前回の記事の続きです。
放火罪(現住建造物等放火罪:刑法108条、非現住建造物等放火罪:刑法109条)と
との関係を説明します。
この記事では、「放火罪」とは、現住建造物等放火罪(刑法108条)と非現住建造物等放火罪(刑法109条)の両罪を指します。
①内乱罪との関係
なので、内乱罪の実行行為の一環として行われた放火行為は、内乱罪に吸収され、内乱罪のみが成立し、放火罪は成立しません。
ただし、暴動の機会に集団行動とは無関係になされた放火は、内乱罪とは別罪として放火罪が成立し、両罪は併合罪となる場合があります。
②公務執行妨害罪との関係
公務員の職務の執行を妨害する目的で放火に及んだ場合、通常は公務員に対する暴行、脅迫行為と放火行為とは別個で、保護法益も異なるため、公務執行妨害罪(刑法95条1項)と現住建造物等放火罪は併合罪の関係になると考えられます。
③騒乱罪との関係
多数人の合同力による暴行の方法として放火行為がなされた場合、放火罪と騒乱罪(刑法106条)とは観念的競合(刑法54条1項前段)の関係になります。
参考となる以下の裁判例があります。
東京地裁判決(昭和52年9月13日)新宿騒乱事件
新宿駅内外を埋め尽くした極めて多数の学生、群衆が、新宿駅とその周辺地域一体において、警察部隊に投石したり、鉄塀、映画看板、電車を破壊したり、駅構内に侵入して占拠したり、駅舎・テレビ車に放火するなどした事案です。
裁判官は、
- 被告人Aの判示各所為中、騒乱助勢の点は刑法106条2号に、公務執行妨害の点は同法95条1項、60条に、現住建造物放火の点は同法108条、60条に、威力業務妨害の点は同法234条、 233条、60条、罰金等臨時措置法3条1項1号に各該当するところ、右は1個の行為で4個の罪名に触れる場合であるから、刑法54条1項前段、10条により一罪として最も重い現住建造物放火罪の刑で処断する
と判示しました。
なお、多数人によって騒乱罪が犯されるに際し、その機会を利用して集団行動と関係なく放火した場合は、放火罪と騒乱罪とは併合罪の関係になります。
④住居侵入罪との関係
住居に侵入した上で放火した場合、住居侵入行為と放火は、手段と結果の関係にあるので、住居侵入罪(刑法130条)と放火罪とは、牽連犯(刑法54条後段)の関係になります。
参考となる以下の判例があります。
大審院判決(昭和5年11月22日)
裁判官は、
- 住居に侵入して放火を為したる行為は、刑法第54条にいわゆる手段結果の関係あるものとす
と判示しました。
大審院判決(明治43年2月28日)
裁判官は、
- 住宅侵入の行為は、放火の目的をもってこれをなしたる場合といえども、放火行為の一部を成すものにあらずじて全然別異の犯罪行為なりとす
- これを放火未遂の手段にして刑法第130条に該当するものとなし、同法54条を適用処分したるは擬律の錯誤にあらず
と判示しました。
⑤死体損壊罪との関係
建造物内において人を殺害した上、犯跡を隠す目的で放火した場合、死体損壊の行為は保護法益を異にするから、死体損壊罪(刑法190条)は放火罪には吸収されず、両罪は観念的競合(1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合)となります。
参考となる以下の判例があります。
大審院判決(大正12年8月21日)
裁判官は、
- 放火罪と死体損壊罪とは、その性質を異にするをもって、放火行為により死体を損壊したるときは、1個の行為にして2個の罪名に触れるものとす
と判示しました。
次回の記事に続く
次回の記事では、放火罪(現住建造物等放火罪:刑法108条、非現住建造物等放火罪:刑法109条)と
との関係を説明します。