的見地のほかに、上記「殺害行為を継続するのがむしろ通例である」のに実行をやめたという客観的見地を加味し、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

福岡高裁判決(昭和61年3月6日)

 被告人は、未必の殺意をもって、A子の頸部を果物ナイフで1回突き刺したが、A子が口から大量の血を吐き出し、呼吸のたびに血が流れ出るのを見て、驚愕すると同時に大変なことをしたと思い、直ちにタオルを頸部に当てて血が吹き出ないようにした上、消防署へ電話して、傷害事件を起こした旨を告げて救急車の派遣と警察への通報を依頼し、到着した救急車にA子を消防署員とともに運び込むなどした結果、A子は病院に搬送されて手術を受け、一命を取り止めた事案です。

 裁判官は、結論的には反省・悔悟の情に犯行をやめたことを犯行をやめた任意性の根拠に置いているものの、中止行為に出た契機が被害者の口から大量の血が吐き出されるのを見て驚愕したことにある点について、

  • こうした外部的事実の表象が契機となっている場合であっても、犯人がその表象によって必ずしも中止行為に出るとは限らない場合にあえて中止行為に出たときは、任意の意思によるものと見るべきである

とし、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

東京地裁判決(平成8年3月28日)

 自宅で妻の左胸部をナイフで3、4回突き刺すなどしたが、出血を見て驚愕するとともに、大変なことをしてしまったと悔悟し、直ちに119番通報するなどして救助を依頼し、医師らをして救命措置を講じさせたという事案です。

 裁判官は、 出血を見て驚愕すると同時に、大変なことをしてしまったと悔悟する中、自ら結果の発生を阻止する行為をしたのと同視し得る真摯な努力を払ったことに対し、中止の任意性を認め、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

被害者の言動等により犯行を止めた事案につき中止未遂を認めた事例

 被害者の言動等により犯行を止めた事案につき中止未遂を認めた事例として、以下のものがあります。

横浜地裁判決(平成10年3月30日)

 無理心中をしようと、包丁で長男を刺した際、長男が発した言葉に犯意を喪失して犯行を止めた被告人について、中止未遂の成立を認めた事例です。

 裁判官は、

  • 被告人は、登校拒否と家庭内暴力を繰り返す長男Bの将来を悲観して、Bを殺害した上、自殺しようと決意し、所携の包丁で、数回、Bの前胸部、左側胸部、左腰部等を目掛けて突き刺すなどしたが、手に伝わった被害者の血のぬくもりに驚愕するとともに、Bが「ごめん、母さん。」と謝りの言葉を言ったことでその犯意を喪失し、攻撃を中止した上、119番通報して被害者を病院に搬送等したため、Bに入院加療約14日間を要する胸腹腰部刺創の傷害を負わせたに止まり、殺害の目的を遂げなかったものである

と事実を認定し、中止の任意性を認め、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

札幌高裁判決(平成13年5月10日)

 殺意を持って被害女性Cの胸部を突き刺したが、Cの言動を契機に、Cを病院に搬送し救命措置を講じさせた事案につき、殺人の中止未遂を認めた事例です。

 裁判官は、

  • 被告人は、被害女性Cの、店をやめるとか被告人のことが好きだったとかいう言葉に触発されて心を動かされたものてはあるが、苦しい息の中で一生懸命訴え続けているCに対する憐憫の気持ちなども加わって、あれこれ迷いつつも、最後には無理心中しようなどという思いを吹っ切り、Cの命を助けようと決断したと解されるのてあって、このような事情を総合考慮すると、被告人は自らの意志で犯行を中止したものと認めるのが相当である
  • そして、Cの負った傷害の程度は、相当に重篤なものであり、そのまま放置すれば死亡するに至るほどのものであったと推察されるところ、被告人がそれ以上の攻撃を行わず、Cを病院に搬送し、医療措置を可能としたことにより一命をとりとめることができたものと認められるから、本件殺人未遂については中止未遂が成立するというべきである

と判示し、中止の任意性を認め、殺人未遂罪の中止未遂を認定しました。

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