刑法論文(18)~令和4年司法予備試験の刑法論文問題から学ぶ~
令和4年司法予備試験の刑法論文問題から学ぶ
令和4年司法予備試験の刑法論文問題の答案を作成してみました。
この論文からは以下のテーマが学べます。
2⃣ 事後強盗罪(刑法238条)
- 事後強盗の未遂と既遂を分ける基準
- 事後強盗罪が成立するためには、①窃盗と暴行・脅迫との間に密接な関連性があること、②暴行・脅迫が窃盗の機会の継続中に行われたものであることが要件となる
- 事後強盗罪における暴行・脅迫は、強盗罪における暴行・脅迫と同じく、相手の反抗を抑圧するに足るものである必要がある
問題
以下の【事例1】及び【事例2】を読んで、後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例1】
1 甲(35歳、女性)は、A市内のアパートにおいて、長男X(13歳)及び長女Y(6歳)と3人で暮らしていた。
2 某月1日、甲は、Yと共に、Bが店長を務める大型スーパーマーケットC店に入り、果物コーナーを歩いていた際、陳列棚に置かれていた1房3000円の高級ブドウを手に取ってYに見せながら、「あんた、これ好きでしょ。」などと話したが、高額であったことから、Yの眼前でそのまま陳列棚に戻した。その後、甲は、何も買わずに店を出たが、Yに上記ブドウを万引きさせようと考え、C店の前において、Yに対し、「さっきのブドウを持ってきて。ママはここで待っているから、1人で行ってきて。お金を払わずにこっそりとね。」と言った。それを聞いたYは、ちゅうちょしたが、甲から「いいから早く行きなさい。」と強い口調で言われたために怖くなり、甲の指示に従うことを決め、「分かった。」と言って、甲から渡された買物袋を持って1人でC店に入っていった。Yは、約10分間掛けて店内を探したが、果物コーナーの場所が分からず、そのまま何もとらずに店を出た。甲は、上記ブドウの入手を諦め、Yと共に帰宅した。
3 同月5日、甲は、自宅において、Xに対し、「今晩、ステーキ食べたいね。C店においしそうなステーキ用の牛肉があったから、とってきてよ。」と言った。甲は、Xが「万引きなんて嫌だよ。」などと言ってこれを断ったため、「あのスーパーは監視が甘いから見付からないよ。見付かっても、あんたは足が速いから大丈夫。」などと言って説得したところ、Xは、渋々これに応じることとし、「分かった。」と言った。甲は、「一番高い3000円くらいのやつを2パックとってきて。午後3時頃に警備員が休憩に入るらしいから、その頃が狙い目だよ。」などと言い、商品を隠し入れるためのエコバッグをXに手渡した。Xは、同日午後3時頃、上記エコバッグを持ってC店に入り、精肉コーナーにおいて、1パック3000円のステーキ用牛肉を見付け、どうせなら多い方がいいだろうと考えて5パックを手に取り、誰にも見られていないことを確認した上で同エコバッグに入れた。Xは、そのまま店を出ようと考えて出入口付近に差し掛かったところ、同所にあった雑誌コーナーにXの好きなアイドルの写真集(販売価格3000円)を見付けてにわかにこれが欲しくなり、同写真集1冊を手に取ったまま、いずれも精算することなく店外に持ち出した。Xは、帰宅し、上記写真集を自分の部屋に置いた後、牛肉5パックが入った上記エコバッグを甲に渡した。甲は、「こんなにとってきてどうすんのよ。」などと言いつつこれを受け取り、同日以降、X及びYと共にこれらの牛肉を全て食べた。
〔設問1〕
【事例1】における甲の罪責について、論じなさい(建造物侵入罪及び特別法違反の点は除く。)。
【事例2】
(【事例1】の事実に続けて、以下の事実があったものとする。)
4 同月10日、甲は、自転車に乗って1人で、Dが店長を務めるホームセンターE店に行った際、陳列されていた液晶テレビ(50センチメートル×40センチメートル×15センチメートルの箱に入ったもの)を、自宅で使う目的で万引きしようと考え、E店内で、同液晶テレビ1箱を手に取って自己のトートバッグに入れた。甲は、上記箱を上記トートバッグ内に収めて店外へ持ち出すつもりでいたが、箱が大きすぎてその上部が10センチメートルほど同トートバッグからはみ出した状態になった。甲は、その状態のまま出入口方向へ歩き出そうとしたが、その一部始終を警備員F(35歳、女性)に目撃されていた。Fは、甲が液晶テレビを精算せずに店外へ持ち出そうとしていると考え、約20メートル離れた場所から甲の方へ歩いて向かったところ、周囲を見回していた甲も、Fがこちらを見ながら向かってきていることに気付いて万引きがばれたと思い、上記箱を陳列棚に戻した。そして、甲は、その場から走って逃げ出し、E店を出てから約3分後、E店から約400メートル離れた公園にたどり着き、同所でE店から追ってくる人がいないかどうかをうかがっていた。甲は、約10分間、上記公園にとどまっていたが、誰も追ってこなかったことから、E店に隣接する駐輪場にとめたままにしていた自己の自転車を取りに戻ろうと考え、それから約5分後、同駐輪場に戻ってきて、周囲の様子をうかがいつつ同自転車に近づこうとした。Fは、戻ってきた甲に気付き、上記駐輪場に飛び出し、甲を捕まえようと思って、「この万引き犯。逃げるんじゃない。」などと言いながら、両手を左右に広げて甲の前に立ち塞がった。そのため、甲は、逮捕を免れようと考え、両手でFの胸部を1回押したところ、Fが体勢を崩して尻餅を付いた。そこで、甲は、その隙に上記自転車に乗ってその場から逃走した。
〔設問2〕
【事例2】における甲の罪責に関し、事後強盗既遂罪(刑法第238条)の成立を否定するためにはどのような主張があり得るか。考えられるものを3つ挙げ、その3つの主張の論拠を、それぞれ具体的な事実を明示して、説明しなさい。
答案
設問1
第1 甲がYにブドウの万引きを命じた行為に、窃盗未遂罪(刑法243条、235条)の間接正犯が成立しないか。
1 甲は、自ら窃盗罪の実行行為を行おうとせず、6歳の娘であるYを使って窃盗罪を実現しようとしているので、間接正犯の成否が問題となる。
⑴ 間接正犯とは、人を道具として使って犯罪を実行することをいう。
間接正犯で利用される「道具として使われる他人」として、「善悪の判断ができない子ども」や「脅されるなどして、意志を抑圧されている者」が挙げられる。
Yは6歳であり、犯罪の意味を理解し、是非善悪を弁識できる能力がない者と認められることから、「善悪の判断ができない子ども」に当たる。
また、Yは、甲から「いいから早く行きなさい。」と強い口調でC店からブドウを持ってくるように言われたため怖くなり、甲の指示に従うことに決めていることから、「脅されるなどして、意志を抑圧されている人」にも当たる。
よって、Yは、間接正犯で利用される「道具として使われる他人」に当たる。
⑵ 「他人の財物」とは、犯人以外の者が占有・所有する財物をいう。
「占有」とは、人が財物を事実上支配し、管理する状態をいう。
ブドウは、C店店長等が管理するものであり、「他人の財物」に当たる。
⑶ 不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様に、その経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思をいう。
甲は、ブドウをYに万引きさせて自己の物にしようとしているので、不法領得の意思が認められる。
⑷ 「故意」とは、犯罪事実の認識・容認をいう。
甲は、Yを使って万引きをする意思なので、窃盗罪の故意が認められる
⑸ もっとも、窃盗罪の実行の着手が認められるか。
「実行の着手」は、実行行為を行い、法益侵害(構成要件的結果)の現実的危険が発生した時点で認められる。
法益侵害の現実的危険のある行為の開始をもって、実行の着手が認められるので、この時点で未遂罪(刑法43条本文)の成立が認められる。
これは、法益侵害の現実的危険が発生すれば、犯罪の結果が発生していなくても、当該行為を未遂罪として処罰する価値が生まれるためである。
窃盗罪の「実行の着手」は、物品を物色するなど、窃取しようとする物に対する事実上の支配を侵す密接な行為をした時点で認められると解する。
この時点で、法益侵害の現実的危険が発生し、窃盗未遂罪が成立すると解する。
間接正犯においては、被利用者の行為を基準とし、実行の着手が判断される。
なぜならば、間接正犯は、被利用者の行為を利用して自己の犯罪を実現する犯罪類型であるためである。
Yは、6歳であり、果物コーナーの場所すら分からなかったのであり、ブドウを手に取るなどのブドウに対するC店店長等の事実上の支配を犯す密接な行為を行っていない。
よって、Yは、法益侵害の現実的危険を発生させる行為をしておらず、窃盗罪の実行の着手が認められないので、窃盗未遂罪は成立しない。
2 以上より、甲に窃盗未遂罪の間接正犯は成立しない。
第2 甲がXにブドウの万引きを命じた行為に、窃盗罪の間接正犯又は共同正犯(刑法60条)が成立しないか。
1 まず、窃盗罪の間接正犯が成立しないか。
⑴ 間接正犯で利用される「道具として使われる他人」とは、「善悪の判断ができない子ども」や「脅されるなどして、意志を抑圧されている者」が挙げられるところ、Xは13歳であり、犯罪の意味を理解し、是非善悪の弁識ができる者であり、「善悪の判断ができない子ども」には当たらない。
また、Xは、甲に万引きをすることを説得されて渋々応じており、甲の指示はXの意思を抑圧するに足る程度のものではないことから、「脅されるなどして、意思を抑圧されている者」にも当たらない。
よって、甲は、間接正犯で利用される「道具として使われる他人」に当たらない。
⑵ Xは、甲から牛肉2パックの万引きを命じられたところ、「どうせなら多い方がいいだろう」と考えて牛肉5パックを万引きした上、たまたま目に入った写真集がほしくなり、それも万引きしている。
よって、Xは、自らの意思により窃盗の実行を決意した上、臨機応変に対処して窃盗を完遂したことが認められる。
よって、Xの窃盗の実行行為は、甲に道具として使われて犯罪を実行したものではない。
⑶ したがって、甲に窃盗罪の間接正犯は成立しない。
2 では、窃盗罪の共同正犯が成立しないか。
⑴ 甲は窃盗罪の実行行為を行っていないことから、共謀共同正犯の成否が問題となる。
共謀共同正犯とは、共謀はあるが、犯罪の実行行為の分担がない場合の共同正犯をいう。
共謀共同正犯が成立するには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって、互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする意思を持って謀議をなし、犯罪を実行した事実があることが必要である。
上記の各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、共同正犯の刑責を負う。
まず、甲とXに共謀が成立するか。
「共謀」とは、正犯意思をもって、相互的意思連絡を形成することをいう。
甲は、Xに、「C店においしそうなステーキ用の牛肉があったら、とってきてよ。」と命じ、Xは嫌がっていたものの、甲の説得の末、これに渋々応じていることから、相互的意思連絡が形成されている。
甲は、「今晩、ステーキを食べたい」という目的の下に犯行をXに持ち掛けており、積極性が認められ、正犯意思が認められる。
よって、共謀の成立が認められる。
次に、共謀に基づく甲の実行行為が認められるか。
甲が命じたのは牛肉2パックの万引きであったが、Xは牛肉5パックと写真集を万引きしていることから、共謀に基づく実行行為であったといえるかが問題となる。
共謀と実行行為との因果性が認められるか。
牛肉5パックと写真集は、甲との共謀によりC店に入店した中で犯意を生じて万引きしたものであり、甲に命じられた牛肉2パックの万引きと時間的・場所的に接近しており、甲との共謀と実行行為との因果性が認められるため、甲との共謀に基づく行為といえる。
よって、Xが窃取した全ての物に甲との共謀に基づく実行行為があったといえる。
よって、甲とXに窃盗罪の共同正犯の成立が認められる。
⑵ 「他人の財物」とは、犯人以外の者が占有・所有する財物をいうところ、本件牛肉5パックと写真集は、C店店長等が管理するものであり、「他人の財物」に当たる。
⑶ 「窃取」とは、目的物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、その物を自己または第三者の占有に移すことをいうところ、Xは、本件牛肉5パックと写真集をエコバックに入れて店外に持ち出しているので、「窃取」に当たる。
⑷ 不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様に、その経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思をいうところ、牛肉については自己費消目的、写真集については自己利用目的であるので、不法領得の意思が認められる。
⑸ 「故意」とは、犯罪事実の認識・容認をいうところ、Xについては、万引きをする意思で牛肉5パック及び写真集を窃取しているので、窃盗罪の故意が認められる
もっとも、甲については、牛肉2パックを万引きする故意なので、それ以外の物については故意が認められないのではないか。
故意責任の本質は、規範に直面し、犯行を思いとどまるという反対動機を形成できる状況にありながら、あえて犯罪行為に及んだことに対する道義的非難にあるから、規範は構成要件として示されているため、主観と客観が同一構成要件内で付合していれば、故意が認められると解する。
甲の主観と客観は、窃盗罪の範囲で付合しているため、被害品全てについて故意が認められる。
⑹ 甲は13歳の刑事未成年者(刑法41条)であるから、責任が阻却され、窃盗罪が成立しない。
もっとも、上記故意責任の本質に照らし、共犯者の責任阻却事由は、他の共犯者に連帯しないと解するため、Xに窃盗罪の責任が阻却される事由は甲に影響しない。
3 以上より、甲に窃盗罪のXとの共同正犯が成立する。
設問2
甲に事後強盗既遂罪(刑法238条)の成立を否定する主張として、①先行する窃盗罪が未遂であること、②暴行が窃盗の機会に行われていないこと、③暴行が事後強盗罪における「暴行」に当たらないことが挙げられる。
1 ①「先行する窃盗罪が未遂であること」について
事後強盗の未遂と既遂を分ける基準は、強盗罪(刑法236条)の未遂と既遂を分ける基準と同じく、窃盗犯人が財物を窃取したかどうか、つまり、窃盗が既遂か未遂かという点による。
なぜならば、事後強盗罪は、財物を窃取した後に暴行・脅迫を行った点に強盗罪との行為の違いがあるだけであり(強盗罪は財物を奪取している最中に暴行・脅迫を行う)、反社会性と可罰的違法性は、強盗罪と大差がないためである。
よって、窃盗未遂を行った犯人が事後強盗を行った場合は、事後強盗未遂罪が成立する。
甲は、液晶テレビ1箱を自己のトートバッグの中に入れている。
「占有」とは、人が財物を事実上支配し、管理する状態をいうところ、同箱は大きすぎて、上部が10センチメートルほどはみ出していることから、外部からその存在が視認できる状態にあり、甲が同箱を完全に支配したとはいえない。
「窃取」とは、目的物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、その物を自己又は第三者の占有に移すことをいうところ、かかる状況においては、甲がE店から退店したときに、甲は同箱の占有を自己の支配下に移したといえ、「窃取した」と認めることができると解する。
しかし、甲は本件箱を陳列棚に戻してE店から退店しているので、本件箱の占有は甲に移転していない。
よって、先行の窃盗罪は未遂にとどまる。
したがって、事後強盗既遂罪は成立しない。
2 ②「暴行が窃盗の機会に行われていないこと」について
事後強盗罪が成立するためには、①窃盗と暴行・脅迫との間に密接な関連性があること、②暴行・脅迫が窃盗の機会の継続中に行われたものであることが要件となる。
強盗罪における「暴行・脅迫」は、被害者等の犯行抑圧状態の形成に向けられる必要があることとの均衡から、事後強盗罪の「暴行・脅迫」も、窃盗の機会の継続中に行われる必要がある。
そして、その窃盗の機会継続中に、暴行・脅迫が行われたか否かについては、①窃盗行為と暴行・脅迫の時間的・場所的接着性、②被害者等からの追及可能性を考慮して、直ちに財物を取り返されたり、逮捕される可能性が残されているなどの状況の下で、暴行・脅迫が行われたかどうかにより判断すべきと解する。
甲の窃盗の実行行為とFに対する暴行行為は、甲がE店、E店から約400メートル離れた公園、E店に隣接する駐車場と順次移動した後に、甲がE店から出てから約18分後に行われており、場所的・時間的に接着しているとはいえない。
また、甲は、E店を離れた後、E店から約400メートル離れた公園に約10分間とどまり、E店から追ってくる人がいないことを確認しているため、甲は一度安全圏内に脱したと認められ、直ちに財物を取り返されたり、逮捕される可能性はなくなっていた。
よって、甲のFに対する暴行は、窃盗の機会に行われたものとはいえない。
したがって、事後強盗既遂罪は成立しない。
3 ③「暴行が事後強盗罪における「暴行」に当たらないこと」について
事後強盗罪における暴行・脅迫は、強盗罪における暴行・脅迫と同じく、相手の反抗を抑圧するに足るものである必要がある。
事後強盗罪は、①強盗罪と同程度の危険性のあるものであること、②その反社会性において強盗罪と同等であること、③強盗罪と刑法上同じものとして取り扱おうとして設けられていることから、事後強盗罪における暴行・脅迫も、強盗罪における暴行・脅迫と同程度のものであることが求められる。
甲のFに対する暴行は、Fの胸を1回押して態勢を崩させて尻餅を付かせたというものに過ぎない。
また、甲とFは同じ年齢の女性であり、Fは警備員を職業にしているものであることに鑑みると、甲の暴行は、財物を取り返そうとするFの犯行を抑圧する程度の暴行であるとはいえず、事後強盗罪における「暴行」に当たらない。
よって、事後強盗既遂罪は成立しない。
4 以上より、事後強盗罪の成立は否定される。