前回の記事の続きです。
この記事では、営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪(刑法225条)を「本罪」といって説明します。
他罪との関係
この記事では、本罪と
- 強制わいせつ罪(現行法:不同意わいせつ罪、刑法176条)
- 殺人罪(刑法199条)・傷害罪(刑法204条)
- 恐喝罪(刑法249条)
- 職業安定法違反(同法63条2号の罪、同法32条1項違反)
- 拐取者身の代金要求罪(刑法225条の2第2項)
- 暴行罪(刑法208条)・脅迫罪(刑法222条)
- 逮捕罪・監禁罪(刑法220条)
- 遺棄罪(刑法217条)
との関係を説明します。
わいせつの目的で被害者を誘い出し、その場で強制わいせつ行為をした場合は、本罪と強制わいせつ罪との牽連犯になる
わいせつの目的で被害者を誘い出し、その場で強制わいせつ行為をした場合は、本罪と強制わいせつ罪との牽連犯になります。
東京高裁判決(昭和45年12月3日)
わいせつ誘拐罪と強制わいせつ罪(現行法:不同意わいせつ罪)とが牽連犯(刑法54条1項後段)の関係にあるとした判決です。
裁判所は、
- わいせつ誘拐と強制わいせつとは通常手段、結果の関係にあり、従って刑法第54条第1項後段で規定する牽連犯の関係にあるものと解せられる
と判示しました。
殺人又は傷害の目的で本罪を行った者が被拐取者を殺害し又は傷害を与えた場合には、本罪と殺人罪又は傷害罪とは牽連犯になる
殺人又は傷害の目的で本罪を行った者が被拐取者を殺害し又は傷害を与えた場合には、本罪と殺人罪又は傷害罪とは牽連犯になります。
営利の目的で人を誘拐し、被誘拐者を利用して第三者を欺罔し、財物をだまし取った場合は、本罪と詐欺罪との併合罪になる
営利の目的で人を誘拐し、被誘拐者を利用して第三者を欺罔し、財物をだまし取った場合は、本罪と詐欺罪との併合罪になります。
この点を判示した以下の判例があります。
大審院判決(大正14年4月11日)
裁判所、
と判示し、営利誘拐罪と詐欺罪とが併合罪の関係になるとしました。
大審院判決(昭和17年1月30日)
営利の目的で女性を誘拐した者が、同女に対し、前借りがない旨の返り証を交付するとだまして、同女名義の金員連帯借用・契約証書と給仕女営業に従事する旨の承諾書面各1通をだましとった事案で、営利略取罪と詐欺罪とは併合罪になるとしました。
裁判所は、
- 営利の目的をもって婦女を誘拐したる者が、これに関し、人を欺罔して財物を騙取したるときは、誘拐罪のほかに詐欺罪の成立あるものとす
と判示しました。
営利誘拐と恐喝又は恐喝未遂との関係は、併合罪となる
営利誘拐と恐喝又は恐喝未遂との関係は、牽連犯ではなく併合罪となります。
この点を判示した以下の裁判例があります。
大阪高裁判決(昭和36年3月27日)
裁判所は、
- 営利誘拐の行為と恐喝ないし恐喝未遂の行為の間に通例手段結果の関係があるとはいえないこと明らかであるから、原判示第一の営利誘拐の行為と原判示第ニの恐喝未遂の行為との間に事実上手段結果の関係があったとしても、牽連犯をもって論ずる余地なく、原審が併合罪として処断したのは正当である
と判示しました。
特殊飲食店に住み込ませ前借金を取る目的で誘拐し、特殊飲食店の従業婦に斡旋した場合は、本罪と職業安定法63条2号違反との併合罪となる
特殊飲食店に住み込ませ前借金を取る目的で誘拐し、特殊飲食店の従業婦に斡旋した場合は、本罪と職業安定法63条2号違反との併合罪となります。
職業安定法63条2号は、
公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供若しくは労働者の供給を行い、又はこれらに従事したとき、その違反行為をした者を1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する
とする規定です。
営利の目的で略取・誘拐した者を利用して有料の職業紹介をした場合は、本罪と職業安定法32条1項違反の罪との併合罪となる
営利の目的で略取・誘拐した者を利用して有料の職業紹介をした場合は、本罪と職業安定法32条1項違反の罪との併合罪となります。
職業安定法30条1項は、
- 有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない
と規定し、同法64条1号で
- その違反行為をした者を1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する
と規定します。
この点を判示した以下の判例があります。
東京高裁判決(昭和31年5月26日)
裁判所は、
- 刑法第225条の営利誘拐罪は営利の目的をもって欺罔または誘惑により他人を自己の実力的支配内に置いたときに完成し、営利の目的を遂げたか否かは同罪の成立に消長を来たすものではない
- 従って、被誘拐者を利用して有料の職業紹介事業を行った場合には、営利誘拐罪のほか別に職業安定法第32条第1項本文違反の罪が成立するものといわなければならない
- それゆえ原判決か被告人の各所為を右両者の併合罪として処断したのは正当である
と判示しました。
営利目的で人を略取した者が拐取者身の代金要求罪を犯した場合、両罪は併合罪になる
営利目的で人を略取した者が、拐取者身の代金要求罪(刑法225条の2第2項)を犯した場合、両罪は併合罪になります。
この点を判示したのが以下の判例です。
裁判所は、
- 営利の目的で人を略取した者がみのしろ金要求罪を犯した場合には、右両罪は、併合罪の関係にある
と判示しました。
略取の手段として行われた暴行・脅迫と暴行罪・脅迫罪の関係
略取の手段として行われた暴行・脅迫は、略取罪に吸収され、暴行罪・脅迫罪は成立しません。
略取の手段として行われた逮捕・監禁と逮捕罪・監禁罪の関係
略取の手段として逮捕・監禁が行われた場合における「略取罪」と「逮捕罪・監禁罪」との関係については、吸収説、観念的競合説、牽連犯説、併合罪説に分かれています。
学説の見解として、
- 逮捕によって拐取が行なわれたような場合であれ、拐取の後に監禁が行なわれたような場合であれ、社会生活上の観念に従って、「継続」した一連の犯行と評価しうる場合は、観念的競合を認めるべきであり、場所的・時間的懸隔、犯行態様の変化などが著しい場合(たとえば、「拐取」後の「監禁」を、数日後、さらに脱出困難な場所に移して「強化」するような場合)には、併合罪ないしは牽連犯を考えるべきである
- 略取・誘拐が同時に逮捕・監禁となる場合は想像的競合となり、両者が手段・結果の関係に立つときは牽連関係があり得るものと解する
とするものがあります。
裁判例では、以下のものがあります。
大阪高裁判決(昭和53年7月28日)
身の代金要求罪(刑法225条の2第2項)と監禁罪との関係を併合罪とするとともに、営利略取罪を継続犯だとして、監禁を手段として営利略取が行われた場合、監禁罪と営利略取罪が成立し、両罪は観念的競合の関係に立つとしました。
略取・誘拐に引き続く逮捕・監禁と逮捕罪・監禁罪の関係
略取・誘拐に引き続く逮捕・監禁と逮捕罪・監禁罪の関係についても、吸収説、観念的競合説、牽連犯説、併合罪説に分かれています。
学説では、
- 略取・誘拐罪が継統犯の性質を有する場合には、略取・誘拐罪と監禁罪との観念的競合認めるべきである
- 略取・誘拐罪が状態犯の性質を有する場合には、両罪の牽連犯を認めるべきである
とする見解があります。
判例では、以下のものがあります。
裁判所は、
- みのしろ金取得の目的で人を拐取した者が、更に被拐取者を監禁し、その間にみのしろ金を要求した場合には、みのしろ金目的拐取罪(刑法225条の2第1項)とみのしろ金要求罪(刑法225条の2第2項)とは牽連犯の関係に、以上の各罪と監禁罪とは併合罪の関係にあると解するのが相当である
と判示し、身の代金略取・誘拐の後に監禁が行われた場合、身の代金略取・誘拐罪と監禁罪とが併合罪の関係にあることを明言しました。
略取・誘拐罪と遣棄罪との関係
略取・誘拐罪と遺棄罪(刑法217条)との関係については、牽連犯説と併合罪説とに分かれています。